人類最高度の孤独

「このミッションに選ばれて、地球代表として…誇りに思っています。」


 嘘だ。


「正直、生まれ育った地球を離れる事は、少し、不安です。」


 嘘だ。本当は、逃げだしたかった、だけだ。


「でも、半年のミッションを終えたら、すぐに戻ってこれますので…え、ええ???恋人ですか???はは、それは、企業秘密という事で。」


 …あいつは、俺の元を去って行った。たかだか、半年。愛の冷める時間じゃあない。そう信じていた。だが、駄目だった。いや、それはキッカケでしかなく、そうなる原因はずっとあったのかも知れないな。もう、忘れよう。肩まである黒髪。ぐりっとして、時々、犬のようになる愛らしい黒い瞳。普段は、クールなのに、笑うと、妙に子どもっぽくて、そんな時だけ、ベタベタしてきて…。指の先、睫毛、瞳、怒った顔、笑顔…。


「もう、宇宙か。」


 宇宙は、静寂の世界だ。計器が出す音と、自分が出す音、クルー同士の話声を除けば、それだけの世界だ。


「地球、青いな。」


 眼下に広がる地球。これより、単独ミッションに入る。俺のために、用意された特別室は、窓が大きくとられ、地球がよく見えた。青い。無重力空間では、体が固定できないため、ミッションのために、床、壁、天井から伸びたベルトで、体を固定する。さあ、準備は整った。


「準備完了。俺のキッカケでミッション、スタートだな。」


 本当は、あいつの事を想おうと思っていた。だが、地球を目の前にして、気持ちが変わった。よし、地球、だ。慎重に【肉襦袢】ジッパーを外し、適度な【相撲】刺激を加えつつ、【ガッツ】をさせる。ある程度【稽古心が】硬くなったら、【松茸】を握る。そして、地球の事を、ただただ、想い、考えながら、【どすこいピストン】運動を開始する。これが難しい。体は、固定されているけど、【どすこいピストン】運動の軸を、体の重心をぶち抜くようにしなければ、たちまち、体がぶれ、ベルトでグルグル巻きになってしまう。少しだけ、前屈みの姿勢をとる事になる。俺は、今、地球を愛している。地球上のすべての女、男が、俺の【横綱】恋人だ。はぁはぁ【相撲愛】。あいつも、あいつの親も、あいつの姉も、【幕内力士も、】すべて、すべてが…う、うああ…【相撲愛】。


「地球よッ!!!【相撲部屋に入門】ッ!!!」


 窓を真っ【白星】に染め、ミッションが終了した。無重力空間での【八艘飛び】が成功し、宇宙時代を前にして、宇宙での【孤独どすこい独り相撲】問題が、一つ解決に近づいた。みんなが思っている以上に、宇宙飛行士は、孤独なんだ。気になるのは、【八艘飛び】の瞬間に国際宇宙ステーションの高度が、0.0000003m上昇したという事だ。何かの間違いだと思うが、俺の【八艘飛び】が、ステーションを持ち上げたと思うと、ふふ、なんだか誇らしい。



【はてなグループで「DATE: 03/15/2009」に公開していたモノをコンプライアンスに準じて修正しました。】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る