第4話 キャンプ!
キャンプセットはさっきのカフェから借りた。
なんでもオーナーが無類のキャンプ好きらしく、頼んだら心良く貸してくれた。
今、ヒトの世界は夏。
寒くはないから、凍え死ぬ心配はない。
キャンプ場所は、近くの丘を登ったところにある公園の側の、使われてない物置小屋にした。
遥香曰く、この公園はほとんど使われておらず、そも人が気軽に来れるような場所ではないため、安全らしい。
「じゃーん!これオーナーから貰ったマシュマロとマッチ、あと炭」
「うわー美味しそう。でもなんでマッチと炭?」
「それは見てのお楽しみ。ちょっと待っててね」
そう言うと外へ出て行った。
「………」
物置小屋でやるため、実質なんちゃってキャンプらしいが、細かいことはどうでもよかった。
「あ………報告会………」
すっかり忘れていた。
………まぁ、今日ぐらいいいか。
多分、大して心配はされていないだろう。
「準備できたよー」
外から遥香の声が聞こえる。
つられて外へ出た。
外へ出ると、焚き火が準備されていた。
「やっぱ炭だけじゃ火つかなくてさー。枯れ木集めるのに苦労したよ」
遥香がふー、と額の汗を拭った。
「何で小屋でやらないの?」
「小屋でやったら火で燃えちゃうじゃない。それに、一酸化炭素中毒とかも怖いし」
「……何それ?」
「うーん、説明すると難しいけど………簡単に言えば毒……かな?」
───毒。
それなら、確かに外の方がいいか。
「おっけー、できた!この串にマシュマロを刺して焼くとぉ!」
「おおおおぉ!」
ヒトの叡智を、今垣間見た。
それはまさに───悪魔的な光景だった。
焼いたマシュマロはほんのりと焦げ目をつけながら、蜂蜜のように
無意識に顔が綻んだ。
こんなの絶対美味しいに決まっている。
「はい、ウィシュちゃん!熱いから気をつけて」
「ありがと!」
ふーふーと息を吹きかけて冷ましてから、はむっと口にいれる。
「!!おいひ〜〜!」
口の中が蕩ける、いや溶ける。ほっぺたが落ちそうというやつだ。
「喉詰まらせないでね。はい、お茶」
渋い苦味が体に染み渡る。
「夜食は女の敵だけど、こんな状況なら別だよね。どんどん焼くからどんどん食べて!」
二人ともマシュマロを
寝袋は熱中症で倒れてしまうことを警戒して使わず、小屋に乱雑に置かれていたマットを、埃を払って使うことにした。
「ウィシュちゃん!パジャマパーティーの時間だよ!ま、パジャマもないし、お風呂も入ってないけど。銭湯寄ってけばよかったかなぁ」
あんな状況じゃそれは無理だろう。
いや、それよりそろそろ本題を切り出そう。
「………ハルカ。もしかして無理してる?」
「───流石にお見通しかぁ。ウィシュちゃん普段は鈍いのに肝心なところだけは鋭いよね」
む、それ褒めてないな。
「ふふっ。そのむっとした顔、わたしは好きだよ」
「わたしはしたくないから。こんな顔にさせないで」
「ごめんごめん。わたしね、色々と溜め込んじゃう性格なんだ。辛いこととか、嫌なこととか。正直に無理だ、って言える勇気がないんだ」
「そうなんだ……」
遥香とは割と似たもの同士と感じていたけど、そういう点では全く似通ってない。
「バイトをサボったのも、辛いって言えなかったから?」
「んー、まあそんな感じ。直接嫌と言えないから無断で休んだんだ。………幻滅した?」
遥香が少し心配そうに尋ねる。
「そんなことで幻滅なんてしないよ。それよりバイト、辞めないの?」
「……バイトは辞めれない。人間関係は、ちょっとアレだけど、仕事は好きだから」
ふと、遥香が空を見た。
つられてわたしも空を仰いだ。
古いこの小屋は屋根に小さな穴が空いていて、その穴から覗く形で空が一貌できる。
より空に近い小山の上にいるおかげか、ヒトの近代化に巻き込まれていないところだからか、上を見上げると満天の星空だった。
