5章 第4話 バディ
────バディは行ってしまった。
使い物にならなくなったボクを置いて、行ってしまった。
ボクには、もう"理由"がなかった。
戦うだけの、"夢"が無かった。
ボクに───お母さんはいなかった。
全ては幻で、ボクは滑稽なピエロだった。
自分でも笑ってしまうよこんな終わり方。
でも──────あの子は、違った。
自分のやっていたことに絶望しながらも、そこから前を向いて立ち上がった。
歯を喰い縛りながらも、目を逸らさず、また歩き始めた。
ボクにはそんなこと到底出来ない。
……………なんだ。ボクよりよっぽど強いじゃないか。
あの子は、夢を見つけられそうだと言っていた。
それを、ボクのおかげだと言ってくれた。
ボクは─────────あの子のバディ、だ。
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────下北病院1階。地下室へと続く道。
「………威勢だけだったようだな」
「く………ッ!」
天使のバザーが見下すようにわたしを見つめる。
「私も忙しい。とっとと死ね」
「まだ………だよ」
わたしは何度でも立ち上がる。
「しぶといな。アイツもそうだったが、お前らにはつくづく邪魔される。………以前お前らを不良品と呼んだことを撤回しよう。お前らは不良品を超えた害悪だ」
「それも撤回させるよ……!」
「ほざけ。もうお前の負けだ」
バザーが眼鏡を取り外す。
本気の合図のようだ。
「バザー………あなたも進む以外道がなかったんだね」
「………何の話だ?」
あの時、真実の絶望に打ちひしがれて気づくことはできなかった。
「ニンゲンのバザーの話だよ。あの時はそんな暇なかったけど………今なら分かる。バザーはカレンさんが好きだったんだね」
「………だから何だ?それはニンゲンの
「あなたも記憶があるはずだよ、バザー。用心深いあなたはきっと、記憶をそのままにあなたを作った」
バザーは自分しか信用していない。
だからこそ、天使の自分を作ったんだと思う。
憶測に過ぎないが、確信に近い何かがあった。
「カレンさんが死んで、バザーも絶望したんだよね。そして───託されてしまった。目的さえわからぬ使命を、バザーは継いで────────」
「黙れ!!」
バザーらしかぬ、荒げた声だった。
「お前と俺を一緒にするな……!反吐が出る……!」
バザーがここまで感情的になったのは初めて見た。
「……同じだよ。わたしと同じで、先の見えない道を合ってるかも分からずただ進んだ。それが正解だと、盲信的に信じて。でも、それじゃだめだよ。わたしたちは、自分で考えて自分で道を選ばなくちゃいけない!」
「減らない口だな。今すぐ息の根を止めてやる……!」
「…………ッ!」
バザーが獣のように唸る。
射殺すような殺意が向けられるが、決して屈しはしない。
これこそが自分で考えて、選んだ道なのだから─────────!
「ボクのバディに触れるな────────!!」
───窓ガラスを突き破り、美しい翼を携えた天使が侵入した。
神秘的で、幻想的な神々しさを纏った天使は、ゆっくりと立ち上がる。
「───待たせたね。キミのバディは復活したよ」
「レイナ……!」
恐れるものはない、いつもの自信に満ち溢れた少女が、そこに立っていた────────。
「……もう二度と起き上がれないようにしたつもりだったが?」
バザーが警戒心を込めて、レイナを睨む。
「悪いね、ボクは無敵なんだ。それよりバザー。いつになく感情的だね。何か図星でも突かれたかい?」
レイナが軽口で挑発する。
「来てくれるって、信じてた」
レイナに駆け寄る。
───本当に、美しい眼差しだった。
「………ウィシュ。積もる話はあるけど、キミはこの先に行きたいんだね」
「……うん」
「なら、任せてよ。ボクが無敵ってこと、証明してあげる」
レイナがバザーに目線を合わせたまま、握りしめた拳を差し出す。
「………了解バディ」
拳で返す。
ここからが、逆転劇の始まりだ───────。
───地形は屋内。廊下の一方通行。
広さはそこそこあるが、先に行くには立ち塞がるバザーを突破するしかない。
先に仕掛けたのはわたしたちだ。
レイナが携帯している煙幕をバザーに投げつける。
「………ふんッ!」
バザーが速攻翼でかき消す。
それまでに距離は詰まった。
「………ッ!」
バザーの拳をすんでで躱す。
レイナの特訓がここで活きる。
絶えず勢いをつけた回し蹴りが飛んで来る。
「任せて!」
レイナが盾になり、上手く流す。
「今!」
その隙に、わたしは地下室への道を駆け抜ける。
「させるか────!」
バザーが携帯していた銃を取り出し、わたしの脚めがけて発砲する。
「レイナ!」
「おっけ!」
レイナがナイフを投げつけて銃弾を弾く。
わたしはそのまま振り向きもせず走り去る。
それは、バディへの最高の信頼故の行動だった。
「あっれぇ〜。今度はボクが門番になっちゃったみたいだねぇ」
レイナが不敵に笑う。
「………お前が一度でも私に勝てたことがあった?」
バザーがレイナを睨む。
レイナはそれに全く動じない。
「心配ないさバディ。ボクは無敵なんだ───!」
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