84. Go tell Aunt Rhody 後編

"エンテン砂漠さばく"


 アルの用意した馬車に揺られ、数日が経過した。

 居住性の高い馬車は、まるでキャンピングカーのようだ。

 目的地までの道程は、農耕地帯を越え、炎天下の砂漠に入り、暑さと砂嵐との戦いとなった。


「こんな何も無い場所に、都市なんてあるのかよ!トール、この方角で間違いないんだよな?」


「ぺっぺっ!口の中ジャリジャリする。アルさんの話じゃ、そろそろ着いてもいいはずなんだけど」


 砂に足を取られている馬車を降り、周囲を散策するが、絶望的に何もない。

 砂混じりの風をまともに受けたトールが、体をはたきながら地図を確認する。

 砂漠なんかで遭難そうなんしたら、まず助からない。

 不安と焦りで、砂嵐が悪魔に見えてきた。


「こんな場所に都市を作りやがって、これじゃ娯楽どころじゃないぞ!アタシは固有アビリティの『テンパリング』があるからいいけど、ハーディなんて虫の息!」


 プラリネは自身のアビリティで温度を調節できる。

 環境適応能力はピカイチだろう。

 一方ハーディアスはと言うと。


「ぜぇ…ぜぇ…これは…過酷な旅だな…」


 白衣風なコートに身を包み、常時マスクを外さない。

 結果、しっかりと暑さにやられていた。

 暑いんなら脱げばいいのに。


「はぁ……はぁ……ふぅ。あ、みんな!見て見て、でっかい湖。あそこまで頑張れば、浴びるほど水が飲めるよ」


 ついにトールも暑さにやられたか。

 こんな砂漠のど真ん中に、大きな湖なんてあるわけがない。

 きっと蜃気楼しんきろうでも見たんだな、かわいそうに。


「しっかりしろトール!幻なんて見てる場合か。体力だけが取り柄のくせして…………ほわぁぁぁぁぁ!?」


 小高い砂山を登りきり、トールに追いついた瞬間、視界には海と見間違うほどの湖が広がっていた。

 水辺には、いくつもの集落が確認できる。


「これって、幻じゃないよな。カラッカラの砂漠に、これだけの水源があるなんて」


「タスク、ほらあれ。湖の真ん中に城が建ってる。間違い無いよ、娯楽都市アリバロに着いたみたい」


 広大な湖の先に、確かに城のようなものが見える。

 これがアリバロ、湖の上に都市そのものを作ってしまったのか。

 発想のスケールがでかすぎる。


「とりあえず集落で情報収集だ。それと、ハーディアスを休ませないとな」


【パーティーは集落へ向かった】



"娯楽都市アリバロ ルーズタウン"


 水辺には人が集まると昔から言う。

 太古の文明は、だいたい大きな河に沿って出来たものが多い。

 ここも恐らくは、砂漠の真ん中の巨大オアシスとして発展してきたのだろう。


「タスク、アリバロには、ここで渡し船を利用して行くみたい。気を付けて、すごい勢いでチップをせがまれるよ」


「そうか、じゃあ財布のヒモはきつく縛っておかないとな。しかし、ここはアリバロの何なんだ?宿に出店でみせに渡し船。あくせく働いてる奴ばかりで、とても娯楽とは縁が無さそうだが」


 カラーズとは、また違った活気を感じる。

 一列に屋台がのきを連ね、美味しそうな匂いを漂わせている。

 宿では呼び込みが盛んだし、貨物を載せた船が、せわしく湖の往来を繰り返す。


「こっちはルーズタウンって言うみたい。頑張って成り上がるために、ここで働いて機会を伺ってる人が多いみたいだね。アリバロでお金を失った人が住み着いて、自然と大きくなった街なんだって」


「敗北者の街、ルーズタウンか。真面目に働いて生活してるぶん、ギャンブルやってるより健全な気がする。普通は絶望して、死んだ目をした連中の掃き溜めになるもんなのに」


「娯楽都市に落ちるお金で、ここの社会福祉が充実してるんだってさ。政都とは、また違った方向で成功してる都市だね」


 観光収入でがっぽり稼いでるからこそ、近隣の街作りが上手く出来ているのか。

 お金の循環で言えば、他の都市よりも活発だろう。

 こうなるとギャンブルに対する見方が変わってくるな。


「景気の良い話だが、俺達には経済だの政策だのは関係無い。やるべきことをやるだけだ。まずは、リンカの父親を探すぞ」


「そうだけど、本当にここに居るのかな。顔も知らないし、ルーズタウンも含めると凄い人口になるよ?この中から探すとなると、どれだけ時間がかかるか……」


 確かに、よそからの観光客も多いアリバロだ。

 たった一人の花火師に会える確率は、限りなく低いだろう。


「なぁに、こんなのは数打つしかないさ。しらみつぶしに聞き込みしてりゃ、いつかは本人に当たるかもしれない。何もしなきゃ、それこそ確率はゼロだ」


「ふふ、さっそくギャンブラーの顔になってるよ。そうだね、こっちは四人いるし、手分けして探せば、きっと見つかるよ」


「若干一名、暑さでバテてるけどな……今日のところは、ここで宿を取って休もう。明日からは足で情報を集めるとしようや」


 まるでベテランの刑事デカになった気分だ。

 聞き込みは捜査の基本、そのためには体力を養っておく必要がある。

 早く何か手掛かりが見つかると良いのだが……


 ヒュヒューーー………ドドーーーーン!!ババババババ!!


 日も暮れてきて、夜の帳が下りようとした時、大きな炸裂音がアリバロから聞こえてきた。

 娯楽都市が、本領を発揮する時間の到来。

 夜の街を彩る豪華な花火が、次々と上がっていくのが見える。


「案外、簡単に見つかるかもしれないな。目標の居場所は、これで見当がついた」


「うん!明日はアリバロに直行だね!」


【水上の都市が怪しく煌めく】

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