4章 第3話 神様
「はい、これでお終いっと」
無力化した天使を順に縛ってゆく。
───わたしとレイナは命令された場所を襲撃した。
そこには4人程度の天使が伏せていたが、問題なく数秒で無力化出来た。
「いやー簡単簡単。堕天使の方がよっぽど厄介だよ」
レイナが伸びをする。
一見油断しているようにも見えるが、周囲に人影がないかしっかりと目を光らしている。
「………お前らが、大天使………!」
縛った天使の一人が驚くような表情で声を上げた。
「あれ?まだ意識あったの?」
「流石だな……。敵わないとは思っていたが、これほどとは……」
「……一ついい?なんであなたはNo.5についたの?」
「No.5………ああ、ガイア様のことか」
ガイアという名前は初耳だった。
「かの方は私の命を救ってくれた」
「命を……?」
「そうだ。機械として使い潰されて、壊れるだけの運命にあった私に自由を与えてくれた。他の仲間もそうだ。ガイア様は絶望していた天使や、堕天使化しかけた天使を数多く救った。我々にとって、かの方こそが神様だ」
「でもそれって弱ってるところをつけ込まれただけじゃない?」
レイナがどうでもいいように呟く。
「……どう思われようと構わない。私にとって、救われたという事実は変わらない。それに、今やってることも間違いだとは思ってない」
天使は真っ直ぐな目で答えた。
「たとえ、それが不可能に近くても?」
わたしから見ても、戦力差は絶望的だ。
すると、天使は不敵に笑った。
「我々には"切り札"がある。生憎ここにいる子は誰も持ってないけど………あれさえあれば、互角足りうる」
……"切り札"?
そんな情報聞いた覚えはない。
「ハッタリはいい加減にしてねー。ほら、キミにもしばらく眠っていてもら──────」
「すぐ決めつけるのが君の悪いクセだレイナ」
背後からの声に、慌てて振り向く。
そこには、一人の男が立っていた──────。
「だ、誰………?」
ピエロのような仮面をつけた、長身の男がそこに立っていた。
体格からして、男だと推測出来る。
顔が分からないのもあるが、何だか不気味な雰囲気だった。
「その声………ガイアか」
レイナが男を強く睨んだ。
ガイア……!
じゃあ、この天使が今回のテロの……!
「そうだとも。隣にいるのは私の後釜の……ウィシュタリアか。初めましてだね」
ガイアが軽く頭を下げる。
礼儀は重んじるタイプのようだ。
「で、何の用?道化師の仮面なんてつけちゃって。たしかバザーがキミを担当する筈だったけど。バザーがやられたなんて考えられないし………尻尾巻いて逃げて来た?」
レイナが挑発をかけて情報を探る。
そうだ。計画では、バザーがガイアを相手取る手筈だった。
なぜこんなところに………。
「君たちに会いに来たのが要件だ。何やら私が君たちの役に立てそうでね」
「役に立つ……?」
ガイアが不敵に笑った───仮面で見えないが───ように思えた。
「君たちが探してる女神様。私は居場所を知ってるよ」
「─────!!」
レイナとわたしは顔色を変えた。
「場所は"上北病院"の11号室。君たちの拠点の廃病院"下北病院"の移転先だ」
「なんで私たちが女神様を探していることを………?いや、そんなことより、なんであなたは居場所を…………?」
「風の噂は思いの外飛ぶものだ。信じるか信じないかは君ら次第だ。ただ、言っておくが普段はバザーに警戒されている。バザーが私たちに目が離せない今この瞬間こそが、千載一遇のチャンスだよ」
(バザーが………?なんで………?)
「ウィシュ行こう!やっと手に入ったお母さんの手がかりだ!こうしちゃいられない!!」
レイナが興奮気味にわたしの腕を引っ張った。
「待って!罠かもしれない。それに、わざわざこれをわたしたちに伝えるメリットは何?」
迂闊に動けば、ガイアの思う壺だ。
それに、今はバザーの命令で動いている途中だ。
まだまだやることはあるし、無断での放棄は許されない。
「メリットはあるよ。君たち二人、特にレイナが戦場からいなくなるんだ。戦況が大きく傾くかもね」
レイナはバザーに次ぐ実力者。
確かに、理に適っている。
「でも、カプチーノたちが………」
カプチーノたちだって今も戦っている。
わたしたちが離れれば、大変なことになるかもしれない。
「アイツらは大丈夫。殺しても死なないよ。それより早く!」
レイナが焦燥に駆られている。
ここまで焦ってる姿を見たのは初めてだ。
「……最後に聞かせて。あなたの目的は何?」
「天使たちを自由に、そして幸せにすること。手段と最終的に行き着く結末は何でもいい。ハッピーエンドなら、何でもね」
表情は分からないが、これは嘘偽りない真実のように感じた。
いや、そんなことを聞いてる暇はない。
「ウィシュ………」
レイナは我慢をする子どものような、泣きそうな声でわたしを呼んだ。
………カプチーノたちと目的を天秤にかける。
「───────!無事でいてね!!」
歯を食いしばりながら、レイナの手を引いて走る。
わたしはカプチーノたちを信じる。
信じる、なんて都合のいい言葉だが、それ以上に泣きそうなまでに情けなくなったレイナを放っておけなくなった。
こうして、ガイアを背にその場を後にした───────。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
────大体目論見通りだ、とガイアは内心細く笑んだ。
あの二人を戦線離脱させることによる影響などはどうでもいい。
いや、そもそも、この戦いに勝てるとは微塵も思ってない。
あのバザーがいる限り、どれほど策を弄そうが無意味だ。
圧倒的強者とは、そういうものだ。
「これで芽は二つ。さて、どう芽吹くかな」
────天使の幸せ。
これこそガイアの求める究極の目的。
そのためなら手段も、その結末さえもが些細なものだ。
その証拠に、ガイアは自分の命をチップとしか見てない。
花を咲かせるだけの、水を買い占める金としか。
「順当に行けばウィシュは最高のハッピーエンドを作ってくれる。対して、彼はどんな結末を運んでくれるのだろうか」
ガイアは期待を膨らませながら、仮面の下で笑みをこぼした。
こうしてついつい笑ってしまうのが悪い癖だったが、仮面のお陰で上手く隠せている。
「さて、来客が来たようだ」
天使の行く末を見届けることはおそらく叶わない、とガイアは直感した。
なんせ、ここでガイアの人生は幕を閉じるという強い確信があったからだ。
「………殺す」
天使に似つかわしくない発言をしながら、黒い獣は殺気を放つ。
「そんなに睨まないでくれバザー。────笑っちまうだろ?」
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