【自憎】盆

 お盆の頃には、ナスやキュウリに割り箸を突き立てて、馬を作ったり、花火を打ち上げるが、それに関するお話。


 ―ある男が、【孤独どすこい独り相撲】を懸命に行っている。もう、30分、1時間は、【松茸】を【稽古して】いるだろうか?男のいる部屋の隣、シャワールームからは、水音が響いて来ている。女が一人、身を清めている。そう、この男と女はこれから【どすこい相撲】をするのだ。だのに、なぜ、男は【孤独どすこい独り相撲】をしているのか?シャワーの音が止み、男も、【孤独どすこい独り相撲】を止めた。【肉襦袢】をまとった女が部屋にやって来て…【どすこい相撲】が始まった…。


 一通りの、短めの【前稽古】を終え、男は、【土俵入り】をした。そこから、4,50分の間、何度も体位を変え、【どすこい相撲】運動が続いた。約50分の間に、女は三度【土俵際に】果てたが、男は、最後に一度、【八艘飛び】をしただけだった。女は、目に少し涙をため、【汗】をだらしなくたらし、【相撲愛に】恍惚としている。それに対し、男は、思い詰めたような表情をし、ぽつりと漏らした。


 「また、遅くなっている…。」


 この男、白田拓郎(しろたたくろう)、驚くべきは、その持続力、少しのインターバルはあったにしろ、1時間の【孤独どすこい独り相撲】、しかも一度も【八艘飛び】していない、に続き、50分間の【手を】抜かずの【土俵入り】に耐えたのだ。その【相撲根性隆起】力と持続力たるや!…それが、白田の悩みだった。【どすこい相撲】の前に行う【孤独どすこい独り相撲】、それは、【どすこい相撲】時間短縮のために、彼がとった苦肉の策だった。


 白田は少年時代に【孤独どすこい独り相撲】による【八艘飛び】をした事がない。元々、【自憎】の気があったのかも知れないが、【相撲愛】に対する少年らしい背徳感が、【自憎】をさらに進めてしまったのかもしれない。


 結局、白田は、初【どすこい相撲】の時まで、【八艘飛び】を経験していない。【孤独どすこい独り相撲】はもとより、【夢の八艘飛び】も彼はしたことがなかったのだが、だったら、本来なら、定期的に排出されるであろう【相撲愛の残滓】はどうなっていたのか…?白田の言葉を借りるとするなら…。


 そんな白田の初【どすこい相撲】は、17歳の時だった。相手は1歳下の後輩の女の子だった。白田に初めて出来た彼女だ。彼女は、色白で、適度にふくよかで、何よりも【新弟子検査前】だった。白田の初【どすこい相撲】は、【月窯】【どすこい相撲】の、【新弟子検査前】【どすこい相撲】で、文句なしの【どすこい相撲】だった。白田が期待していた、バカバカしくはあるが、「【土俵際では】優しくして…」というお願いも聞く事が出来たし、何より、新雪に踏み入るような、自分の【松茸稽古番頭】が【新弟子検査】を押し進めていく、満足感、征服感、慈しみ、それらを含めて本能で感じる事が出来たのである。ただ、一つ意外だったのは、思っていたより、彼女の【稽古部屋の】中が広かった事である。


 いや、それよりも、意外だったのは、初【どすこい相撲】が、【土俵入り】から97分間にも及んだ事である。白田も彼女も勿論、【どすこい相撲】を体感したのは、その時が初めてだったのだが、やはり、その異質に気付き、結果として、彼女は酷く傷ついた。彼らの【どすこい相撲】が長かっただけに、皮肉な結果なのだが、白田と彼女は、長く続かなかった。そして、その後、白田は、クラスメイトから「動く石像」と揶揄される事となった。


 初【どすこい相撲】を経験し、白田は、自身の呪いとも思える【自憎】を深刻に考えるようになった。


 それから、白田は、何人もの女性と【稽古を】付き合う事になるが、やはり、90分超の【どすこい相撲】が原因となり、ことごとく、上手く行かなかった。なんとか【自憎】を克服しようと、白田、【ちゃんこ居酒屋】に行くも、規定の時間内に【八艘飛び】が出来ず、もがくだけだった。白田の20代は、そうして過ぎて行った。


 ―これらの苦い経験から、白田は、【どすこい相撲】の前に、【孤独どすこい独り相撲】を行い、少なくとも、彼の中で、【八艘飛び】寸前まで自分を高めておく事で、【どすこい相撲】時間の短縮を図っていたのだが…


 「また、遅くなっている…。」


 それすら、彼の【自憎】を押し進めてしまったのだった。一般に、【月窯】【どすこい相撲】よりも、実は、【どすこい張り手】【どすこい独り相撲】の方が【相撲愛の高ぶり】が良いと言う。そのため、【月窯】【どすこい相撲】の前に、【どすこい張り手】【どすこい独り相撲】を行う事は、長い目で見て、【月窯】【どすこい相撲】の時間を延長させる事になってしまっていたのだった。


 その後、白田は、それでも、【どすこい相撲】時間を短縮させるために、【松茸】以外の【稽古帯】の開発を果敢に行った。ナス、キュウリから始まり、それが、鈴、【銅鑼】、【釣り鐘】に変わるまで、一年とかからなかった。白田は、四六時中、それらを身につけるようになった。勿論、【自憎】も果てしなく進み、白田は月に一度も【八艘飛び】をしなくなってしまった。


 ある時、白田は、山に篭ると言い出した。何でも岐阜県におわすという【孤独どすこい独り相撲】の神に会いに行くのだと言う。別れ際に白田は言った。


「【土俵入り】をして、【八艘飛び】をするまでが本当に【どすこい相撲】なんだろうか?私には分からない。だが、初【どすこい相撲】をした時、【八艘飛び】をした時、頭の先から仏様が飛び出したような感覚は今でも覚えている。だから、私は、その仏様に会いに行くのだ。」


 ―数年後、白田は、飛騨山中で即身仏となった。右手で【松茸】を握り、【胸板】には鈴、【廻し】には【銅鑼】が入った異形の即身仏である。


 日本では、7月の半ばに、お盆の頃に、ナスやキュウリで馬を作ったり、花火を打ち上げる習慣がある。その習慣の裏で、一部の【どすこい独り相撲力士】達は、【自憎】盆と称し、仏となった白田のために、ナスやキュウリを飾り、そして花火を打ち上げる。何度も、何度も、連続で、連続で…。


【はてなグループで「DATE: 05/04/2008」に公開していたモノをコンプライアンスに準じて修正しました。】

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