第3通 焦燥
「ス…クス…ルクス!ねえルクスってば!」
名前を呼ぶ声が聞こえる。もう長い間聞いていないんじゃないかと錯覚する程懐かしく感じる。
「あえ、俺寝ちゃってたのか。」
「ルクスったらずっと寝ちゃうんだから。相変わらずだね。」
「ソラナ?本当にソラナなのか?」
「そうだよ。他に誰がいるの?」
前に会った盲目の老婆のような黒いローブに身を包みフードを深く被ったソラナが対面に座っていた。
「え、だってソラナは行方不明になって…それにここはどこ?」
「もしかして寝ぼけてる?ここは図書館だよ。ルクスが本を読みたいって言って来たんじゃないか。」
ソラナはフードを深くかぶっていたからよく顔が見えないが、口元に手をやりクスクスと笑っていた。
ルクスは周りを見渡す。確かにここはあの日ソラナと行った街の図書館だった。夕日の暖かい光が窓から差し込んでいた。
「ごめんごめん。なんだか怖い夢を見てたみたいだよ。」
「へえ…どんな夢?」
「んー、ソラナと遊んだ帰り道に行方不明になったり、ソラナの家で変わった婆さんに出会ったりで変な夢だったよ。」
ルクスは恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「そう…それで、夢の中でルクスは僕を助けられたの?」
「いやあ、それが手がかりが全然なくて、手詰まりになったところで起きちゃったよ。」
ソラナは何も応えず下を俯いていた。
「そんなことより、ソラナ早く帰ろう!日が暮れる前に帰らないと母さんに怒られる!夢の中でも怒られたんだから当分怒られたくないや。」
「…僕は一緒に行けないよ。」
ソラナは席から立ちあがり、こちらを向いたまま止まっていた。
「何言ってんだよ。それにそんな魔女みたいなフードまで被って、夢で出会った婆さんみたいじゃないか。」
「お婆さん?そのお婆さんはこんな感じじゃなかった?」
ソラナはゆっくりとフードを外して顔をこちらに向けた。いつもの笑顔を浮かべていたように見えたが、その異様さにルクスは背筋が凍った。
健康的だったはずのソラナの顔色は土気色で生気を感じさせず、頬は痩せこけており、一番目を引いたのはソラナの目だった。母親譲りの優しい赤みがかった目がそこには無く、代わりにくすんだ透明のガラス玉のようなモノがはめ込まれていた。
「ソ、ソラナ…一体…」
声も見た目もソラナにそっくりなそれは不気味な笑顔を浮かべる。
「ああ、これ?ルクスが僕を助けてくれなかったから、僕はこんな風になっちゃったんだよ。どうして助けてくれなかったの?助けてくれていたら僕はこんなに一人で寂しい思いも、母さんみたいなあの綺麗な目も失くさずにすんだのに、何を呑気にしていたの?ねえ、どうして?」
ルクスは恐怖で喉が詰まり言葉が上手く出てこなかった。
「何も答えてくれないんだね。じゃあ、僕は戻るよ。さよなら。」
ソラナがそう言うと、後ろから黒い渦が現れ、ソラナはそのまま黒い渦の中に消えていった。
「ソラナ待って!ソラナ!」
「ルクス!?どうしたの急に叫んで!」
目を開けると心配そうに覗き込んでいるリアがいた。
「あれ、母さん。ソラナは?」
「ソラナ君?あなた寝てる間ずっとうなされてたわよ。」
夢だったのか。ルクスは夢の中のソラナを思い出しながら、夢であったことに安心したと同時に、早くソラナを探す手がかりを見つけないとと焦る気持ちが込み上げた。
「ごめん母さん、少し怖い夢を見てたみたい。」
「そう、それならよかったわ。晩御飯できたから食べましょう。」
「うん、わかった。すぐ行くよ。」
じゃあ、先に行って待ってるわね。と言い残しリアは部屋から出ていき、ルクスも後を追うように食卓に向かう。
机の上に置かれた小さな瓶には気づかずに。
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