89.Dragon Slayer 後編

"ハッスル・キャッスル 天空闘技場"


「話してやろう、ワシが何故なぜアスモダイにこだわるのかを!」


 吸血鬼とドラゴンの間に、どんな因縁があったのか、ついに語られる時がきた。

 どちらも人知を超える力を持った存在だ。

 そんな二人がぶつかり合う理由とはいったい。

 それはそれとして……


「いつまでくっちゃべってんだ!」

「はよ闘えー!つまんねーぞ!」

「金返せバカヤロー!」


 バトルを中断して、語り部モードに入ったドラキュールに、観客から大ブーイング。

 そりゃ普通は真剣勝負の最中に、ペラペラ喋りだす奴はおらんわな。


「静まれぃ!こういうエピソードがあった方が、物語的には盛り上がるであろうが!ワシはアリバロの首長だぞ?闘う首長に裏設定は付き物なのだ!」


 この一喝に、観客のブーイングは勢いを失う。

 付き物かどうかは知らないが、こいつも大概に喋りたがりのようだ。

 本当は聞いてほしかったんだろうな、ドラゴンとの関係。


「あー……っと、うん。どうぞ」


「うむ、すまんな。あれは妻の葬儀そうぎを終え、息子にアグリルバードを任せ、ヤケになって世界を放浪していた頃の話だ。ワシは、何か事業を起こすための、インスピレーションが欲しかった」


 一代で都市ひとつ興したってのに、まだやり足りないってのも凄い。

 実業家としてのセンスが桁違いなのだろう。

 あと寿命も長いわけだし。


「ワシは誰も足を踏み入れたことの無い地を目指した。見渡す限りの砂漠、灼熱しゃくねつの太陽の下、ひたすら歩き続けたのだ」


「おいおい、アンタは吸血鬼だろ?太陽の光なんて浴びたら、不味まずいことになるんじゃないのか?」


「ほぉ、博識はくしきだな。確かに夜の眷属けんぞくたる吸血鬼は、直射日光に弱い。陽の光を浴び続ければ、肌が浅黒く変色したり、ひどい時には火傷をしたかのように、ヒリヒリと痛みだすこともある」


 そりゃ、ただの日焼けだわ。

 この世界だと今さらって感じなので、ツッコミを入れるのは無駄だな。

 俺の知っている吸血鬼の弱点が、またひとつ減ってしまった。


「何も無い砂漠を、ひたすら歩き続けた先で、奴に出会ったのだ。人の姿を取ってはいたが、その圧倒的あっとうてき驚異的きょういてきな存在感は、ドラゴン以外の何者でもない。今にも体からあふれそうな魔力をおさえながら、苦悶くもんの表情を浮かべておった」


「山登りが大好きなドラゴンが、砂漠に居たってのか?」


「うむ、ドラゴンという種族はな、その身に絶大な魔力をたくわえているのだ。それは常に増幅ぞうふくされていく。数百年かけて高まり続けた魔力は、周囲に多大な影響を及ぼす。本人にその気は無くとも、そこに居るだけで甚大じんだいな災害を引き起こしかねない」


 さすがは超自然的な力を有する生物、話のスケールが違う。

 物語なんかで、ドラゴンが人々の生活を脅かしている背景には、そんな裏事情があったりするのかもしれない。


ゆえに、その膨大な魔力を体外へと放出するために、ニンゲンが住んでいないエンテン砂漠に来ていたわけだ。そこでワシは、ドラゴンに勝負を仕掛けた。魔力の発散はっさんに協力してやると言ってな。これほどの強さを持った相手など、どれほど長く生きようとも、まずお目にかかれるものではない。ワシは胸の高鳴りを抑えることが出来なかった」


 ドラゴンVS吸血鬼、特撮怪獣映画も裸足はだしで逃げ出しそうな対戦カードだ。


「凄まじい戦いであった。太陽が沈み、月が輝く景色を幾度いくどとなく目にした。アスモダイの魔力は臨界寸前にまで高まり、その攻撃の凄まじさと言うたらもう……ワシもまた、今まで出した事のないほどの本気を叩きつけてやった。まさに死闘と呼ぶに相応しい名勝負であったわ」


