愛犬家

@nekochansong03

第1話

サブタイトル結婚詐欺師のグループが中年女性をターゲットに定めて舞台に展開するドタバタ。小説本文


とある地方の中小都市の、ジュエリー店で、中年の女性店員は考えた。(10年も勤めて居れば、扉が開いた瞬間にどの程度の商品を購入するか分かるものよ)


入ってきた中年女性に対しても、(たぶん半分冷やかしで、買わない確率が高いわね)と思った。


案の定、その中年女性は安いジュエリーの並んだショーケースを手持ち無沙汰に、暫く歩いて廻っている様にしか観えなかった。


そのジュエリー店の若い女店員がその客に声を掛けた。


(その中年女性、安っぽい格好では無いが、型の古いショウノウの匂いがしそうな50代半ば位の服装で、不平不満を溜め込んだ、今にも爆発しそうな表情をしていた)


その店の従業員は皆、半年も勤めているのだから、スルーした方がよいと気付いてもいい筈、と思ったが、20代半ばで若いために間違えたのだと納得した。


「何かお手伝いしましょうか」


「この並びの商品を全部見せて頂戴」と云ったが、どれも1〜2万円台の物と気がついて、バツが悪くなったのか、


「高価な物は恋人に買って貰うことにしているの」すると、その場には親切過ぎる、若い女店員は


「其れでは、高級な結婚相談所に入会して居るとか?」


<その客はその場の流れで、


「そうよ」と返答したが、その場の従業員は全て、違うなと思った。>


「其れもひとり暮らしで?」


続いてその若い店員は


「ご近所にお住まいですか」とたずねた。


その客は少しイラッとした感じで、「こんな店に電車代かけてくるものですか」と云った。


「この近くの公園に散歩がてら寄ったのよ」


「では、犬を飼っていらっしゃるのですか」


「というか、趣味が近くの公園で犬を遊ばせる事かな」と云うのをその店員が認識した後、


自動ドアが開き、地味目の婚約者同士のカップルが来店した。婚約指輪を求めに来たらしい。


男が30代後半、女が20代前半位で結構歳の差があるようだ。男性が選んだ指輪を高過ぎると云って、女性がワンランク下の物をみせてと云って、言い争いになっているらしい。


そこに、さっきの中年女性の客が割り込んで来て、


「こんな事で遠慮して、安いもので間に合わせたら、安い女だと思われて3年もしたら、飽きて捨てられるだけ。せめて新婚当時だけでも贅沢しなきゃ損。」


と怒鳴り散らした。


挙句にイチャモンを付けてジュエリー店から追い出して終う。


男性従業員は、堪りかねたのか、腹に据え兼ねた様子で、結句その中年女性は追い出されて終う。


一部始終を見ていたその若い女店員は、物陰でメールを打った。


[ターゲット発見]



ある日のジュエリー店近くの公園にて、


70代のイギリス紳士然とした高齢の男、と70才前後の痩せ型の女、髪型やメガネを掛けている点は違うが、確かにあの時のジュエリー店の若い女店員、それと30代の好青年が4人で密談していた。


その視線の差には、ベンチに腰掛けた、黄色のワンピースを着て寛いでいるが、あの時の騒動を起こした中年の女性が居た。


「毎日のように午前中に買い物しがてら、公園で犬やらを眺めながら過ごす。他に趣味も無さそうだから、安くあがりそうだ。」




サブタイトル結婚詐欺師グループが中年女性をターゲットに定めて公園を舞台に展開するドタバタ劇。小説本文


だだっ広い、野球のグランドが2つは入るのではないかと思われる大きさで、名はつつじヶ丘公園で、短い芝生が敷き詰められている。その中年女性、木原モモコはバツイチ、子なしの54才で、朝起きて、軽い朝食を済ませ、掃除や洗濯を終えて、近所で所定の店で買い物を済ませ、毎日のように10時からお昼までの2時間あまりをつつじヶ丘公園で暇を潰していた。公園の大きさの為か、幼児を遊ばせている母親達が大半で、また折からのペットブームで、犬の散歩も多かった。この時間帯は生意気な小学生も居ず、静かだった。いつものようにモモコはベンチでスマホの電子書籍を読んでいた。


いつものように黄色のワンピースを着ていた。


モモコが19才の時、その日も同様の黄色のワンピースを着ていた。モモコにとって人生で一番その日は輝いた日だった。


取り引き先の部長と経理社員が、父親の自営会社に尋ねて来たので在るが、得意なものがあまり無いモモコは、高校卒業後、進学せず家事手伝いをしていた。それで自然来客にお茶を出したのだが、同行していた経理社員と目が合ったのだが、彼の方が視線を外さず、モモコもそれを嫌だと思わなかった。


