第25話 最後の剣技

「だが、俺の【星穿ち】級の破壊力が無ければ、雨の魔女の剣に防がれてしまう。かといって、【星穿ち】は武器の使い捨てを前提とした一回限りの攻撃。連撃は不可能だ」


 確かにその通りだ。どうする?


「私を使ってください!」


 ヴィヴァーチェが名乗り出る。


 確かに、魔剣なうえ二千年間錆びなかったヴィヴァーチェなら、【星穿ち】に耐えられるかもしれない。だが、危険すぎる。


「却下だ。もしお前が消し飛んでしまったらどうするつもりだ?」


「ハハッ。アレス様はお優しいですね。でも私、二千年間も封印されていて、寂しかったんです。そんな私を外に連れ出して、名前で呼んでくれただけでも嬉しいんです。所詮私は、呪いを生み出した、人殺しの剣ですから」


「ヴィヴァーチェ。お前まさか本当に……」


「そうです。私はかつてこの地に存在した村、ルーライ村の村長、アドラメレクの所有する剣でした。大規模な干ばつが村を襲った時、生贄に選ばれた少女を殺すのに使われました」


 つまり、その少女がセーレだったというわけか。


「怨霊となった彼女を終わらせてあげられるのは私だけなのです! だからどうか!」


 俺は正直言うと、ヴィヴァーチェを失いたくはない。だが、呪いの連鎖はここで断ち切らねばならない。


「分かった。ヴィヴァーチェ。俺はお前を使ってセーレを倒す。力を貸してくれ!」


「アレス様のためなら、当然です!」


 剣に変身したヴィヴァーチェを握る。ずっしり重いが、十八年をルーラオム家で過ごした俺に振れないわけがない。


「【星穿ち・参の段】」


 メドロックのスキルで、ヴィヴァーチェの刀身を深紅の光が覆う。


 ここで決めるしかない。一瞬で。


「小細工を弄したところで変わらないぞ。人間。私を使って雨を降らそうとしたんだろ? そんなに雨が欲しいなら、世界が沈むまで雨を降らせてやるよ!」


「させない! さっさと成仏しやがれ! 亡霊が!」


 俺は床を蹴り、全速力で突っ込む。


「【絶対零度】」


 セーレが呟くと、急に気温が下がった。何をする気だ?


「私の支配下にある雨粒全てから熱を奪ってきた。さて、その熱はどこへいったと思う?」


 熱を一点集中させて放出する気か。


「【崩閃】」


「剣技【風雪岩砕】」


 レイカさんの剣技を見よう見まねで発動し、俺は熱線の軌道をずらした。アダマンタイト製の壁をぶち抜き、熱線はどこまでも飛んでいく。


 隙はできた。


 全ての雨粒の熱量を操作していたのだ。かなりの集中力が必要だったはず。


 つまり、その直後たる今なら行ける!


「剣技【瞬霞春嵐】」


【星穿ち】の真紅の光を纏った状態で、高速の剣技を繰り出す。


 一撃でセーレの剣は破壊され、二撃、三撃と重ねるうちにセーレの身体はだんだん薄くなっていく。斬っても血が出ない。どうやら本当に怨霊のようだ。


「フッ、私を最後に消し去るのは、やはりルーラオム家の男だったか」


「知らねぇよ、そんなこと。とにかく、お前はここで終わりだ!」


 最後の一振りで、雨の魔女は完全に霧消した。


 やっと終わりだな。

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