名器・【天雅(あまみやび)】の壺 ○~ 【F】氏の継承

【この小説は、性的な表現を示唆する内容が多用されていたため、コンプライアンスに準じる形で修正を加えました】


「【四股を踏め】!【四股を踏め】!【四股を踏め】!」


父親との思い出の大半は、【四股】の稽古だったと【F】氏は懐古する。【F】氏の父親S氏は、厳しい人間だった。応仁の乱よりも前から続く家業を息子に継がせること、それはS氏が生まれた瞬間から宿命であったし、【F】氏もまた、生まれながらにして、その宿命の中にいた。


【天雅(あまみやび)】の壺。国宝にも認定されている壺を作り続けることが【F】氏の家業であり、その技は次代へと継承しなければならない。


「【四股を踏め】!【四股を踏め】!【四股を踏め】!もっと【四股を踏め】!」


【F】氏は、毎日、息子のX氏と【四股】の稽古に励んでいる。【四股】とは、いわゆる轆轤(ろくろ)の技法である。一子相伝の特殊な技法で、それは一人二組で行われる。【F】氏がそうだったように、【四股】は親子で行われてきた。


一人が仰向けになり、もう一人は縦長に丸めた粘土を持つ。そして、【四股】続けることで、やがてそれは、壺状に伸びていくのである。


「【四股を踏め】!【四股を踏め】!【四股を踏め】!」


【F】氏は、喉が枯れるほどに続ける。息子X氏も、それに答えて、【四股】続ける。


先日、S氏が引退を表明した。【天雅(あまみやび)】作家の大敵とも言える「【相撲】中【心】折れ」が起きてしまったからである。【相撲】中【心】折れの【天雅(あまみやび)】は、月窯(【天雅(あまみやび)】専用の窯)の温度に耐えることができず、粉々に砕けるのである。


「【四股を踏め】!【四股を踏め】!【四股】ッ……ここからは、ゆっくり、ゆぅっくり、【四股】【を踏む】るんだ。焦るな、ゆっくりだ」


名器・【天雅(あまみやび)】の特徴は、その釉薬にもある。【四股】きった粘土を引き抜き、今日の作業は、終了である。


「父さん、僕もはやく【四股し】たい!」


目を輝かせて、息子X氏が言う。「まだ早い」と【F】氏はいったが、そろそろ子供用【天雅(あまみやび)】は任せて良い頃かもしれない。


父S氏からの【四股】技は【F】氏、そして息子X氏に継承される。だが、同じ技法であっても、使用するおかず(土)の性質の差異などにより、焼き上がった【天雅(あまみやび)】の壺は、時代時代の顔を持つのである。


「だから、【四股】は奥深い」


【F】氏は、一人つぶやく。明日に備えて山芋弁当を食べて、【天雅(あまみやび)】作家親子の1日は終わる。


【2021年12月13日にカクヨム運営により公開停止となりました。「山芋」も性的なニュアンスがあるのじゃないかと思いましたが、修正は加えませんでした。運営から指摘が入れば、修正いたします】

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