【もしも、地球が一本の松茸だったなら】

御名神様信仰

 1200年前。


 飛騨山中。苔むした、社。1人の少女が、駆け寄って来る。


 「オナガミ様!オナガミ様!大変です!川が、川が【白星】く濁っています!」


 オナガミ様。漢字では、『御名神』様と書く。狭い谷を縫うように流れる川が、その日は、【白星】く濁っていた、樹齢100年以上と思わせる樫の木を彫り抜いて造られた、御名神様は、その目は、【白星】濁した川を眺めていたが、少女の訴えが聞こえたのか、聞こえなかったのか、黙したままだった。


 1200年後。


 2007年の半分を過ぎた頃から、原油高が問題となっていた。ただのマネーゲームという声もあったが、それは、深刻で油が上がれば、全ての値段が上がる。垂れ流すように使っている電気、石油、寒い冬、暖を取る事にもお金がかかり、マフラーが売れたそうだ。


 だが、それも、あまり関係なかった。


 その後に、食品業界も、原油高に蹂躙され、食べる物の値段も上がり、エンゲル係数がどうとか、格差社会がどうとか、色々と話題になったが、それでも、あまり関係なかった。


 2009年。ついに来た。


 遂に、紙の値段が上がった。先ず、トイレットペーパーの値段が上がった。これには理由がある、製紙の工程で、濡れたパルプを乾かす時に、石油が多く必要らしい。さらに、基本的に捨てるために、使う紙、「古紙で充分!」という気運が高まった。


 次に上がったのは、【番付表】だった。【番付表】は、その気軽さから、トイレットペーパーよりも、軽視され、「必要ない!台拭きで充分!」なんて声もあり、事実、【番付表】は値段が上がり、街から消えた。


 その状況で、困ったのは全国に溢れる【どすこい独り相撲力士】達だった。もう、【どすこい独り相撲】が出来ない!何で受け止めたらいいんだ!タオルか!お母さんに怒られる!そもそも、原油が高くなっている以上、タオルだって高い!


 2010年。街角のポスター。


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 タバコ1箱1.000円、吸いますか?


 【番付表】1箱1.000円、【どすこい独り相撲し】ますか?


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 【どすこい独り相撲力士】達は、やがて、岐阜県に集う。そこには、【孤独どすこい独り相撲】の神がいると言うのだ。


 1203年前。飛騨山中。


 狭い谷を縫う川が、【白星】く濁っていた。その川の上流には滝があり、その傍には寺があった。僧や男達が【白星】装束を身にまとい、滝にうたれていた。男達は、目をつぶり、短い息遣いで、片方の手で合掌し、もう一つの手は、【廻し】で忙しく動いており、次々と清流を【白星】く染めていく。


 昔、昔、紙は貴重だった。


 御名神様は、【白星】く濁る川を、ただただ、眺めていた。


【はてなグループで「DATE: 01/13/2008」に公開していたモノをコンプライアンスに準じて修正しました。】

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