モモコには何かしら予感があった。


数日後それは的中した。その社員からプロポーズがあったのだ。


その社員に会ったのは二度目だったが、その時はモモコはまだ高校生で、父親の影に隠れて、言葉も交わさなかった。


無論母親は反対した。料理も何も出来ませんからというのが言い訳だったが、本音でもあった。


それでも強いてといわれたし、モモコも内心乗り気だったので、話がトントン拍子に進んで、19才で結婚することになった。


相手は倉持剛で資材会社の支店に勤めていて、最初から地味なカンジだったが、ひと回り上の31才だった。


モモコの父親は最初は中堅何処の官公庁からも発注が来る建設会社に勤めていた。定年まで居れば老後は悠々自適で安定していたが、資格も無いのに、プライドが高く、自立して工務店を始めたので在る。


経理も分からず困っていたので、その資材会社が発注する代わりに偶々経理を指導する事になった。


倉持は元来真面目で、いかにも経理社員らしく、そのせいで異性との接触も少なく、30才過ぎても独身だった。


田舎に母親だけが居る、母ひとり子ひとりで、結婚をせっつかれていたが、縁遠く、又都会の本社勤務を願い出ていたが、妻帯者が条件で叶いそうになかった。


そこで倉持はモモコに一目惚れし、結婚を申し込んだのである。


結句倉持は本社勤務になった。


しかしモモコの両親は心配が絶えないのである。


当初新婚家庭は賃貸マンションだったが、両親が持家を念願し、頭金として100万円無理矢理押し付け、仕方なく新築マンションを購入した。それは値上がりし結果的には成功した。又両親はモモコに肩身の狭い思いをさせないように、サイズは分かっているので、洋服等を可成り送った。


モモコの出来料理は、目玉焼きとルーで出来るカレーとシチューだけだったが、それは当初から言ってあったので、新婚当初は円満だったが、数年たっても成長の後は無かった。又モモコは対人スキルが低かった。会社の上司を自宅に招いたが、オズオズとして要領を得ず、高卒の新入社員のモモコより年下の彼にさえ、奥さんは考え過ぎじゃないかと言われる始末。


数年を経て、モモコは二人の中にすきま風が吹いているのは実感していた。昼間はショッピングなどに出掛けていたが、それは全て倉持と一緒に行った店ばかりだったが、靴屋で倉持が若い見知らぬ女性とふたり連れで買い物をしているのを観た。どういう訳か妻の方が身を隠した。



サブタイトル中年女性と結婚詐欺師のグループがその女性を観察し、ターゲットに定めるて公園を舞台に展開するドタバタ小説本文


モモコが偶々いった鞄屋でも、同じことが起こった。もちろん亭主と以前行った場所であるが。倉持が見知らぬ若い女性とふたりきりで楽しそうに買い物をしていた。


数日して、倉持が今度入社した高卒の女の子は仕事が出来て、すっかり頼っても安心な位なんだ。と、言った。しかも控えめなんだと言った。倉持が会社のことを詳しく話すことは無かった。思わず楽しい事を隠して置けず溢れ出て来る様だった。モモコは悟った。彼は恋をしている。


モモコは静観していたが、数日してモモコの母親も交えて話合いの機会を持ちたいと倉持から提案が有った。


地方から態々モモコの母親が出て来たが、テーブルの上にはTV電話を設定したパソコンと紙がいち枚載っていた。


倉持はずっと胸を押さえていた。


紙は離婚届だった。倉持のサインは既にしてあった。


倉持は母親に対して、「モモコさんは料理を始め妻としての基準を満たしていません。」と言った。母親はモモコを振り返り「あなたも離婚したいと思ってるの」と聞いた。モモコは頭を振った。母親は「これを知っていた?」矢張り頭を振った。母親は言った。「あなたの言っている事は不当です。」「家事などは出来無い事は分かっていたはず、だから反対したのです。」「しかし数年経っています。」倉持はTV電話を起動した。倉持の田舎の母親が写し出されていた。「息子の結婚が遅かったために、当初から息子から口出しを止められていたので、結婚話も結婚生活も干渉しませんでしたが、あまりに酷い。」倉持は続きを制して、意を決した様に胸元から写真を取り出した。「これは今年入社して部下の女性です。僕は彼女が好きです。お母さん分かって下さい。」


