第14話 戦場に散る覚悟

「【城塞召喚】!」


 青い光とともに、灰色の鉄塔が5つ出現した。


 王都の街並みをイメージして使ってみたのだが、やはり未来の街そのものを召喚することはできないようだ。


 このスキルの限界は五棟らしい。


「ほう。高層ビル五棟か。なかなか使いこなしてるじゃないか、アレスくん」


 レイカさんは褒めてくれたが、未だに「コウソウビル」とやらが何なのかは全く分からない。


「でもまだまだです。【星穿ち】をギリギリ防ぐことはできても、攻撃能力がありません」


 現状の攻撃手段は剣しかない。だが、剣技でもやはりメドロックの方が勝る。


「確かに。攻撃の方は要塞でも召喚できない限り難しいね。例えば、和国のヨコハマ要塞はアダマンタイト製で大砲もたくさんついているから、そういうの召喚できるといいんだけどね」


 千年後の和国がどこにあるのかなんて見当もつかない。思い浮かべられないので当然召喚もできないわけだ。


「そろそろ移動するぞ。少年。建物をしまってウラニアに乗り込め」


 ゼストさんに声をかけられ、俺たちは天空竜に飛び乗った。


 雲海を抜けると、巨大な山脈が見えてきた。あれが魔王国と緩衝地帯を区切っているのか。


「ここは厚い雪雲があるんでな。ウラニアでも超えられない。やはり地下のダンジョンを攻略するしかなさそうだな」


「これも雨の魔女関連なのかねぇ。なんにせよ、天候操作までできるとは面倒なスキル持ちだ」


「レイカさんは、本気で雨の魔女を倒すつもりなんですか?」


「そうだよ? 奴が魔王の協力者であることはもはや疑いようのない事実。こうして雪や雨で魔王領を守っているんだからね。それに、私がもといた時代を救うためでもある」


 確か、レイカさんのやって来た千年後の未来では、雨の魔女による異常気象が人々を苦しめているんだったよな。


「君は何のために戦う? アレスくん。まさか実の兄を見返すためとか言わないよな?」


「俺は、自由であり続けるために戦います。国のためとか、家のためとか、ましてや自分の沽券のためとか、そんなもののためには戦いたくない。この世界で自由に生きるためには、潰さなければならない障害がいくつもある。だから戦います」


「その障害とやらの中には君の兄も含まれているんだろう?」


「はい。でも容赦するつもりはありません。次会うときは確実に殺し合いになる。向こうもそのつもりのはずです」


 人類最強を相手取るのだ。正直怖くて仕方ない。


 だが、追放されたことを負い目に感じ、メドロックの影に一生怯えて暮らすくらいなら、俺は迷わず、戦って死ぬことを選ぶ。


「なんだか怖い顔してますよ、アレス様。そんなに思い詰めないでくださいね」


 ヴィヴァーチェは俺のことを心配してくれているようだ。だが俺とてかつてはルーラオム家の一員だった身。戦場で散る覚悟はできている。


「思い詰めてなんかないさ。ただ、覚悟を決めたというだけだ」


「覚悟ですか……でも私は、アレス様と一緒にいたいです! 危なくなったら、私と逃げましょうよ」


 ヴィヴァーチェらしい言い草だな。だが、それはできない。


「大丈夫だ。俺は簡単には死なない。ここ一週間で、だいぶスキルの使い方にも慣れてきた。心配ないよ」


「ならいいんですが……」


 覚悟は決めたというのに、ヴィヴァーチェの不安げな顔を見ると、なんだか心苦しかった。

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