2章 第4話 三島理恵
対象の名前は三島理恵。
性別は女性。年齢17。学生。住所は同じく趙糸街。
なんてことはない。今回も同じように、死んでもらうか、殺すかだ。
わたしは、機械だ。
心を持たない、ただ存在意義を果たすだけのシステムに過ぎない。
それはこれからも変わらない。
今から救済する対象も、今までと同じように殺───────。
「帰れ」
そう言われるや否や、拒絶するかのようにドアを思い切り閉められた。
───三島理恵宅。
インターフォンを鳴らして、誰かが出て来たまではよかった。
しかし、その人は何と勘違いしたのか、ドアを固く閉ざした。
おかげで門前払い。この始末だ。
(………困った。このままでは家に上がれないどころか、三島リエに会えない)
いきなりでかい壁にぶち当たってしまった。
(打つ手は………)
天使の能力である透明化を使う。
それから、家の周りをぐるりと一巡して────ひらめいた。
(……あ、2階の窓開いてる)
─────認めよう。悪気はあった。
初めは、調子に乗ってるへらへらした顔が気に食わないから少しイジってやりたいとか、お金がないからちょっとだけ巻き上げてやろうとか、そんな感じのものだった。
それがだんだんエスカレートしてしまって、周りの期待的にも、後戻りが出来なくなってしまった。
結果的に、そのいじめられていた少女はこの世からいなくなった。
少なからず罪深いという意識はあった。
人一人を間接的にとは言え、殺めたのだ。
だけど────それ一つで私の人生が台無しになるなんて、夢にも思わなかった。
インターネットは世界中と繋がれるとはよく言ったものだ。
私の行いはメディアに取り上げられ、一生消えない烙印となった。
私に味方はいない。
同じグループのやつらは
沢山いたフォロワーも今や見る影もない。
(…………)
こんな最悪な世界なら、もういっそのこと────────。
「……………ん、しょ」
窓の方で何か声がした。
(………何?)
部屋は閉め切っていたはず────いや、ママが開けなさいってうるさかったから窓開けたんだっけ。
それでも最後の抵抗とばかりに、カーテンを閉めて光を遮断していたはずだ。
窓の方に目を移すと、カーテンがもぞもぞと動いている。
「ひっ………!」
(何!?泥棒!?……そう言えばさっきインターフォン鳴らしてたヤツ、私への嫌がらせかと思ったけどもしかして………!!)
カーテンが踊るように開けられる。
差し込んできた日の光に目を細める。
(ヤバい……!視界が………!)
「──ふぅ。初めて翼使ったけどなかなか思うように飛べないや。……おかげで背中がズキズキする」
開口一番聞こえたのは、よくわからない素っ頓狂な泣き言だった。
「………え?」
「……あ、えっと。初めまして。わたしはウィシュタリアです。三島理恵さん………ですか?」
呆気にとらわれていた私に気づいたのか、その子は体を私の方に向けて、挨拶し始めた。
私の部屋に入り込んできたのは、私より一回り小さい、天使のような子だった─────────。
「……あ、えっと。初めまして。わたしはウィシュタリアです。三島理恵さん………ですか?」
何とか翼を動かして窓に張り付くことが出来たものの、背中に大きな負担が掛かったせいか、かなり痛む。
──天使には透明化以外にも翼創造という能力がある。
その名の通り翼を生やし、空を飛ぶことが出来る能力なのだが、初めて使うだけあってコントロールに苦戦した。
結果的に、翼が背中の筋肉に直結してるからなのかわからないが、ひどい筋肉痛みたいなダメージを負った。しばらく痛みそうだ。
話を戻そう。何とか窓から入るもとい、侵入すると、暗がりの部屋の中に人間の少女を見つけた。
「………!……ええ、そうよ」
一瞬驚いた様子だったが、名前を知っていることに驚いたのか、窓から侵入したことに驚いたのかはわからない。
「アンタ………何者?どうして窓から……?」
「ドア閉められちゃって。どうにか入れないか思案していたら、たまたま窓が開いていて………」
「ひっ………!それだけの理由で窓から!?頭おかしいんじゃないの!?」
ひどい言われようだ。そこまでおかしいこと──────。
(いや、振り返ってみると割と不審者かも………)
これ以上考えるのはやめておこう。
(………?というかこのヒトどこかで………)
「………あ!!」
「な、何……!?」
「思い出した!あなた、ハルカの友だちの!」
どこかで会ったことがある気がしたが、気のせいではなかった。
初めての仕事の2日目の夜。
クレープ屋の手前で会った二人組。
その内の、髪型がショートだった子だ。
「………あ!?アンタあの時の!!」
あっちも気づいたようだ。
まさかこんなところで、こんな形で再び会うことになろうとは。
だが、一つ気になるところがある。
あの時のような、圧迫感のある鋭い眼光がなりを潜めている。
今あるのは、死にかけたような薄暗い目だった。
「あなたに用があるの」
わたしがそう言うと、理恵が怯えるように後ずさった。
……不可解だ。確かに侵入の仕方はそっくり不審者だったかもしれないが、ここまで怯えられるのは想定外だった。
「………で?何?どうしたいワケ?遥香の仇とか言って私を殺すつもり?」
まるで強がるように理恵が言い放つ。
「いや、殺すつもりではあるけど………」
「ひっ……!」
理恵がまたもや後ずさろうとするが、不幸なことに足を滑らせて転倒した。
バタンッ!と大きな音が床全体に響き渡る。
「……痛っつ!」
「大丈夫!?」
すぐさま理恵に駆け寄る。
「ひっ………!く、来るなっ!あっちいけ!」
理恵が取り乱した様子で、拒絶しながら手を振り回す。
(………どうしよう、これ)
意思疎通は不可能なようだ。そんな風に途方に暮れていた矢先─────────、
「理恵〜下まで響いてるわよ。このままじゃ床が抜け───て、アラ?」
予想だにしなかった、第三者が現れた───────!!
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