第10話 千年に一度のスキル
俺が説明を終えると、二人ともがっくりと肩を落とした。
「攻略法は不明なんですね」
「だが由来? のようなものは分かったな。雨乞いのために殺された少女の霊というわけか」
レイカさんは考え込む。
「魔王領に振り続ける雨。それと何か関係があるのか?」
「あぁ、有名ですよね、その話」
魔王領に千年近く誰も近づけていないのは、強力な酸の雨が降り続けているからだ。おかげで各国は、討伐軍を派遣することもできない。
「魔王領との国境に降る雨は、途絶えたことがないと言います」
「私らの時代の異常気象と似ているな」
レイカさんとヴィヴァーチェは顔を見合わせ頷いた。
「私の祖国は和国というんだが、あるとき突然、豪雨が降り続くようになった。専門家もその原因は特定できず、しまいには全土が水没した。だからここ、カルネス王国まで移住してきたんだよ。そしたら突然過去に飛ばされ、こうして君たちと会えたというわけだ」
そんな事情があったのか。自分の故郷、カルネス王国が千年後も健在なのはちょっとだけ嬉しい。だが、未来ではそんな厄災が起きているのだと知ると、ぞっとする。
「まぁ、行ってみないことには分からないよな。ここで議論したところで進展があるわけでもないし」
「でもどうすれば……」
「私のいた時代では、酸による腐食に強いアダマンタイトという金属が量産されている。君のスキルで、アダマンタイト製の施設かなんかを未来から召喚できればいいんだが……」
「でも場所が分からないことには、どうしようもないですよね……」
俺のスキルは、あくまで思い浮かべた建物の千年後の姿を召喚するスキルだ。現在の姿が度の建物なのか分からなければどうしようもない。それに、新しく建てられた建物だったら召喚は諦めるしかない。
「とりあえず、俺の知ってる範囲で召喚を試してみますね」
俺が適当にカルネス王国の王城を思い浮かべてスキルを発動すると、突然床が抜けた。
いや違う。
アレグレット城が消えたのだ。代わりに灰色の巨大な鉄塔が聳え立っていた。
「な……消えた?」
「これは、想像以上のチートだな!」
俺は何が起こったのか分からなかったが、レイカさんはすぐに理解したようだ。
「君のスキルは、召喚した建物をいちいち収納して新しく建物を出せるというわけか!」
「いや、まださっきの城を再度召喚できると決まったわけでは……」
「では試してみるといい」
俺がもう一度アレグレット城の姿を思い浮かべると、再び鉄塔は消え、城塞が現れた。こんな風に交代交代でポンポン召喚できるものなのか。驚いたな。
「ホントに収納できるのか。便利ですね」
俺は自分のスキルながら嘆息してしまう。
「さすがです、アレス様! これほど強力なスキル、ここ千年でもなかったのでは?」
ヴィヴァーチェが腕に抱きついてくる。
「いやお前は封印されていたんだろう。どんなスキル持ちがいたかなんて知らないはずだ」
「ハハッ、バレましたか。まぁちょっと誇張し過ぎたかもですね」
誇張というか嘘なんだが。ヴィヴァーチェも変わった奴だな。
「これなら召喚と収納を繰り返しつつ魔王城に近づける。モンスターに遭遇するリスクもほぼゼロというわけだ」
レイカさんは衝撃的な、だが考えてみれば当たり前の事実を指摘する。
確かに、これでは移動要塞を使用しているのと同じだ。ドラゴンでも出て来ない限り、安全に旅ができる。
「それにアレスくん。魔王討伐の功績があれば、カルネス王国に限らずどの国でもそれなりの地位と富が約束される。なんなら魔王城に住んでしまってもいい。さらなる自由が手に入るわけだ」
レイカさんは興奮気味に言う。
確かに。魔王討伐というと気後れする部分もあるが、この三人とならできそうな気がする。
俺だって【王国の矛】ルーラオム家の次男として、戦場に散る覚悟はできている。追放されたとはいえ、戦士として地位を得たい気持ちはまだあった。
「やりましょう! 魔王討伐」
「いいね。その意気だ」
「アレス様が目指されるのであれば、このヴィヴァーチェ、刀身が鉄粉になるまで尽くします!」
「いやお前に鉄粉になられては困る」
ヴィヴァーチェだって大事な仲間だ。使い捨てるような真似はしたくない。
「もうアレス様ったら! これは大げさなたとえ話ですよ。でも、私を大事に思ってくれて、嬉しいです」
そんな言葉とともに、ヴィヴァーチェはまた腕に抱きついてきた。まぁ封印されて寂しかったんだろうから、これくらい許してやるか。
「魔王城と緩衝地帯を区切る山脈があるのは知っての通りだが、実はその地下に、山脈を抜けられるダンジョンがある。もっとも、攻略できた者はいないが。まずはそこを目指そうか」
「分かりました」
「了解です」
「おい、俺のベッドが消えたんだが」
ゼストさんが不平をこぼす。そういえば何の説明もなしにスキルの実験をしてしまったな。
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