87. The bloodsucker 前編

花札はなふだ』とは、日本特有のカードゲームの一種のこと。

 花かるた・花がるたとも呼ばれる。

 一組48枚の札に、12ヶ月折々の花が4枚ずつ描かれており、取った札の組み合わせによって役を作り、その点数で競うルールが一般的。

 かの有名な、赤い帽子のヒゲ男を生み出したゲーム会社が、創業当初から製造・販売を続けている商品でもある。

 しかし………


◇◆◇◆◇◆



"ハッスル・キャッスル"


 いかにもボス登場といった風情のBGMと、照明演出で派手に姿を現した首長ドラキュール・ノスフェルバニア。

 浴びせられるスポットライトによって、会場の視線を独り占めにしている。


「ヌハハハハハ!これはこれは、お客人。娯楽の都アリバロへようこそ。ここでは全てが手に入り、全ては思いのまま。そう!夢の楽園っ…………」


 今の今までステージの上にいたはずのドラキュール氏が、一瞬でその姿を消した。

 吸血鬼は瞬間移動までできるのか。


「いだだ……暗くて見えんのじゃ……照明もどせ………」


 ボソボソと何か聞こえたぞ。

 会場の照明が戻り、いつの間にかステージを降りたドラキュール氏がこちらへと近づいてくる。


「げふっ!しゅ……瞬間移動イリュージョンは楽しんでいただけたかな。これも一つのショーなのでね」


「ステージから誤って落ちただけだろ!血だらけじゃないか、早く手当を!」


 顔から行ったらしい、顔面はおびただしい量の出血が見られる。

 これだけのダメージを負いながら、ショーと言い張れるタフネスは凄いな。

 負けず嫌いな性格なのだろうか。


「ヌハハハハハ!吸血鬼ならぬ流血鬼になってしまったか。こいつはシャレにならぬな。おーい、輸血用のパック持ってきてくれ。O型のやつな」


 豪放な男なのか、さもなきゃただのアホかも。

 一応、吸血鬼らしく、血液で回復するらしい。

 だからって、血液パックをストローでチューチュー吸うなよ。

 イメージって、もっと大事にしてほしいんだ、俺は。


【吸血鬼のHPが回復した】


「ほぉーん、それでアリバロまで、その子の親を探しに来たということか。ええ話じゃないか」


 ドラキュール氏の頭に包帯を巻きながら、ここまでの経緯を打ち明けてみた。

 都市の最高権力者が言えば、キノも考えを改めるかもしれない。


「しかし、それは困る。ワシはキャバリア王からの特命で、夫婦を匿っておるのだ。それに、彼女の才能を手放すのは、都市にとっても大きな損失だ」


「いや、だから少しの間だけでいいんだよ。リンカの寂しさを、ちょっとだけ和らげてあげたいんだ」


「他人であるウヌが、なぜそこまで肩入れするのか不思議だが、本人にその意思が無い以上、それは叶うまい。それとも、ウヌがキノの言う、流れを変える何かだとでも?悪魔の呪いを解かなければ、根本的な解決にはならんと思うが?」


 言い返す言葉もない、ベストはソウエンも含めて家族三人で会えることだ。

 母親とだけ再会したところで、リンカの心の穴は埋まらない。

 頭の中で、嫌な顔してほくそ笑むメフィストの顔が浮かんできやがるぜ。


「何言ってんの!流れを変えるなんて、タスクにとっちゃ日常茶飯事だよ!悪魔だろうとドラゴンだろうと、絶対に倒せないって言われた相手と渡り合ってきたんだもの。呪いくらい、タスクにかかれば一発だよ」


 話に割って入ったトールが、ふんぞり返って俺の自慢を始める。

 いやいやいや、いつだってギリギリの死闘だし、解呪の方法なんて知らんわ。


「タスクとな?その男の噂は聞いている。最強のパーティーを引き連れ、ドラゴンさえも滅ぼしたという」


 俺の噂って、正確に伝わることがほとんど無い。

 どうやって話に尾ひれが付いていくんだろう。


「言っとくけどね、ドラゴンさんとは、タスク一人で戦って勝ったんだから。タスクに不可能なんて無いんだよ」


 不可能のほうが圧倒的に多いわ。

 こういう奴が、噂を拡大させていくんだろうな。


「あのアスモダイと一人で……にわかには信じられぬ。だが、伝え聞く快進撃はとどまることを知らぬ。それほどの英雄であれば、クエストを出した甲斐があるというものだ。もちろん、ワシとの勝負を受けてくれるのだろうな!」


 ついに俺も英雄か、誇らしいような、こそばゆいような。

 ん、今アスモダイって言わなかったか?

 吸血鬼、いったい何者なんだ。


「勝負って、いったい何をさせようってんだ?ここで娯楽都市の首長と、殴り合いの喧嘩をするわけにもいくまいぜ」


「アリバロに来たのだ。勝負と言えばギャンブルであろう。ウヌらが勝てば、その運は本物。まさに流れを変えるものであろう。その時は、ディーラーでも花火師でも好きに連れ帰るがよい。解呪に関しても、全面的に協力してやろう」


 あのクエストは、ギャンブルで挑戦しろってことだったか。

 他のことはともかく、俺の運は壊滅的に破綻はたんしている。

 賭け事との相性は最悪と言ってもいい。


「いいよ!その勝負は私が相手になるよ。ルーレットでいいのかな?」


「ほぉ、小娘が相手になるか。しかし、ルーレットは一対一の勝負には向かぬ。それに上で見ていたが、玉の動きが見えておるな。結果が分かっているものをギャンブルとは言わんものだ。ルーレット台は出禁にさせてもらおう」


 勝負に名乗り出たトールだったが、ルーレットを封じられた。

 道理で自信満々でベットするわけだよ。

 玉がどこに入るか見えるなんて、人間技じゃない。


「ちぇ、バレたか。それなら、そっちの卓にあるゲームで勝負だよ」


「面白い、『フィールドクエスト』を選ぶか。よかろう!勝負を始めようではないか!」


 聞いたことのない名前だが、どうやらカードゲームのようだ。


「ルールは理解しておるな?HPは500、手十てじゅう場八ばはちで良いか?」


「望むところだよ!絶対に負けない!」


【吸血鬼が勝負を挑んできた】


「準備はええな?ほな、ゲーム開始や!」


 ディーラーによってカードが配られていく。

 様々な背景の中に、多様なキャラが描かれたカード。

 ルールを知らない俺だけが、蚊帳かやの外に置かれている。


「トール、これってどういうゲームなんだ?」


「え!知らないの?あのね、シーズンクエストは、場のカードと同じ絵柄のカードがあれば、手札から出して……まぁ見てればわかるよ。行くよ!それ!」


「うぬぅ、小娘がぁ!先行後攻のジャンケンを端折はしょりよった!」


 パシン!シュッ!パシッ!


 手札から出したカードで場のカードを取り、山札を捲った後、そのカードで更に場のカードを獲得していく。


「こんな感じでカードを取り合って、点数を稼ぐゲームなのね。で、相手のHPを削りきったほうが勝者になるんだよ」


 そのルール、知ってる。

 カードの組み合わせで、役が出来上がった方の点が、相手のダメージになるってわけか。

 こっちの世界で、花札に出会うとは思わなかった。


「参るぞ!ワシのターンだ!それぃ!」


【花札対決が始まった!】

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