5章 第6話 「答え」、またの名を「夢」

「さあ、私を超える回答を聞かせてくれ」

 カレンは真っ直ぐな眼で、わたしたちに尋ねた。

「……ライヤー」

「悪いが、ウィシュ。俺の考えは変わらない」

「やっぱり、ライヤーはやる気なんだね」

「俺の答えは、全ての人間を殺し、天使に昇華させる。そして───天使全てを全能にする。これが人と天使を両方救う術であり、俺の"夢"だ」

ライヤーが真剣に語った。

 いつ聞いても荒唐無稽で、暴論な話だ。

 だが、それが───ライヤーの行き着いた"答え"であり、"夢"だった。

「ライヤー。それは間違ってる。もはや論外な救済だよ」

「なら、理由を教えてくれ。もしくはこれを超えた"答え"を提示してくれ。人を救う、これ以上の方法を」

「幸せなヒトまでも殺す気なの?それは、救済とは言わないよ」

「逆だ。全ての人間、天使から不自由や不幸を取り去り全能にする。そうすれば、不幸な者など今後一切現れなくなる」

「なるほど。それが君の"答え"か。なかなか斬新だけど、まず可能なの?」

 黙っていたカレンが口を開く。

「ああ、俺の"具現化"と、この"天使を作る機械"さえあれば出来る話だ」

「具体的には?」

「俺の"具現化"は全ての事象を起こせる。人間全てを消し去ることも可能だ」

「なるほど………。"具現化"や堕天使はバグのようなものだったけど………それを利用するわけね。でも、あくまでそれは理論値の話だよ。どれほどの代償を支払うか理解してる?」

「ああ、覚悟の上だ」

 ライヤーがはっきりと答える。

「心が腐るということは、ある意味では、別の自分になるということ。その果てが堕天使だ。君は、そんな結末さえ天国に思えるような地獄を迎えるよ」

「それでも構わない。この世から不幸がなくなるなら屁でもないさ。………そして、そこの機械を使って、全ての人を天使に昇華させて全能にさせる。俺があなたに聞きたいのは、機械でだ」

「限界………?」

「………この機械でどれだけの数を天使に出来るか。そして、どれだけ全能を盛り込めるか、だ」

「ああ、この機械についてまだ説明していなかったね。この機械で出来ることは三つ。一つ目は、天使の創造。数の上限はないし、スペックも君の求める基準は満たしてると思うよ。翼創造、高生命力、透明化………果ては不老不死まで可能だ。ちなみに、これはもう誕生した天使にも適用出来る。二つ目は、不幸や死にたい人の探知。これに従って君たちは仕事をしていた」

この機械が示した人を………。

「三つ目は、情報伝達。頭に直接送れるアレね。情報、命令、そして私の声はこれを介していたの」

「なるほど、充分な性能だ。これなら実現出来そうだ」

「ライヤー!」

 機械に向かうライヤーにわたしは立ち塞がった。

「どいてくれウィシュ。傷つけたくない」

「退かないよ」

「………ウィシュも見てきただろ。現実に苦しむ人と天使を!その辛さを!俺は決めた。不幸を完全に消し去るには、みんなが全能になるしかない」

 歯を食い縛りながらライヤーは言った。

 これが、紛れもない本心だった。

「だから退いてくれ。どんなに否定されようと、間違ってると言われようと、これは俺の"夢"なんだ」

ライヤーが真っ直ぐに語る。

 ……それが、ライヤーの夢。

 いや────────────。

「………いいや、そんなの"夢"じゃないよ」

「……何?」

「"夢"は自分のために見るものだよ。やりたいことのために見るんだよ」

「だからこれがやりたいことだって────」

「いや、ライヤーは違う。ライヤーのそれは使だよ」

「──────」

「不幸な人を見るのが耐えられないから。不自由な天使がいることに憐みを覚えたから。そんな使命感からライヤーは動いているんだ」

「それ、は──────」

ライヤーが口ごもる。

「そう言う君は"答え"を得たのかい?」

カレンが興味深そうに尋ねる。

「うん。わたしは決めた。わたしの"夢"はヒト───いや、人と天使を救うこと。みんなが幸せになれる方法で」

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