4章 第6話 あなたの横で

「───病院は上北病院に移転させた。そして、下北病院は天使たちの巣として扱うことにした」

バザーの話を聞いたわたしは、呆然と立ち尽くしていた。

「だから、お前たちに母などいない。お前たちは作られただけの機械だ」

バザーが冷たく言い放つ。

 そこには、一切の感情が込められてなかった。

「………デタラメだ」

レイナが震えながら声を上げる。

「そんなのデタラメだ!だってバザー、キミも天使だろ?!この話は矛盾している!」

 確かにそうだ。

 バザーは天使だ。人間でも、殺し屋でもない。

は人間だ。………そうだな。そろそろか」

 バザーが窓の方に目をやる。

 すると、突然翼をはためかせる音とともに、何かが侵入してきた─────────。

「やはりお前を大天使にしたのは間違いだったな」

そこにいたのは、もう一人のバザーだった。

 返り血なのか、左胸にかけて赤く染まってる。

「バザーが……二人!?」

「No.5に唆されたようだな。単調なものだ」

使

「……元?」

「………"天使を作る機械"の詳細を知ったのはすぐ後だった。それは下北病院の地下に隠されていた」

人間のバザーが語り出す。

「"天使"は無から生み出せるモノではない。その姿、人格、特徴は全て模倣されたものだ」

「………何が言いたい?」


「お前たち天使は、実在する人間をコピーした機械だということだ」


「─────!!」

「あの"機械 "にあらかじめセットされていた人間は、下北病院の患者たちだった。どういう意図があったか分からんがな」

 そう言うと、人間のバザーが立ち上がった。

 わたしたちは……作られた機械だった?

「じゃ、じゃあこのヒトは!?このヒトは誰なの!?」

レイナの大声にも動じず、隣で眠り続ける女性に目をやる。

「………No.5の言ってたことは半分正解だ。その女はNo.6だ。その元は、今は亡きヒトだがな」

「───────」

「母親も病気で耳が悪く、音はもうほとんど聞こえない。視力もだいぶ落ちている。こんな暗闇じゃ見分けはつかない」

「──────」

「No.5、諦めろ。お前に母親なんていない」

レイナが膝から崩れた。

 その顔は───絶望に染まっていた。

 天使のバザーが銃を取り出す。

 するとレイナに向けて発砲を始めた。

 無抵抗に銃弾にさらされたレイナが倒れ込む。

 それに向かい、何度も何度も発砲する。

 唯一母親と呼べるかもしれない女性が眠る横で、レイナはズタボロにされた。

「もうやめて!!」

わたし自ら盾になるよう庇う。

 天使の生命力故に、死にこそ至らないものの、激痛がわたしを襲う。

「あァ……ッ!」

「お前もお前だNo.349。どうして真実など知ろうとした?」

天使のバザーが冷え切った声で尋ねる。

「………知らなきゃいけなかったから。わたしたちのやってることが正しいことかどうか。どうして、わたしたち天使は人間を殺さなきゃいけないの………?」

 激痛に耐えながら威勢を保つ。

これを知るためだけに、ここまで来た。

「………その答えは私は持ち合わせていない。あらかじめ天使にインプットされていた存在意義が、特定の人を殺すというものだった。真相はカレンしか知り得ない」

「そんな、理由もないままわたしたちは………!」

「お前は機械なのだろ?理由など必要ないはずだ」

「…………!」

わたしが、機械なら。

 確かに理由なんていらないはずだ。

 わたしは────────────、

「話は終わりだ。お前たちは絶望を胸にここで逝け」

 バザーが標準をわたしの頭蓋に合わせる。

 そのまま、わたしは──────。


「させるかよ!!」


何かがバザーめがけて飛び込んだ。

 バザーが防御の姿勢をとる。

「誰だ?」

「ライヤー。ウィシュタリアの親友だ」

────そこに立っていたのは、ライヤーだった。

「ライヤー……?」

「おうウィシュ。久しぶりだな」

ライヤーは爽やかな笑顔で振り向いた。

「なぜここにいる?」

「ガイアからここに来るよう命令されてな。話は一部始終聞かせてもらった。ここは俺に任せて逃げろ」

ライヤーが構える。

「でも……ライヤーが……!」

「俺はまだ死なない。"夢"が出来たんだ」

 ライヤーが真っ直ぐな目で答えた。

「─────。任せていいんだね」

「ああ、リーダーを舐めるなよ」

 ライヤーを信じることにする。

 わたしはレイナを背負ってその場を後にした───────。

 

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