4章 第2話 けじめ

 ───水野悠馬を殺したことは、ただの一つも間違いじゃなかったと今も思ってる。

 あの男には、未来が無さすぎた。

 銃を手に迫ったとき、あの男は怯えながらも、その瞳には若干の安堵の色が映っていた。

 だから、これであっていたはずだ。

 ………なぁ、そうだろウィシュ──────。 

 



────深夜10時。

「配置はOK。後はアイツの命令待ちだ」

銃を手にジョンが声をかけて来た。

「………ああ」

「………言っとくけど、今更引き返すことは出来ないぞ。僕たちはについたんだ」

ジョンが念を押すように言った。

 ────水野悠馬を殺したあの日の朝。

 ウィシュと別れた後、ジョンから"真実"を聞いた。

 大天使の話。堕天使の話。そして───女神なんていないという話。

 ジョンと俺は、"真実"を教えてくれたガイアと名乗る男についていくことにした。

 ───ウィシュたちを残して。

「最近こっち側についた天使が言うには、ウィシュは大天使になったとよ」

「そうか……流石だな」

「あまり驚いてないな」

ウィシュならば、なんらおかしくない。

 それだけのポテンシャルはあったと、とっくに知っている。

「ウィシュだけとは鉢合うのは勘弁だね」

「やめてくれ。フラグになったらどうしてくれる」

 ジョンが頭を抱える。

 ………俺たちはガイアについた。

 人間を幸せにするという存在意義を放棄して、自分たち天使の幸せと自由を勝ち取るのが、ガイアの目的だ。

 つまりは、反逆行為だ。

 これからやろうとしているこの廃病院の占拠も、その内の一つだ。

 大天使たちとは、真っ向から矛を交えなければならない。

「今言うのもあれだが、勝てるのか僕たち?」

「戦力という話ならまずゼロに近いな」

大天使は通常の天使と比べて個体値が高い。

 頭にゼロ距離で発砲しても、死ぬどころか、下手したら気絶すらしないかもしれない。

 いくら数で上回っているとはいえ、戦力差は絶望的だった。

「ま、そのための"切り札"だ。今まで死ぬ気で練習してきたろ」

その切り札込みで、やっと五分といったところだが。

「………なあ、ライヤー。この際だから聞くが、あのニンゲン殺す必要あったか?」

ジョンが苦い顔で尋ねた。

 "あのニンゲン"は、水野悠馬で間違いないだろう。

 ジョンとしても、気になってはいたが、踏み込みづらかったようだ。

「天使の仕事を放棄することこそ、ガイアの求めてるものだ。だから、殺す必要はなかったんじゃないか?」

 ジョンが言っていることは最もだ。

 人の幸せではなく、我々天使の幸せを求めてガイアについた。

「………ただの"けじめ"だよ。深い意味はない。………そろそろ時間だ」

 時刻を確認し、準備を整える。

(ウィシュとは会いたいが………会いたくないな)

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