モモコは写真を見た。モモコより三才年下でモモコより美人だった。矢張りショッピング先で見掛けた女性だった。


モモコは身にそぐわぬ位プライドが高かった。泣いてすがって復縁を乞うとか、冷静に亭主の不倫の証拠を集め、お金を取るだけ取るとかという道を選ばなかった。モモコの母親の不当だという言葉と揉めた空気が続きそうな中で、モモコはもう良い、分かったと離婚届に自分の名前をサインした。


マンションをせめて譲ってと言うモモコの母親に、可成り値上がりしたから無理だと否定され、頭金の100万円を返して欲しいということに、何故返さなければいけないのかと返答された。追い討ちを懸けるように倉持の母親から、結婚に口を出さずに数年経つのに、子供さえ出来ない、妹さんにも子宝がないということだからあなたの娘さん達は欠陥商品だ。というのにさすがに倉持も言い過ぎだと止め様としたが、今度の彼女は肉体関係が出来たと報告を受けたときに、不妊検査を受けさせて、異常がないと分かったので今度は大丈夫といったので、その場の空気が凍った。


モモコは実家に帰った。母親は自営業だから娘ひとり面倒見られるのかと、独りごちた。


新婚なのに妹の桜子は戻った姉を心配して、様子を伺いに来た。説明が遅れたが、モモコには母親に似て、美人で何でも卒なく熟す妹が居る。


母親は妹に、少しでもご飯を食べたし、そっとして置こうと思って部屋で休ませて居る、と言った。



サブタイトルその中年女性が常に行っている公園に結婚詐欺師のグループがその女性を観察し、ターゲットに定める。 常に行っている公園を舞台に展開するドタバタ。小説本文


しかし、妹の桜子は部屋の様子を見に行こうとした。変な胸騒ぎがしたから。居るはずの姉の姿は無かった。桜子は姉の行先には心当たりは無かった。母親は思い着いた様に、「彼処だ。」と言った。


モモコが高校入学当時に其のビルは建った。住宅街のまん中にポツンと、高層のファッションビルが出来た。ファッションも奥手で、それまでモモコは全て母親が選んだ物を着ていて、頓着しなかった。そのビルが出来て初めてファッションに目覚め、モモコから誘って、妹と母親の3人で出掛けた。妹はまだ中学生だったが既に目覚めていた。


ヤングカジュアルから高層にはアダルトもあり、一緒に楽しめた。特にヤングコーナーは値段も割安で、モモコを始め好きな物を選び、普段より多く買った。


テイクアウトでソフトクリームを購入した。屋上も上がれるというので、そこで3人はソフトクリームを食べながら背伸びした。


桜子と母親が其の屋上に着くと、モモコはフェンスも乗り越え、今にも飛び降り様としていた。妹と母親の「まだ取り戻せるよ」の言葉に、おもい留まり引き返すことが出来た。


それからのモモコは、精神科で治療を受けながら、実家の両親の元療養していた。廻りも穏やかに過ごす期間が必要と感じて居たが、数年して、モモコもやる気を取り戻し、近くにアパートを借り、就職活動を開始した。しかしモモコのプライドの高さがここでも災いし、今の夫の妻が事務員をしていたので、自分も事務員意外応募しないと決め、ことごとく敗退した。何件か面接まで行ったが、ここでもモモコの対人恐怖症的なものが災いし、受け答えが満足に出来ず、不合格に成った。それまでの生活費は全て両親が払ってくれていた。


30代も終わってようやく、モモコは自分のスキル不足に気づいた。せめて資格ぐらい取らなければ対抗出来ないと思ったが、両親に無心に行くと、自営業の方がバブル崩壊後の不景気で倒産も同じで、年金でどうにか過ごして居ると言う。父も母も体調も優れないという。


アパートを借りてひとり暮らしをした、敷金、礼金、当座の生活費は、亭主が後になって100万円返してくれたので賄ったという。


40代になったモモコは当惑した。両親は生活費も送れないと言う。


妹の桜子は、実家の近くの地方都市で有数のひとつの問屋の次男坊に嫁いでいた。そこでも、バブル崩壊後の不景気で経営は思わしくなかった。実家の自営業の危機には、虎の子の500万円を出したので、余裕は無かった。夫婦仲は良く、実家に帰ることを咎めるどころか、夫の方は積極的に推奨したりした。モモコは桜子が母親に似て、美人で何でも卒なく熟すので、良いところは全て妹にとられ、自分は残りカスしか残らなかったと、妹を妬んだ。自分の名前をカタカナにした、両親が悪いと当て擦りをした。


