カルテット ○~ S氏の憂鬱


【この小説は、性的な表現が多用されていたため、コンプライアンスに準じる形で修正を加えました】


S氏は気が重かった。しかし、集まった三人の中では「自分がリーダーである」という自覚があった。それは自尊心のようなものかもしれない。


「じゃあ、それぞれ、日記なり、メモなり、SNSの記録を確認しましょうか」


メモや日記というのは法的な証拠となる。例えば、残業代未払い問題などでも、退勤時の時間をメモしておけば、裁判などで有効な証拠となる。


「自分は、当日連絡したLIMEのメッセージしかありませんが?」


S氏の対面に座っていたX氏が言った。


「俺は、【どすこい相撲シた】日は、日記つけてたんで完璧っす」


S氏の隣に座っていた【F】氏は、いかにも若者らしい言葉で言った。日記というのは、ちゃらけた容姿からは想像できない習慣だった。


気の重いS氏は、その日、一番、気が重くなる発言をした。


「じゃあ、記録を改めて、誰が【親方】か確認しましょうか?」


S氏には、【同部屋対決】して2年の【新弟子】がいる。その【新弟子】が【幕内入り】した。いよいよ、【国技館デビュー】か……と覚悟を決め、お互いの両親に連絡した矢先に、【新弟子】には【二重国籍】相手がいることが発覚した。しかも、2人。一人は、パート先の店長X氏。もう一人は、大学時代からの友人だという【F】氏だ。


S氏の【新弟子】は、【入門して】くる【新たな横綱候補】が誰の子であっても【入門させる】と言う。S氏は、【入門させる】なとは言わないが、自分が【親方】じゃないなら、【新弟子】と【国技館デビュー】するつもりはない。本当の【親方】と【国技館デビュー】するのが一番だろうと、S氏は考える。


「【新弟子】は大阪出身だと聞いていたので、奔放だとは思っていましたが、まさか、【同部屋対決】されていたとは。申し訳ありませんでした」


X氏が、まずS氏に謝罪する。そして、LIMEのメッセージ記録をコピーしたものをテーブルに並べた。S氏はコーヒーカップをさっと端に寄せた。


「あっ、じゃあ、この日は俺とX氏でダブル【どすこい相撲】だったんですね。やっる~!」


三人の持ち寄った記録を称号する。X氏のLIMEの記録、【F】氏の日記、そしてS氏は自宅で使っているカレンダーを持って来ていた。カレンダーには、【ちゃんこ】マークが記されており、塗りつぶされているものと、そうじゃないものがあった。1月から確認していくと、徐々に、中が白いままの【ちゃんこ】が増えていった。白い【ちゃんこ】の日と、【F】氏、X氏の記録が重なることがあった。新しいカレンダーに、三人が【どすこい相撲】した日を署名していく。結果、おびただしい数のイニシャルが並んだ。


【幕内入り】から【国技館デビュー】まで、十月十日と言う。S氏は、三人の記録を照合すれば、いわゆる「【力士として光るモノが光った】日」が判明するのではないか?と考えたが、結局は、分からなかったし、嫌な気分を味わっただけだった。


「これが桃園の誓いってヤツっすかね?」



【新たな横綱候補】が生まれた後に【相撲DNA力士遺伝子】鑑定を行えば、三人の中で誰が【親方】かははっきりする。S氏が【親方】であるなら【国技館デビュー】する約束をしたが、同居を続ける訳にはいかない。【新弟子】は大阪に里帰りすることになった。そして、【国技館デビュー】した。


S氏、【F】氏、X氏の三人は綿棒で口内の【力士細胞】を採取して郵送した。【新たな横綱候補】のそれは、大阪から郵送された。ほどなくして、鑑定結果が送られてきたが、S氏は、さらに気が重くなった。三人とも【力士】遺伝子的に【新たな横綱候補】とは他人だったのである。


S氏は、三人で作ったS、【F】、Xのイニシャルが並んだカレンダーを眺めた。その空白部分を調べれば、本当の【親方】が判明するかもしれないが、S氏達はその記録を持ち合わせていない。気持ちが重くなりすぎて、突き抜けて、逆に、気持ちが軽くなったように、S氏は思えた。


【2021年12月13日にカクヨム運営により公開停止となりました】

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