「きれいだねぇ」
隣で手を伸ばしているのが横目で見える。
「………わたしはね、パティシェになるのが夢だったんだ」
遥香が語り始めた。
「小さい時におばあちゃんが作ってくれたホットケーキが好きで、わたしも絶対おばあちゃんみたいな美味しいお菓子を作るんだーって。なんだかんだで、あの頃が一番楽しかったなぁ」
隣を盗み見る。
遥香はただひたむきに真っ直ぐで、けれど、どこか潮時を探しているような眼差しをしていた。
「でも、そろそろ幼稚な夢からは覚めるべきよね。親も養わないといけないし、それにまだまだ全然実力も────」
「なれるよ」
遥香は今日何度目かの驚愕な顔をした。
自分でも驚いている。
無意識だとしても、役目も何もかも忘れた、あまりに無責任な発言だ。
もしくは、ただなって欲しいという願望なのかもしれない。
「いや、でも───」
「なれる。ハルカなら、絶対なれる」
遥香はまだ目を丸くしてる。
「………そっか。うん、まだ諦めるには早いよね。今日何度目って話だけど、ありがとね」
物思いに耽るように目を伏せた後、こちらをまっすぐ見つめてきた。
わたしは目を逸らしたい気持ちでいっぱいだったが、どうしてもその眼差しを逸らしてはいけないと思った。
「じゃあ、わたしも聞いちゃおっかな。ウィシュの願いは何?」
突然遥香はそんなことを聞いてきた。
わたしの願い─────。
考えたこともなかった。
「いっぱい甘いものを食べたい」
「………うーん。ちょっと聞きたいのとは違うかな。じゃあ、何になりたい?将来の夢的な」
────将来何になりたいか?
…………そう言われると何も思い浮かばない。というか、天使がいったい何になるというのだろう。
「思いつかないかぁ。でもまぁ、まだ時間はいっぱいあるから。おいおい考えれば大丈夫だよ。それより今は恋バナとか恋バナとか、恋バナとかしよう!」
煩悩の塊か。
ツッコもうとしたが、隣の熱い眼差しがマジだと伝えてくる。
「じゃあ、ハルカからね。ハルカはいるの?好きな人?」
めんどくさそうだから先手を打つ。
「いないよ。はい、次ウィシュちゃん」
「ちょっと待って。それズルくない?」
「いないもんは仕方ない。だからウィシュちゃん、早くしたまえ!誰なの誰なの?」
こやつ、ハナから聞く専に回る気だったな……!
「好きな男子と言われても………」
そもそも今のところ話したことある男性は同じグループのライヤーとジョン、あとは店の店員ぐらいだ。
「うーん。じゃあ、気になってる子はいない?」
気になってる子……。
ライヤーを思い浮かべる。………正直タイプじゃない。
ガーンという声が聞こえたが、空耳だろう。
ジョンは………あれはちょっと論外だ。
初対面で鬼畜とか言ってくる死んだ魚の目をしているヤロウに恋などしない。
結局、自分のまわりにいる男子に対してそういう好意が全くないことに気づいただけだった。
「そっかー。いないかぁ。ウィシュちゃん美人さんだからモテそうなのにね。胸も……年相応ぐらいは、まぁ、ある、だ、ろうし………」
なぜか遥香が胸を見たあとやっちまったとばかりに目を逸らした。
「そうかな。わたしはハルカの方が美人さんだし胸も……?」
………おい。
一瞬スルーしてしまったが、今聞き捨てならない事を言ったな。
わたしは胸について言及されるのが嫌いだ。
でかいやつにされるのはもっと嫌いだ。
遥香の胸を見る。でかい。ローズには及ばないが、でかい。Cくらいだ。
「いないなら仕方ない!今日はもうお開き!さあ寝よう!」
なにやら危険を察した遥香がわざとらしく話を切り上げようとしだした。
「そうはいかないよ。わたしの胸が何だって?」
────そこから小一時間ぐらいわちゃわちゃした。
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