84. Go tell Aunt Rhody 前編

『ギャンブル』とは、金銭や物品を賭けて、勝敗を競う遊戯のこと。

 競馬けいば競艇きょうていのようなレースや、カジノで行うゲーム等、多種多様なギャンブルがあり、多くの人を熱狂させる。

 その反面、人の射幸心しゃこうしんあおり、時に中毒的な依存状態を引き起こすこともあるので注意が必要。

 しかし………


◇◆◇◆◇◆



"農業都市 領主の館"


「モグモグ、それでお母さんは人間で、菜食主義さいしょくしゅぎだから、アルさんはトマトからでも生命力を摂取できるってことだね?」


 結局、しこたま出前を取って、吸血鬼と会食と相成った。

 豪勢な料理を頬張りながら、トールはアルの家族構成を聞いている。


「野菜を食べない父でしたので、母は苦労していましたよ。吸血鬼とニンゲンのハーフ。種族も生き方も違う二人から、私が生まれたのは奇跡と言えるかもしれません」


「えー、こんなに美味しいのに。食わず嫌いなんじゃないかな」


「トール、食べ物の話をしにきたんじゃないぞ。大人しく飯を食ってろ。それでアル、その両親は一緒じゃないのか?」


 この質問にアルは深いため息をつき、ゆっくりと話し始めた。


「母のローズは他界しました。もう何十年も前のことです。残された私と父は、心に深い悲しみを背負いました」


「そうか……悪いことを聞いてしまった。何十年も前ってことは、母親は若くしてお亡くなりになったんだな。すまない」


「いえ、母は98歳でこの世を去りました。最期の時は、家族と牧場の動物達に囲まれ、眠るように息を引き取った。まるで天使がお迎えにきたような神々こうごうしさでしたよ」


 吸血鬼が天使とか神々しいとか言うなよ。


「待てよ、計算が全然合わないぞ。それだとアルは何歳なんだ?どう見たって、20代にしか見えないのに」


「ハハ、吸血鬼ですからね。ニンゲンとは寿命が違います。ニンゲンの寿命はせいぜいが100年。共にに連れ添えば、母が先に老いるのは必然なのです」


 寿命の違う種と同じ時間を過ごし、そして最期を看取みとる。

 それは不幸なことだろうか、それとも覚悟あってのことか。

 俺達には計り知れない関係だろう。


「亡くなるまでの母は、老いていても元気でした。背筋もピンとしていたし、歯も全部残っていた。いつまでも美しい母でした……まるで吸血鬼だねと、良く笑っていましたよ」


「それは......麗しき家族愛......なのか。てことは、アルも人間と恋に落ちたり?」


「私は……父のように誰かを愛する自信は無い。自分よりも、遥かに早く逝ってしまうニンゲンを愛するなんて、私には耐えられない。せめて同種の異性がいれば良いのですが、残念ながら出逢ったことはありません」


 結婚は半ば諦めている、アルはそんな顔でため息をついた。

 何かどこかで、同じような悩みを持つ者がいなかっただろうか。


「吸血鬼は悩みが尽きないな。それで、そろそろクエストについて教えてもらえないか?吸血鬼への挑戦ってやつ」


「はい、このクエストでの相手は、ずばり私の父親。『娯楽都市ごらくとしアリバロ』の首長、ドラキュール・ノスフェルバニアです」


「なんだって!じゃあ俺達に、アルの親父さんを討伐しろってのか?」


 さっき話を聞いたばかりで、吸血鬼への悪い印象が消えかけてたのに。

 アリバロで何か悪事を働いてるってのか。


「私の役目は父への橋渡し。父は……父は変わってしまった。のどかな農村地帯だったこの地方を、農業都市にまで発展させたのは父だ!しかし、母が他界してからというもの……」


 複雑すぎる家庭事情、やはり愛する者に先立たれた悲しみが、大きく人生を変えてしまったのか。

 寿命の長い種族だからこその葛藤かっとうもあるのだろう。


「自分は野菜は好きじゃあない!あと妻が怖くて我慢してたけど、ギャンブルが大好きなのだ!という言葉を残し、農業都市を私に託して出ていってしまった」


「愛はあるのに、とんだクズ野郎だな!」


 まぁ最後まで連れ添って、大往生だいおうじょうを看取った上での話なら、ある意味では辛抱強い愛妻家と言うべきだろうか。


「私も驚きました。その後の数年で何も無い荒野に、まさか娯楽都市を立ち上げてしまうなんて。一代で二つの都市を起こすなど、長寿の吸血鬼と言えど、出来ることではありません」


 規格外の経営能力か、それとも人を惹きつけるカリスマ性か。

 俺のような貧乏小説家なんて、吹けば飛ぶような才能だ。


「それで、何で都市の首長を倒しにいかないといけないんだ?」


「父は、ある意味ヤケクソでアリバロを作りました。それがトントン拍子で上手くいってしまった。言わば負け知らずなのです。そして名のあるワーカーを見つけては、アリバロに招待して、勝負を仕掛けるのだとか。人は道楽なんて言いますが、有名人を呼び込めば、人も多く集まってきますから」


「てことは、このクエストの出どころもドラキュール氏ということだな。俺達は都市を栄えさせるためにダシとして使われるわけだ。この話、どうもしっくりこないんだが」


 自作自演のクエストなんて、付き合ってやる義理もない。

 政都とは正反対の都市政策をとっていると聞いたが、悪いことをしてるわけでもないし。


「どうするのタスク。クエスト降りちゃうの?」


「いいや、娯楽都市アリバロには、別の用事がある。ドラキュール氏に関しては、会ってみてから判断してもいいだろ」


 アリバロと言えば、無実の罪を着せられた、リンカの父親が送られた所だ。

 もしかしたら、花火師の行方を知っている人もいるかもしれない。

 良い機会だ、見つけたら縄で縛ってでも連れて帰ろう。


「では、今日のところは館でお休みください。明日の朝一番で、快速の馬車を用意させます」


「おう、助かるよ。それとなアル、ちょっと提案なんだけど、一度でいいからお見合いをしてみないか?いや、会って話をするだけでもいいんだが。アルにぴったりな女性がいるんだよ」


 トールが何かを察したような顔で、コクコクと頷いている。

 人ではなく、長い時を生きる友人が一人いる。

 吸血鬼とハイハーフ、二人を引き合わせたら、もしかしたら上手くいくのではないだろうか。


 今回の旅では、色んなことが解決されるかもしれない。

 そんな期待を抱きながら、この日はたっぷりと睡眠をとった。


【次の目的地が決まった】

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