5章 第2話 決戦前夜

「───これが、ここに来た理由だ。あの時止められなかったライヤーを止めたい。おそらく目的地は下北病院の地下室だ。そのために、オタクたちの力が必要なんだ」

「ライヤー………」

 あの後無事だったことに一安心するも、そんなことを考えていたなんて衝撃だった。

「……そうね。話が絡まってきたから、一旦整理整頓しちゃいましょ☆」

 ひとまず、カプチーノの提案に乗った。

 お互いに情報を擦り合わせる。

 まず、勢力の確認。

 わたしの陣営は、利害が一致しているレイナ、カプチーノ。

 ジョンは、手を貸すなら加わってくれる模様。

 ガイア陣営はほぼ壊滅状態。

 脅威にならないと言って差し支えない。

 敵対している大天使陣営はバザーのみ。

 しかし、バザーはただでさえ強い上に、天使と人間の二人いる。一番の脅威だ。

 そして、ライヤー。

 敵対はしたくないが、やろうとしてることは止めなくてはならない。

 おそらく、下北病院を目指すライヤーは、バザーとの戦闘は避けられないだろう。

 実質的に、わたしたち、バザー、ライヤーの三つ巴というのが分かりやすい現状だった。

「ライヤーはもちろん止める。だから、ジョンも手伝って」

「ああ、惜しみなく手を貸すつもりだ」

「となると、バザーとライヤーが争った後に、漁夫の利したらイイんじゃないかしら☆」

「それは出来ない。バザーは二人いるから、もう片方の相手をしなきゃいけない。それに、出来ればライヤーも死なせたくない」

「でも、それって大分ムチャな話じゃないカシラ?バザー二人とライヤー一人。バザー一人はアタシが相手するとして………」

「ライヤーは僕が止めたい。無理なら構わない」

「ウィシュちゃん一人でバザーを止めれるカシラ?」

カプチーノが尋ねる。

 ………おそらくわたし一人じゃ不可能だ。

 でも───────。

「わたしとレイナなら出来る、はず」

「レイナちゃんを戦力として数えるのは現実的では無いわよ」

レイナは角でうずくまってる。

 まるで、外の世界を一切合切閉ざすように。

「それでも、わたしは信じてる」

カプチーノも、それ以上は何も言わなかった。



 ─────話がまとまった。

 目標は、バザーの撃破。

 そして、ライヤーの計画の阻止だ。

 ライヤーはジョン。

 人間のバザーはカプチーノ。

 天使のバザーはわたしとレイナが相手をする。

 各々これで納得した。

「よし☆それじゃ、決行は夜明けよ☆各々休息と準備はしておきなさい☆」

「あ、ちょっと待って。みんなに言っておきたいことがある」

「何だ?」

「わたしも地下室に用があるの。だから、バザーを突破したらそこに向かいたい」

 身勝手なことだが、どうしても気になることがある。

 もしかするとそこに──────────。

「アタシは構わないわ。けど、バザーは強いわよ」

「分かってる。けど、そこなら見つけられるかもしれないんだ」

「何をしたいのかは知らないが、ライヤーみたいにはなるなよ」

 承諾は得れた。

 そこからは各自、時間まで自由行動になった────────。



 ────カプチーノと少し話した。

「わたしたちの都合に合わせちゃって、ごめんなさい」

バザーと正面切って戦う他にも方法はあったはずだ。

 しかし、それではライヤーが無事では済まない。

「こうなっちゃったら仕方ないわよ☆それに、アタシもバザーから聞きたいことがあったから好都合なのよねェ☆」

 ケラケラとカプチーノが笑う。

「………改めてだけど、わたしに心があるって言ってくれてありがとう」

 カプチーノがいなかったらわたしは立ち直れなかった。

 今のわたしがあるのはカプチーノのおかげだ。

「ま!☆照れるわねェ〜。ちょっと熱くなっちゃっただけだケド⭐︎」

「………本当に、何から何までありがとう」

「………辛気臭い話はやめましょ。ホラ、男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強よ☆任せなさい、絶対役割は果たすわ☆」

「……うん、そうだね。お互い頑張ろう」

 高らかに笑うカプチーノに、わたしも元気をもらった──────────。


 

 ────ジョンと少し話をした。

「僕がガイアについたのは、篠原アキヒロ《アイツ》を死なせたくなかったからだ。ミカをあんだけ責めておいて、立つ瀬がないよ」

ジョンが自虐する。

「オタクらに何も伝えなかったのは、あれ以上負担をかけたくなかったからなんだ。ライヤーと黙っていなくなったのは悪いと思ってるが…………すまない。言い訳がましくなった。………ミカとローズは、もういないんだよな」

「……うん。もうあの頃には戻れない。だからわたしたちは進むしかない。あの二人の代わりに」

「………そうだな。僕にはもう"逃げ場"なんて甘えがないことを知った。誰かの命を奪って、誰かに命を託されたなら、適当に生きることは許されないんだ」

 ジョンが前を向いて言った。

「いっしょに、奪った命に向き合っていこう」

「ああ。そして、ライヤーは絶対に止める。これは親友としての────"けじめ"だ」

「あんまり無茶はしないでよね。"具現化"がなかったらカスなんだから」

「やんのか」

やはり、ジョンとはこういう関係が一番しっくり来る。

 そう、わたしは思った──────────。



 ────レイナに声をかける。

「レイナ………」

「…………」

俯かせた顔は、下を向いたまま。

 いつもの傍若無人ぶりは、見る影もなかった。

 わたしは、レイナに言わなければいけないことがある。

「………レイナ。今までありがとう。わたしを気にかけてくれて。わたしのことを機械じゃないって言ってくれて。わたしの───バディになってくれて」

「…………」

 強い子だと、勝手に思っていた。

 でも、それは間違い。

 わたしは気付けていなかった。

 レイナは、強がりさんだった。

 誰よりも幻想的で、美しい見た目ながらも、その中枢は、年相応のやさしい子だった。

 いくら強気な態度だろうと、傷つけられたら人並みに痛いし、友だちが傷ついたら自分のことのように心配出来る。

 お母さんが大好きで、一途に探していたのも、レイナがそんな子どもだったから。

「お願い。バディとして、最後に手を貸してくれない?」

「……………ボクには無理だ。頑張れる理由が無いんだ」

涙声で、レイナが答える。

「………レイナ。あなたにだけ最初に伝えたいことがあったの」

レイナは俯いたままだ。

 構わず続ける。

「わたしにも────やりたい"夢"が見つかりそうなんだ。あなたが、それを持っていいんだ、って気づかせてくれたから、誰よりも初めに伝えたかった」

「…………」

「………そろそろ時間だ」

 朝日が昇り始める。

 わたしたちの世界などお構いなしに、明日はやってくる。

「待ってるから─────」

煌々と輝く暁。

 それに照らされて、わたしは歩き出した─────────。



 ────約束の時間。

 各々、準備は万全のようだ。

「結局あの子は来なかったか」

「ま、仕方ないわよ☆行きましょ☆」

「みんな最後に。────必ず生きて帰ろう」

「ええ☆」

「もちろんだ」

互いに誓い合う。

 最終決戦の幕が開けた──────────。

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