5章 第3話 決戦

 ────下北病院2階廊下。

「………お前がNo.2か」

殺意を隠すことなく、人間のバザーが睨みつける。

「そうよォ☆初めまして☆」

「………お前は聡明だったと聞いていたが?」

バザーからしたら、カプチーノが裏切るのは予想外だったのだろう。

「外聞なんて当てにならないモノよ☆ほら、殺しあう準備をしなさい☆」

カプチーノが銃を構える。

 天使のバザーは、反則級だと言っていいくらいに強い。

 なら、元になった人間も油断は出来ない。

「今は命を救う側の職にあるのだがな」

体をしならす。

 すでにオーラから違う。

 隙は───一切ない。

「あ、一ついいカシラ?」

思い出したように、カプチーノが尋ねる。

「………なんだ?」

「ずっと引っ掛かってたのよねェ。普通の天使は適当に選んだんだろうけど、大天使にはもっと他の、があったんじゃないかって」

「………何が言いたい?」


「大天使って?」


 バザーが驚いたように目を見開く。

「…………」

「アラ?図星カシラ?そうよねェ。それなら辻褄が合う。生まれたときからアタシたちは殺し方を知っていた。殺人の無常感や快楽を識っていた。レイナちゃんは………ポテンシャルで選んだだけだろうから違うケド。アタシたちは生まれつきのロクデナシだったってコトよね?」

「………概ね正解だ。堕天使を討伐する上で最適な人材は殺し屋だった。私の昔の同業者の内、選りすぐりだけを記録し、大天使を作った」

「ま、そんなコトだろうと思ったわ☆別に恨んじゃいないわ。………世の中そういうモノだって、この体が言ってるもの」

「………無駄話は終わりだ」

もうお互いに交わす言葉はない。

 戦いの火蓋は切られた──────────。


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ───下北病院より200mほど離れた廃工場。

 戦いはすでに始まっていた。

「どうした?俺を止めるんじゃなかったのか?」

ライヤーは息切れすらしていない。

 対してジョンは、すでに立つのがやっとだ。

「抜かせ。勝負はこっからだ─────!」

 "具現化"を発動する。

「く───ッ!」

いまだに慣れない苦しさがジョンを襲う。

 体力も、精神も擦り切られてる気分だ。

 ライヤーの周囲に無数の武具を展開する。

「………ジョン。お前の手の内を知ってるのは分かってるだろ」

ライヤーも"具現化"を発動する。

 ジョンの武具がライヤーを全方位から狙うのに対して。

 ライヤーは全方位に盾を展開した。

 武具が放たれる───!

 だが、ただの一つも、ライヤーには届かなかった。

「イカサマだろあんな能力………!」

ライヤーは全てを具現化出来る。

 それに、限界をいまだに知らない。

 まさに天才。いや、創造神の如き能力だった。

 だが─────────。

「それ故の驕りだ」

 ライヤーは神ではない。

具現化は囮。その隙に───ジョンはライヤーに急接近していた。

 ナイフを身構える。躊躇はしない。

 ライヤーめがけてナイフを突き立て─────。


「ジョン。親友の考えることはお見通しさ」


───突如、前方から衝撃波がジョンを襲った。

「か──はッ!」

何が起きた?

 突然のことで理解に遅れる。

 吹き飛ばされてやっと、それもライヤーの具現化だと気づいた。

「終わりだジョン。俺は先に行きたい」

ライヤーはもはやジョンに目もくれてなかった。

「……そんなに救いが欲しいのかよ」

「ああ。これが俺の使命だ」

「───ウィシュはそんなこと望まないぞ」

「………だとしても、だ」

「………ライヤー。ウィシュに言いたいことは言っといた方がいい。───親友からの助言だ」

ジョンが具現化を展開する。

「────!!ジョン死ぬ気か!?」

ジョンは具現化を短い周期で二度以上使えない。

 使えば────どうなるかは分からない。

「死ぬつもりはない。絶対────お前を止めて、僕は生きて帰る」

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