80. Courage to take a step forward 後編

 トールはイケメンの新人とクエストに行ってしまった。

 張り切っていたが、声優も戦闘向けの職業じゃない。

 はたして大丈夫なんだろうか。


「なんて心配してる場合じゃないか。俺も誰か探さないと」


「ワンワン!クゥーン」


 辺りを見回していると、向こうからとてとてと一匹のポメラニアンが、俺の足に擦り寄ってきた。


「ん?お前は見る目があるな。このワンコ、どっから迷い込んだんだ?」


 抱き上げて確認すると、首輪がついている。

 なになに、名前はBINGO...ビンゴか。

 どっから迷いこんだんだ?


「す、すいません!その子は私の犬なんです。あぁビンゴ、勝手に動いちゃダメじゃない!伏せ、伏せだよ」


 血相変えて現れた女の子、この犬の飼い主だろうか。

 なんかちょっと、初めてトールに会った時のことを思い出すな。


「可愛い犬だな。見たところ、あんたは初心者ワーカーなのか?」


「あ、はい!ファッション系ジョブの『ペットトリマー』になりました、カティと申します。クエストを頂いたのですが、急にビンゴが走り出してしまって」


「それで俺のとこに来たと。そりゃビンゴは賢い選択をしたぞ。鼻が利くんだろうな。俺の名はタスク!ジョブ『小説家』のタスクだ!クエストのお供なら、俺に任せろ!」


 俺も上級ワーカーだ、これくらいの見栄は張っていい。


「え!?あなたがあの、く先々で災厄さいやくをもたらし、悪魔でさえも近づくことを躊躇ためらうというタスクさんなんですか!むしろ災厄そのものという噂まであります。人呼んで『絶対絶命黙示録アポカリプス』のタスク!」


 なにそれ、身に覚えがありすぎる。

 誤解と偏見が独り歩きしすぎて、何とも不名誉な通り名がついたもんだよ。

 この調子じゃ、怖がって誰も俺に寄り付かないんじゃないだろうか。


「いや、待ってくれ。確かに色々と問題ごとに巻き込まれたりもしたけど、ほとんどの場合は俺は悪くないんだ。そりゃ世界の存亡に関わるような事件もあったけど、ちょっとだけ運が悪かったっていうか」


 いかん、語れば語るほどボロが出ている気がする。

 カティの顔がどんどん険しくなっていくのが分かる。


「うぅ、どうしよう......でも他に頼めそうな人は、みんな出払っちゃったし。ええい!この際、災厄でもアポカリプスでも何でもいいや!やっとここまで来たんだもの。一歩を踏み出さないと始まらない!」


 その決意の仕方はどうなんだ?いったい俺を何だと思ってるんだろうか。

 いっそのこと断って、ジムに引きこもろうかしら。


「でも、タスクさんて噂で聞くよりも優しそうですよね。よろしくお願いします!タスク先輩!」


 先輩!?この呼ばれ方は悪い気はしないな。

 なんだか学生に戻った気分だ。


「まかしとけって!俺がいればドラゴンだろうと悪魔だろうと、まとめてノックアウトだ!」


【ペットトリマーとパーティーを組んだ】


 ワーカーギルドで出会った新米ワーカー、トリマーのカティ。

 今まで色々やらかしてきたせいで、俺への偏見がすごいが、なんとか誤解を解くことができた。


「へぇ、じゃあペットトリマーってのは、動物の毛を刈って整えるジョブなのか」


「そうですね、犬や猫をお洒落しゃれに変身させたり、余分な毛を除去して動きやすくしたりです。私は昔から動物が好きで、ペットトリマーになるための勉強してきました。これでビンゴを、数倍カッコよくできます」


 ランダムでジョブを選んだのではなく、ちゃんと目標を持ってやってきたようだ。

 いきなり小説家になった俺とはえらい違い、立派なもんだ。


「でも、本当に大丈夫なんですかね。いえ、疑っているワケじゃありませんよ?ただ、モンスターの討伐って、私もタスクさんも戦闘向きでは……」


「まぁな、確かに戦うには不向きなジョブかもしれない。だけどスキルは使いようってな。何とかなるって」


 俺も始めは失敗だらけだったっけ。

 いや、今でもそうだけど。

 不安そうなカティを励まし、その足で現地へと向かう。


「そういえば、お連れの方がいませんでしたか?彼女さん……とか」


「べ!別にまだそんなんじゃ!このクエストは二人一組で行うから、他の奴と現地に向かったよ」


 トールの奴、何か張り切ってるイケメンとクエストに行ってしまった。

 別に心配してるわけじゃないが、何か心がモヤモヤする。

 全然、嫉妬とかじゃないけど。


【パーティーはパンドラの森に向かった】

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