85. at the moment 前編

娯楽ごらく』とは、仕事や勉強の合間に楽しむ遊びのこと。

 趣味・嗜好しこう・道楽・心身のリフレッシュなど、人生において欠かすことのできない要素を持つ。

 それらを満たすための道具や施設も多くあり、経済とは切っても切れない間柄と言えるだろう。

 賭け事など、人の射幸心しゃこうしんを刺激するものには、年齢制限を設けている場合もある。

 しかし………


◇◆◇◆◇◆



"娯楽都市アリバロ"


 ルーズタウンから船に乗り、雄大に広がる湖を渡り、中心に位置する島へと上陸する。

 雨も降らないような砂漠地帯に、これほど豊かな水源が存在しているなんて。

 その湖のど真ん中に、都市を作るってのも規格外な話だ。


「ここが娯楽都市アリバロ……異世界人の俺が言うのもなんだが、違う世界に来たような気分だな」


「うっはぁー!壁も道もキラッキラだね。悔しいけど、ここに比べたらフォックスオードリーは田舎に見えちゃうや」


 デカい建物、デカい看板、デカい城まである。

 昼間でも分かるほど、建造物が電飾でピカピカと輝く。

 どこぞの大型テーマパークか、それとも某ベガスかってほどの豪華さだ。


「お待ちしておりましたッチ。タスク様御一行であらせられまするね?ベルはドラキュール伯爵の使い魔、ベルフェゴと申しまするッチ。ベルちゃんと呼んでほしいでするッチ」


 上陸して間もなく、怪しい生物から声をかけられた。

 一人称が自分のあだ名で、黒いコウモリのような姿。

 ドラキュールの使役しえきする、使い魔が歓迎に現れたってか。


「ベルちゃんてなぁ……マスコット的なポジションを狙ってるのかもしれないが、どう見ても着ぐるみだろ!身長は俺達より高いし、羽はあるのに二足歩行。あきらかに喋りとガタイがマッチしてない!」


「あとあと、顔が全然可愛くないよ!ベルちゃんって言うより、ベルフェゴどんって感じじゃない!」


「「お前のような使い魔がいるか!!」」


 あまりの不気味な姿に、二人でまくし立てるように本音が出てしまった。

 もっとイメージに合わせたキャラ作りってあると思うんだよ。


「シク……シクシク……ヨヨヨ」


 コンビネーションでツッコんだのが、余程ショックだったのか、使い魔は泣き出してしまった。

 意外にもナイーブな性格をしているのかもしれない。


「すまん、言い過ぎた。せっかくお迎えに来てくれたのにな。ほら、元気出せって」


「泣かない泣かない。もしかしたら、人によっては、可愛いって思う人もいるかもしれないよ?初見だと驚くけど、慣れてきたら味があるっていうか」


 トールのはフォローになってない気がする。


【ベルちゃんを慰めるターンになった】



「というわけで、この都市にはオッシャレーなホテルとカジノ、楽しすぎるアトラクションが満載の遊園地、可愛いマスコット、ムフフな夢を叶える歓楽街と、多額のマニーが飛び交う施設がてんこ盛りでするッチ」


 都市の説明を真面目に聞いてあげることで、ベルフェゴの機嫌は随分と良くなった。

 可愛いマスコットとか、しれっと自分のことを持ち上げているあたり、案外したたかな性格なのかも。


「説明ありがとう。これで都市の全容が見えたな。あと、ここにソウエンって花火師が来てるはずなんだが、どこにいるか知らないか?」


「うーん、花火師ですリッチか?花火は夜になると、色んな場所で上がるッチからね。一人一人の居所までは把握できておらぬッチよ。もしも、ここで働いているなら、どこかに下宿しているかもしれなリッチ」


「となると、手当たり次第に声をかけていくしかないか。宿代と飯代が底を尽く前に探し出せればいいが……高そうだし」


「その点は心配無リッチ。タスク様御一行はドラキュール伯が招待したお客人ッチ。ワーカーライセンスを提示すれば、全ての施設を無料で利用していただけますッチ。ただし、カジノだけは別ッチよ?自分のマニーを使わないギャンブルなんて、スリルの欠片も感じなリッチ」


 なんという気前の良さ、こいつは渡りに船だ。

 これでソウエンを探しながら、ふところを気にすること無くアリバロに滞在できる。

 ここまで良くされると、かえって怖い気もするが。

 どの道クエストで首長には会うだろうし、ちゃんとお礼を言っておこう。


「そうと決まれば、さっそく花火師捜索を開始するぞ!リンカのためにも、草の根を分けてでも探し出すんだ!」


「でもタスク、アリバロはすっごい広いんだよ。どこから探していくの?」


「そうだな……それなら二手に別れよう。俺とハーディアスは歓楽街方面を探す。トールとプラリネは遊園地エリアを頼む」


「「……………」」


 数秒の静寂、表情が固まるトールとハーディアス。

 あれ、俺なんか変なこと言ったっけ?


「たぁすぅくぅ!この組分けには、どんな意味があるのかしら?ハーさんと歓楽街で何をしようとしてるの?」


「え?おい、話聞いてたか?人を探すんだろ人を」


「へぇー、ふぅーん」


「何だよ、その汚物を見るような顔は?あっち方面に女を連れて行けるわけないだろ!プラリネは年齢的な問題もあるし」


 やましいことなんて無いのに、どんどん言い訳みたいになっていく。

 そりゃ俺だって、全く興味が無いわけじゃないけども。


 「ぷんすこ!ぷんすこ!」「いやだから、そういうことじゃなくてだな」


 説得には苦労したが、結局トールと俺で歓楽街方面を捜索することとなった。


「なぁハーディ、かんらくがいって何があるんだ?何でトールはタスクとケンカしてたんだ?」


「それは………急ごう…遊園地を…探すのだろう…観覧車がいいか…ジェットコースターにするか…」


 プラリネの純粋な質問には、さしものハーディアスも声を詰まらせる

 おいおい、人探しって目的を忘れないでくれよ。

 俺達は歓楽街か、トールと二人で?………これって本当に大丈夫なのだろうか。


【花火師ソウエンの捜索開始】

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