幸いモモコは精神科に通院していた。


妹の桜子は思案した挙句、市役所に掛け合って、生活保護を受けさせる事にした。


これで、モモコの日がな一日近所の公園で暇を潰す生活が定着していったのである。



サブタイトル中年女性をターゲットにする結婚詐欺グループとその女性の間で起こる公園を舞台にしたドタバタ劇。小説本文


 モモコは何時もの様に榴ヶ岡公園で、黄色服を着て、午前中を過ごした。黄色ヘアバンドをしてスマホの電子書籍を読んで居た。何時ものメンバーの散歩である。と言ってもモモコが親交を深めているのは犬等で、(人間とは当たり障り無く接するのが信条です。)犬も飼って居ないのに犬である。焦げ茶のダックスフンドは今日も進むべき道を探しているし、パグは、少しでも僕を愛してとどの人間にも言っているし、茶色の目のクリっとしたチワワは宇宙の神秘を信じると言って来るし、何時も通りである。今日は偶に来る、モモコよりちょっと年上の、膨よかな緑の服を着て青いヘアバンドをして、珍しく気の合う女性が座った。最初の会話は生まれ変わりって信じる?だった。犬って結構会話する。人間の生まれ変わりが多いから。で共感した。聞けば昼間は占い師をしているそうである。


今日は週末なのでする事がある。因みにスマホのFacebookで最近チェックした、大都市のあのマンションに住んでいる元亭主の家族は、子供が3人出来円満に暮らしているらしい写真がアップしていた。


品物が切れていたので補充しなければ。いつも行くコンビニで、元亭主の写真を100枚コピーする。用紙が不足したのでコンビニのお兄ちゃんにお願いすると、舌打ちされた。いつもの100店でクッションを沢山購入して、袋何枚必要ですかと聞かれ、持参の大きな袋を出してちょっと驚かれた。それと、妹に体に良いからと言われている果物を忘れずに買った。


今日は二週間に1度の精神科の診察日である。囚人服と見間違いそうな、横縞の長Tと辛うじて違う、縦縞のキャロットをいつもの様に着て、診察を受ける。いつものように薬の説明を受ける。「気分の沈んだ時は赤い薬。気分の高揚した時は青い薬。もし間違って飲んだ場合、世界が滅びるので気を付けるように。」そして「頭のおかしな者の相手は疲れるわ。」という医者の小言が後ろで聴こえる。


 在る日、モモコ月1度の発作を出来るだけ鎮めながら、ある意味規則正しい生活を送っていると、遠くの方で初老の痩せた女性が、犬の散歩中に足を挫いたかの様な姿勢で居た。常のモモコなら、差し障りの無い対応を心掛けるので、最低でも大丈夫か確かめる声を掛けるのが通常だった。丸メガネを掛けたショートカット女性が、これも同じく犬の散歩中に駆け寄っていた。これは是非行動を起こさなければならない場面だったが、初老の女性の連れていた、ゴールデンレトリバーが「この人飼い主じゃないし、借り犬で連れて来られたけれど、行きたくない方向に、それもぐぃぐぃ引っ張られるし、絶対躓いていないし、痛くも無いだろうし、この人の行動に納得出来ないし、賛同出来無いな。」と言った。若い女性の連れていたコギーも「私も借り犬で連れて来られたけれど、やはりぐぃぐぃ引っ張られるし、なんかぶつぶつずっと言ってるし、この人嫌い。」「それに今初対面の会話してたけど、さっき2人で打ち合わせしていたよね。」と犬が会話していたので辞めた。


 おかしな事もあるなと、モモコが感じた数日後、モモコがいつものように、犬との会話を楽しんでいると、隣りに70才位のイギリス紳士然とした男の老人が座った。気分を害されたらいけないと思い、静かにしていたら、勝手にペラペラと話し出した。小さな会社を経営していて、社長秘書として雇い入れたいという事だった。職安に行っていた時だったら、飛び上がりたい程の話だったが、やはり連れていたゴールデンレトリバーが、この人さっき台本みたいなの読んでたよ。と言ったのを聞いて、世間話をして来ても一切無視した。少しして帰って行った。犬もホットした様だった。


