4章 第8話 別れ道

 ────ウィシュタリアの吐露より、数刻前。

 戦場は空中に移り、より激しさを極めていた。

「………なんだは?」

 バザーが眉を傾ける。

 バザーはガイアたちの"切り札"を知っていた。

 ───"具現化"を天使の身で使う。

 "具現化"は心を腐らせた堕天使にしか使えない。

 これには少し、語弊がある。

 心をギリギリまで堕とすことによって、天使でも"具現化"を使うことは可能だ。

 だが、それに見合う欠点がいくつかある。

 まず、ギリギリのラインを見誤った瞬間、堕天使化してしまうこと。

 そして、習得するのに死ぬほどの労力を費やす上、体力的に回数制限があること。

 天使が手にするには、あまりにリスキーでコストのかかる能力だ。

 だが、ライヤーの使う"それ"は、明らかに特異的なものだった。

「それが"権能"ってやつか。厄介だな」

ライヤーが血反吐を吐き捨てる。

 ダメージはかなり効いているようだった。

「答えろ。"それ"はなんだ?なぜ?」

「答える義理はないな。だが、あえて言うならば…………根性だ」

ライヤーが不敵に笑う。

「………聞いた私が馬鹿だったようだ」

どちらにせよ、形勢はバザーが完全に有利だ。

 後は詰将棋──────────。


「───ライヤー!!」


 声とともに、バザーの周囲八方に無数の武具が展開される。

「ちぃ────!」

権能で即座に消し去る。

 だが────すでにライヤーの姿はなかった。

「増援か………」

 まあいい、とバザーは病院の方に顔を向ける。

「この戦いは我々の勝利だ」



「ったく、無茶しないでくれライヤー」

ジョンがため息を吐く。

「悪い悪い」

ライヤーは軽快に笑った。

 この調子では命がいくつあっても足りない。

「それよりジョン。顔つきが変わったな」

「………ああ、こっちも色々あったんだ」

「生きてて何よりだ。戦況は?」

「大将のガイアが死んだ。他の仲間ももうダメだ。事実上、こっちの大敗だ」

「………やっぱりな」

「やっぱり?」

ライヤーの一言にジョンが訝しむ。

「ガイアはおそらく、この戦い勝てるとは思ってなかった」

「は?どういうことだ?」

「大天使の強さはレベルが違った。そのことは、誰よりもガイアが知っていたはずだ」

「なら、なんでガイアは挑んだんだ?」

「確信はない。けど………ガイアの言っていた天使の幸せは、嘘偽りのないもののはずだ」

一人考え込むように、ぶつぶつとライヤーが独りごもった。

「………僕に説明してくれライヤー」

「ジョン。お前はこれからどうする?」

 急にライヤーが話を振った。

「僕?特に決めてないが………」

「悪いが、ここで分かれ道かもしれない。俺には"夢"が出来たんだ」

「……は?何言ってんだライヤー」


「俺はヒトを───いや、人と天使両方を救いたい」

 

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