4章 第4話 逃げ場
「ま、こんなもんさな」
一通り天使たちをはっ倒したダンゾウが独りごちる。
「ったく、こんな有象無象集めた所で敵わないのはあの坊主が一番知ってるだろうに」
ガイアの考えがさっぱり分からない。
アイツは頭のキレるやつだった。
だからこそ、こんな無謀な戦いを挑んだことが、疑問でならない。
いっそ、罠でもあるのか疑うくらい─────。
「あ?まだ残っていたか?」
木陰に潜んでいるヤツに話しかける。
「………なんでわかんだよ、オタク」
そこにいたのは、ひょろひょろとした、ウィシュと見かけの歳が大差ない子どもの天使だった。
「あん?ガキか?言っとくが容赦はしねーぞ」
「そう言う割には、誰も殺さないんだな」
「………あまり舐めるなよ。"約束"故だ」
あのお人好しの嬢ちゃんが頭に浮かぶ。
殺しに一切の感情はないが、義理は守るタチだ。
「凶器を捨てて投降するなら、一発で勘弁してやる」
「……なぁ、その前にオタク。"篠原アキヒロ"って名のニンゲンのガキを知ってるか?」
唐突な話題に、ダンゾウは困惑する。
「………誰だそいつ?殺したニンゲンなら悪いが覚えてなくてな。なんせ、数えるのも辞めちまった数だからよ」
「……そうか。ガイアの話は眉唾だが、それ以前に僕はここでやるしかないみたいだ」
「あ?もしかして仇討ちか?よしとけ。勝ち目は万に一つも────────」
「"具現化"」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
───明弘は最後、僕になんて言ったか。
ああ、思い出した。
「やっぱり生きたい」だったな。
だから、コイツを殺すわけにはいかなくて。
そんなとき、ふと───いや、意図的にガイアが現れた。
あいつの目的に興味はなかった。
ただ、明弘を殺さなくて済むなら。
そんな甘い誘いに逃げた。
だから─────罰が下ったのだろう。
─────明弘が死んだ。
自殺か、病気が悪化したか。それとも新たに送り込まれた天使によって殺されたか。
ガイアは"ダンゾウ"という天使が殺したと言っていた。
だが、そんなものはどうでも良かった。
僕は何でこっち側にいるのか。
僕は結局、何がしたかったのか。
残ったものは、自問する時間だけだった。
「"具現化"」
「─────!!」
ダンゾウが目を見開き得物に手をかけるが、もう遅い。
この一撃は必中。
逃げ場は────何処にも無い。
ダンゾウを取り囲んだのは、数多の武器。
剣、刀、槍、斧槍………数えきれない数の凶器が、ダンゾウ目掛けて発射される。
逃げ場はない。不可避の一撃。
"具現化"は本来堕天使の能力だ。
だが、これは天使にも使うことが出来なくはない。
これを会得するのに、心を何度も底へと落とした。
これを使う時の気持ち悪さは尋常じゃ無い。
短期間に二度も使えば、精神的におかしくなってしまう。
それ故の威力だ。
ダンゾウも原型すら留めてないはず─────。
「……効いたなこりゃ。"権能"でも消しきれねぇ。まさか全方向たぁ驚きだ」
───大天使はそう簡単には死なない。
ガイアからの忠告を思い出す。
ダンゾウは確かに致命傷を負った。
しかし、まだ動けるだけの力は残っているようだ。
「………バケモノかよ」
足が震える。そのせいで逃げたくても逃げれない。
さっきのが切り札だった。
こいつに敵う術はもうない。
おそらくダンゾウも死ぬが、それまでに僕も殺される。
「………小僧、名は?」
「……ジョンだ」
一歩、また一歩と迫り来る。
限界の恐怖というのは、逃げることさえ許さない。
「………ぐッ!」
頭を鷲掴みにされる。
そうして僕は殺され───────。
「………温室育ちのクソガキが。いいか。これがお前が初めて殺した者の顔だ」
ダンゾウが顔を寄せた。
決して目を離さぬよう、この顔を焼き付けるように頭を離してくれない。
ダンゾウは今にも死にそうな顔つきだった。
しかし、その目に宿るものは毛色が違った。
強い、とても強い眼差しだった。
それはもう、忘れることも出来ないような。
途端、頭を押さえつけていた腕の力がなくなる。
ダンゾウが地に伏した。
………永い眠りについたようだ。
「………はぁ………はぁ」
動悸が止まらない。
身に迫った死への恐怖故か。
それとも、初めて殺した動揺故か。
定かではないが、ただ一つ、真実が残った。
「僕には………もう逃げ場はない」
何がしたいか。何を為さねばいけないかは、分からない。
ただ、先を行く他に、僕には道は無かった──────────。
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