第13話 近づく決戦のとき

「うわあああ! 怖かったです! アレス様ぁ!」


「怪我がなくてよかったが、今後は気を付けてくれ」


「すみません」


 というか、ヴィヴァーチェは剣が元の姿なのだから、変身すれば逃げられたんじゃないか? もはやわざと人質に取られに来たまであるな。


「さて、尋問といこうか。帝国の目的は何だ」


「魔王国進出のための足がかりを手に入れ、カルネス王国の先を行くことだ」


 案外あっさり答えたな。拍子抜けだ。


「分かった。俺のスキルのことを口外しないなら、帰してやる」


「いいのかい? アレスくん?」


 そこへ遅れてレイカさんがやって来た。


「拠点の確保が目的だったみたいです。魔王討伐にあたって邪魔になることはないでしょう。俺でも倒せたんですから。逃がして問題ないと思います」


「だが、【王国の矛】が動くと面倒なことになる」


 確かにそうだ。


 帝国の派遣した調査団が逃げ帰ってきたとなれば、その情報はカルネス王国にも知れ渡る。俺の顔を知っていたくらいだ。両国の機密情報は互いに漏れていると考えて良い。


 そうなれば、メドロックが動くことになるわけだ。


「次は勝ちます。レイカさんの手を借りずとも」


「ほう、随分と自信をつけたようだな。アレスくん。だがメドロックは人類最強といっても過言でないスキル持ちだ。油断するなよ」


「分かっています」


「本当に分かっているのか? まぁ剣技の方は問題ないようだから、【城塞召喚】のスキルの方を使いこなせるように色々実験しておくんだね」


【廃屋召喚】ではなく【城塞召喚】か。


 良い呼び名だ。


「そのつもりです。今は召喚できる建物のストックを増やして、【星穿ち】対策に専念します」


「ならいいんだが」


 レイカさんは心配そうに言い残し、自室へ戻っていった。


 アレスは頭上の三日月を眺める。


「必ずお前を退けて、俺は前に進む。メドロック」


                 ◇

 一方、ルーラオム家では。


「メドロック様。国外逃亡したアレス様の居場所が判明したそうです」


 小間使いから報告を受け、苦笑いするのは、メドロック・ルーラオムであった。


「そうか。生きていたか。あのゴミスキル持ちが」


「何やら緩衝地帯で壮麗な城塞に住んでいたとか」


「ふん、どんなからくりを使ったのかは知らんが、奴にはゴミ屋敷がお似合いだ。魔王領攻略にあたっての拠点の確保、帝国への牽制、そして恥さらしの抹殺のためにも、私が出向く必要がありそうだな」


 メドロックは天を仰ぎ、三日月を見やる。


 影によって欠けて見えるのではない。本当に削り取られているのだ。


 スキル【星穿ち】によって。

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