第16話 今さら戻って来いだと?
「随分とお仲間が出来たようだな。良かったじゃないか。ゴミ同士、つるんでいるといい。蛆虫のようにな」
メドロックは懲りずに暴言を吐いてくる。だが俺は、もうその程度では動揺しない。
「俺の仲間を侮辱しないでほしいな。もっとも、お前程度の戯言で傷つく奴など、俺の仲間にはいないだろうがな」
「よく喋るようになったな。アレス。二度と生意気な口を利けないようにしてやる。貸せ」
メドロックは側にいた兵士から、太い槍を奪い取った。
来る。
メドロックの奥義が。
だがこちらも対抗策は用意してある。
「【記憶共有】発動」
【記憶共有】は、ゼストさんのドラゴンを操るスキルの一部だ。ゼストさんは従えたドラゴンと記憶、感覚を共有できる。そして、ゼストさんが許可した人間も、その共有の輪に入ることが出来た。
三日前の実験で分かったことだが。
さっきのゼストさんとの握手で、いつでも発動できる状態にはなっていた。
つまり今、俺はゼストさんを介して、レイカさんの記憶を共有できるようになっている。
「【星穿ち・参の段】」
「【城塞召喚・ヨコハマ要塞】」
俺の周囲を囲うようにして、鈍く銀色に光る城壁が五層、展開された。
次いで、深紅の光を纏った槍が飛んでくる。
だが、千年後の和国のアダマンタイト製要塞は、槍を通さない。人類最強のスキルを纏った槍でさえ防げるようだ。
やがて槍は摩擦熱で溶け、消え去った。
「なんだと? 何が起こっている? お前のスキルはゴミを召喚するものだったはず……」
「違ったようだな。お前の早とちりというわけだ」
存分に悔いるがいい。
俺はメドロックがどんな情けない言葉を口にしても一切同情する気はない。
だが、メドロックは驚くべき言葉を口にした。
「素晴らしい!」
「は?」
「これほどまでに優れた防御力の要塞を構築できるとは! 俺が【王国の矛】なら、アレスは【王国の盾】だな。どうだ? 今から国に戻るつもりはないか?」
何を言っている?
こいつに恥という感情はないのか? あまりにもひどい掌返しだ。この間俺を殺そうとしたことをもう忘れているのか?
「戻るわけがないだろう。俺はもう、いかなる国にも、家にも縛られない」
俺はヨコハマ要塞の一際大きな大砲に駆け寄り、ガラスの石板のようなもので操作する。レイカさんと記憶共有しているおかげで、すぐに操作方法も分かった。大砲はメドロックのいる方向へと向きを変える。
「待て。話を聞け。いや、聞いてください。あなたがいれば王国の軍備はさらに盤石に!」
こいつ、王国に尽くすことしか考えられないのか。
憐れだな。
そのためなら家族とて容赦なく斬り捨てるというわけか。
そんなもの、奴隷と同じだ。公爵家の人間といえど、精神は全く高貴でない。
「俺は全てから自由になる。そのうえでお前は邪魔だ。消えろ」
俺は躊躇なく発射スイッチを押した。
「くっ、【星穿ち】」
スキルを発動したメドロックは、指を弾いて暴風を起こし、弾道を逸らした。もとより当てるつもりはなかったが、少し離れたところに着弾した。
メドロックは衝撃をモロに食らい、気絶した。
側付きの兵士はガクガクと震えている。
「王国に伝えろ。俺は二度と戻らないとな」
「は、はいぃ!」
兵士はメドロックを起こそうともせず、逃げるようにして去っていった。
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