5章 第1話 これから

「……流石にもう落ち着いたよ。ありがとうカプチーノ」

 一通り大泣きしたおかげか、気分はだいぶ良くなった。

「アラァ?もういいの?ここは定番の『キレイな顔が台無しじゃない』言いたかったんだケド☆」

カプチーノもいつものハイテンションに戻ったようだ。

「それで───カプチーノはどうするの?」

泣き止むまでは情けで見守ってくれただろうが、ここからはおそらく敵同士だ。

生きた屍のように動けないレイナを庇うように身構える。

恩人とは言え、油断はできない。

「ま!☆ちゃんと生きる気になったのね☆」

カプチーノは気分がよさそうに笑った。

「うん。奪った命と向き合って、背負ってくことに決めたよ。だから死ねない」

機械ではないから。

 心があるからには、生きようと誓った。

 夢でもやりたいことでもなく、それ以前に大切なことだった。

「うーん、サマになったわねウィシュちゃん☆もう虐めるのはオシマイよ☆」

そう言うと、持っていた銃を適当に投げ捨てた。

「…………へ?」

「殺す気なんて無いわよォ☆そもそもラフぶっ殺しちゃった時点で、アタシもバザーの指名手配リスト入り☆つまり、アナタたちとは呉越同舟の関係ってコト☆」

 ケラケラと笑いながらカプチーノが言った。

嬉しいけど………なんだか拍子抜けだ。

「でも、ウィシュちゃん。アタシがアナタの味方になりたいって気持ちはホント。なんだかんだ虐めちゃったケド………アナタはとってもいい子だもの。正しい正しく無い関係なく、ね☆」

カプチーノがウィンクする。

「………ありがとう、カプチーノ」

「お礼を言うにはまだ早いわ。多分、こっからが一番忙しくなるもの。まずはお互いに情報交換といきましょ☆」


「………それなら、いい情報屋がいる」


 後ろから声に振り返る。

 そこにいたのは───────────。

「久しぶりだなオタク」

「ジョン」

かつての仲間のジョンだった───────。



「アナタがジョン………イイわね☆」

 なぜかカプチーノが舌舐めずりする。

「………なぜだかゾッとしたよ。オタクは誰だ?」

ジョンが引き気味に尋ねた。

「カプチーノよヨロシクねェ〜〜!」

「なあ、オタク今はこんなのとツルんでるのか」

「カプチーノはいい天使だよ」

「実感湧かないな。……………。自己紹介の前に、僕はしなくてはいけないことがある」

 そう言うと、ジョンは覚悟を決めた顔をした。

「僕はガイア側の天使だった。そして、大天使の一柱ダンゾウを殺した」

「──────!」

「ウィシュちゃん罪悪感に苛まれる必要はないわ。ダンゾウは情けをかけて死ぬような天使じゃない。それはむしろ、侮辱よ」

カプチーノが先回りしてクッションを入れる。

「いや、わたしは大丈夫。そっか………ダンゾウが………。最期はなんて?」

「『これがお前が初めて殺した者の顔だ』だとよ。………謝りはしない。それは、アイツも望んで無いだろうから」

「ダンゾウらしいわね……。ダンゾウの件はアタシも恨みは無いわ。あれもアタシと同じでロクデナシだもの。でも、それとこれとは話が別。アナタを信用出来るってだけの根拠を頂戴?」

 カプチーノが警戒心を露わにする。

 ダンゾウを殺せるほどの強者に警戒するのは当然の反応だろう。

「いや、ジョンは信用できる。こんな死んだ目をしてるけど、この眼は信用できる」

「相変わらずだなオタクも」

ジョンがジト目で睨む。

 擁護したつもりだったのに………。

「……ま、ウィシュちゃんが言うんだからその通りね☆疑っちゃってごめんなさいねェ☆」

「僕が言うのも何だがそれでいいのか……?」

「それで、ジョンは何でここに来たの?」

まずそれを聞いてなかった。

「ああ、信用してくれるなら話そう。僕は、


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「悪いな。これが俺の"夢"だ」

ライヤーが背を向けながら言った。

 顔は見えない。

「俺は人も天使も救いたい。その為のパーツを見つけたんだ」

「なんだよ……。藪から棒に……」

 いつものライヤーでは無い。

 まるで別人のような─────。

「バザーの話を聞いて、ガイアですら思いつかなった鍵を見つけてしまったんだ」

「何言ってんだライヤー……」

「"天使を作る機械"………それさえあれば俺の"夢"は完全になる………」

「ライヤー!!」

「なあ、ジョン。俺がガイアについたのは、真実を教えてくれたからだけでは無い。天使を救いたいっていう気持ちもあったからなんだ」

ライヤーが振り返る。

 その顔は───何か別の次元に至った、神の如き眼差しを宿してた。

「この世から不幸をなくす。その方法は本当にあったんだ。俺は全ての人を。その上で、全ての人を使。そして、使。そうすれば、不幸な人間や死にたい人間はいなくなり、天使は全員自由を手に入れる。本物の楽園は築ける……!」

 子どもが大きな夢を語るように、興奮気味のライヤーは言った。

「荒唐無稽過ぎる。ライヤー、自分が何をしようとしてるか分かっているのか?」

「もちろん。暴論なことも重々承知の上だ。ジョン、お前と今ここで対峙するのも覚悟している。その上で、俺は語った」

「なら、なんで………!!」


「不幸せな人と天使を見過ごせないんだ、俺は。ウィシュを笑えないよ全く」


「───なんだよその顔」

「ここで、お前とはお別れだ。今まで楽しかったよジョン」

去っていくライヤーを、俺は止めることができなかった────────。


   





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