「それで、それからどうなったんだ?どっちが勝った?」


「どれだけの時間が経過したかはおぼえておらぬ。だが、ついにワシは倒れ、苦い砂を噛むこととなった。喉が焼けるようにかわき、目眩めまいがし始め、意識も朦朧もうろうとしてきたのだ。負けと言われればそうだが、体調不良というのは、如何いかんともしがたい。実力で劣っていたとは思いたくないな」


「いや、そりゃ熱中症だろ!」


 炎天下の砂漠で水分も取らず、何日も戦い続けていたとすれば、そうなるのは必然。

 症状も一致するし、どう考えても熱中症だ。

 太陽が苦手な吸血鬼にしては、良く頑張ったと言うべきか。


「あれが熱中症……ふぅむ、暑さ対策は考えておくべきだったな。迂闊うかつであった」


 タフな性格なんだか、マヌケなんだか。


「奴は満足したような顔をしながら、空へと翔け上って行った。砂漠に倒れたまま、ワシはその姿に見惚みほれておったのだ。それから、見えなくなるほどに上昇したアスモダイは、その身に溜め込んだ魔力を、砂漠に向けて一斉に放出したのだ」


「おいおい、トドメのドラゴンブレスかよ。容赦無いにも程があるな。良く生きてたもんだ」


「それがワシには当たらなかったのだ。その一撃は砂漠の大地をつらぬき、地下深くに存在していた水脈まで届いた。そこから豊富な水が湧き出し、広大なオアシスとなった。そして魔力を出し切ったアスモダイは、彼方へと消えて行ったのだ。不思議な話だが、その水を飲むことで、ワシの体調不良は奇跡的に回復。九死に一生を得た」


 全然、不思議でも何でもない。

 そりゃ脱水症状を起こしているのだから、水分を取れば楽にはなる。

 長く生きていると言っても、超人クラスの価値観だから、一般常識にうといのか。


「その巨大なオアシス見ていてワシは思いついたわけだ。ここに水上都市を浮かべて、大賭博場カジノを作ろうと。いつかまた、この地でドラゴンと再戦する日を夢見て、最高の舞台を用意しようと……」


「そこに繋げる発想のデカさよ。じゃあここは、アスモダイのおかげで作られた都市とも言えるわけだ。都市の経営はアンタの手腕だろうけどな」


「………だが、ドラゴンは死んだ。もう目指すべき目標は消えたわけだ。私は、この手で決着をつけたかった」


「いや、だからアスモダイはフォックスオードリーでだな……」


「これはケジメなのだ!無論、クエストでの討伐であったため、ウヌに罪は無く、ワシも恨みがあるわけでは無い!しかし一度振り上げた拳を、このまま下ろすわけにはいくまい!理不尽である事は理解しているが、宿敵の仇討ちだと思って頂きたい!」


 余程の思い入れが、ドラゴンに対してあったのだろう。

 完全に誤解ではあるものの、今は何を言っても聞くまいよ。

 何より熱い男だ、こちらも腹をくくるしかない。


「ふぅ、長話のおかげで、だいぶダメージが回復したぜ。ハルジオン、その力を開放しろ!」


「ほぉ、やっと本気で闘う気になったのかね?」


「最初から本気でやってるさ。これは約束のネタバラシ。アンタの攻撃が当たる瞬間、ハルジオンの力で、風のクッションを作ってダメージを軽減していたのさ」


 強烈な風がペン先から巻き起こる。

 激戦を共にくぐり抜け、いっそう手に馴染なじむようになった相棒。

 思いつきでやってみたが、武器への熟練度じゅくれんどが可能にした戦法だ。


「なんと、風の精霊せいれいペンシルフィードの力を扱えるのか。あれほど気位の高い精霊をしたがえるなど、まず普通のニンゲンに出来ることではない。そうこなくてはな、ドラゴンスレイヤー!」


「目にもの見せてやるぞ、吸血鬼!俺のことは、奇跡の逆転ワーカーとでも呼んでもらおうか。こっからが博打ばくちだ!面白くなってきやがったぜ!」


【小説家VS吸血鬼 再び激突!!】

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