公園から離れて、結婚詐欺グループは話し合っていた。「小金を持っていて、中年になっても理想が高く、女の務めを果たそうとしない、我儘者を懲らしめる為に私達は行動しているんだ。」「しかし、あの女は住まいがマンションかと思ったら、ひとり暮らし用のアパートだし、小金も持ってなさそうだけど。」「生命保険を掛けて殺し、保険金を取り、脳死状態にし、臓器を売れば大金が入る。」「俺達は頭脳プレーで夢を売るのが商売。残虐なことは一切しない。暴力的な事はチンピラグループに任せる。完璧な分業作業だ。」「最後の最後まで、白馬の王子様が来たと夢を観させ、毒を飲ませる事位はするが、もしかりに気付いたとしても、それは直前に決まっているし、そこは素早くチンピラの出番で、首吊り自殺仕上げてくれるさ。」




サブタイトル中年女性をターゲットにする結婚詐欺グループとその女性による公演を舞台にするドタバタ劇。小説本文


自宅に戻ったモモコは、其の頃珍しく神妙な気持ちになり、先祖に祈った。「私の内臓も家族の内臓も勿体無いから誰にも遣ら無い。」


数日して、またあの老人があらわれた。「私も仕事、仕事と言うのはもう疲れた。引退して、趣味で喫茶店を開こうと思っている。おいしいコーヒーと軽食、これは逆に家庭的な物でいいので、あなたに手伝って貰いたいのだが、どうかな。」以前のゴールデンレトリバーも一緒にいて、「前も言った様に、これ私のご主人様じゃないし、今日はコロンを何故か思いっきりかけてきて、くしゃみが出そうでたまらない。人間より犬の嗅覚が鋭いという事を知らないのかな。」この人間は常識知らずだと、モモコは思った。いい年したおばさんだから、料理が出来るだろうなんて。犬も可愛そう。当に犬以下。モモコは言った。「STAY HOME」「STAY HOME」。今日は踏んだり蹴ったりだった。此の後も良く来る柴犬に、伊達に長い間ここに通っていない、その柴犬の住所を知っているのだか、「俺は前世人間だったからお前より頭いいぞ。あぁみっともないその間抜け面。しっかりしろよ。」と言われ、お叱りを受けて、確かに頭良ければ資格など取らなくても、就職出来たはずとその通りだと思った。


モモコに追い返された結婚詐欺グループはまた会議をしていた。「あのターゲットは未婚では無く、バツイチで可成り心傷した様で、それで精神科に通っていて、生活保護を貰って貧しい人間の様だし、全く此方の話に乗ってこないのだけど。」ひとりが言うと、老人は「代わりに、あの女の妹を狙おう。」と言った。他の者が、「その者は亭主がいるし、夫婦仲が良いし、対象にならないのじゃないか。」と言うと、老人は「リサーチが済んでいるし、此の際誰でもいい」と言った。


その頃モモコは大変感謝していた。週一度料理の下手なモモコの為に、おかずを作って持って来てくれる。栄養が偏らないように、三食きちんと食べるように、お浸しでも良いから野菜を多く取るように言付けて言った。モモコは感激して思った。妹はまさに天使のような存在だ。


妹の桜子は、年老いた両親のところも定期的に訪ねた。桜子は、子供がいたらとても通って居られなかった。子供が居なくてよかったかもと、言った。


其の頃モモコは祈っていた。世の中の全ての不幸が、私に降り注ぎますようにと。


其の週末、モモコは通常の決まり事を行った。果物は良く食べるようにしているので、果物ナイフと、元亭主の写真とクッションと、缶ビール1本。クッションの上に写真を載せて、「死ね。」「死ね。」と突き刺した。缶ビールを飲んだが、モモコはお酒が弱いので、半分で酔っ払い辞めた。


その様子を、モモコに気付かれ無い様に、アパートの窓から覗いている者が居る。あの老人だった。


翌朝、其の儘眠り込んで居たモモコは、チャイムの音に仕方なく出た。近所からガスの臭いがすると苦情が来て、点検に来たと言う、ガス会社の方から来たという者に、外の検査だけだというのでイヤイヤながら了解した。


大丈夫だというが、さらに地震で停止した時の、復旧を教えるというので、教わることにした。30代の好青年で、白い歯がキラリと光った。部屋に戻ると果物ナイフが消えて居た。モモコは妙に納得した顔をしていた。


その夜半、突然雲が湧きはじめ、雷鳴が鳴り出した。彼の柴犬は雷鳴にも驚かず、安らかに眠っていた。そこにその老人が、今にも犬小屋の扉を開け、刺し殺そうとしていた。その時稲光が光、モモコの顔を映し出していた。















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