第19話 謎多き魔女

 女は衝撃的な言葉を口走った。


【雨の魔女】を名乗る狂人か、はたまた本物か。分からないが、この【エアリアル・フォートレス】に侵入できている時点で、ただ者ではない。


「レイカさん……」


 俺は助太刀するつもりで剣の柄に手をかける。


「下手に抜くな、アレスくん。私が話す」


 レイカさんはセーレのもとへ歩み寄っていく。


「賢明な判断だ。レイカ・タニガワ。噂に違わず、頭の切れも一流だな」


「御託はいい。何しに来た?」


「魔王アドラメレクは私の友人でね。彼の領土を侵さないでほしい。いいだろう?」


 セーレの言葉には、有無を言わさぬ凄みがあった。正直なところ、俺は今にも卒倒しそうだ。


「分かった。だがお前はここで殺す。【雨の魔女】。お前は千年後、世界中に厄災を起こすからな」


「おやおや」


 セーレは困ったように笑った。


「まだ犯してもいない罪で裁かれなくちゃならないのかい? それはあまりにも横暴が過ぎる」


「黙れ。ならばなぜ魔王に手を貸す?」


「私の友人たちの命を救ってくれたんでね。恩人なんだよ。アドラメレクは。もっとも、」


 セーレは不気味な笑みを浮かべた。


「彼自身は私に殺されたがっているようだが」


 何なんだ?


 アドラメレクとセーレの間には過去、何があったんだ?


 どういう関係性なのかさっぱり分からない。


 謎だらけだ。


「しかし奇遇だな。歴史が動くタイミングには、必ずと言っていいほどルーラオム家の人間が現れる。一体何なんだ? お前たちは? 千年前のモーゼス・ルーラオムといい、なぜ私の邪魔ばかりする?」


 言っている意味が分からない。なぜ俺の先祖の名前を知っている?


 だが口ぶりからして、千年前から生きているのは間違いなさそうだ。


「まぁ、殺してしまえばいいだけの話か」


 刹那、火花が散る。


 眼前にはレイカさんの背中があった。


 どうやら俺の首に迫ったセーレの剣を防いでくれたらしい。


 だが、反応できなかった。俺はこれでもかなり鍛えてきた方だ。それなのに、目で追うことすらできなかったというのか?


「剣技【風雪岩砕】」


「おっと」


 セーレは身を翻し、とっさに距離を取る。


「その技、相手の武器の刀身を破壊するものだな?」


 セーレは愉しげに笑う。次いで五連撃を放つ。


 レイカさんは全て防いだが、壁際まで吹っ飛ばされていた。


「1000年生きて、ようやく私に比肩するほどの剣技に出会えるとはな。これだから人生は面白い!」


 セーレの攻撃は苛烈さを増す。レイカさんは必死に捌いているが、もう飽和状態だ。


 加勢しようにも、俺の剣技程度では逆に足手纏いになる。


 かといって下手に建物でも召喚すれば、レイカさんも下敷きになる。そのうえ空中要塞も壊れてしまう。


どうすればいいんだ。

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