5章 新たに響く命の音曲

80. Courage to take a step forward 前編

『新社会人』とは、企業に就職するなどして新たに社会人になった者のこと。

 未来に夢をせ、元気いっぱいで社会に降り立つ若者。

 だが、世の中は甘くは無く、上下関係の軋轢あつれきや、仕事に忙殺ぼうさつされる日々に苦悩する者が後を絶たない。

 誰もが快適に働ける環境づくりが、今後の課題と言えるだろう。

 しかし......


◇◆◇◆◇◆◇



"ワーカーギルド"


 この時期のワーカーギルドは、人でごった返している。

 ジョブの選択肢が豊富なカラーズに、夢を持ったワーカー志望者が集まってくるからだ。

 俺の世界で言うところの、就職希望者とか新社会人ってことだ。


「すっごい人数だね。私達も一年前、ここでジョブに就いたんだよね。思い出すなぁ」


「俺の場合は、ほとんど成り行きだったけどな。しかも二人して、初っ端から蹴躓けつまづいてたし」


 トールは懐かしそうにしてるが、実際は相当に苦労した。

 ワーカー試験で異例の四連続不合格。

 俺のワーカー人生は、挫折ざせつとトールのゲロ処理から始まったんだ。


「だから私達みたいな人が出ないように、新米ワーカーを助けに来たんじゃない。右も左も分からない新人をお世話するなんて、私達も立派に上級ワーカーだね」


「付き添いでカッコいいとこ見せながら、楽なクエストをこなして、報酬まで貰えるなんて最高だ。こんな割の良い話は無いぜ」


「タスクは考えることが不純なんだよ。未来の有望なワーカーを、ちゃんと育てるのも、ベテランの役割なんだからね。さぁ、パーティーを組めなくて困ってる人を探そっか」


 ジョブに就いたばかりの者は、ワーカー仮免状態だ。

 まず試験の手続きをして、二人一組のパーティーを組み、クエストを達成して初級ワーカーになる。

 難しいようにも思えるが、その救済処置として、ベテランワーカーがクエストを手伝うために集まってきているのだ。

 彼らに声をかければ、まず失敗することは無い。


「俺達がベテランか……一年前には、考えもしなかったな。よーし新米ども、俺がまとめて面倒見てやるぜ!困ってる奴はこっちに来い!」


 クエストの手伝いのため、手を上げて初心者ワーカーを呼び集める。

 と言って、弱小ジョブの小説家に寄ってくる人はおらず、他の強ジョブのとこへ流れていくワケで。

 これでも結構な死線を潜り抜けてきた、叩き上げのワーカーなんすけどね。

 人気のあるジョブが羨ましい。


「そこのキミ、今ボクはパーティーが組めなくて困ってるんだけどね。良ければ助けてもらえないか。いや、助けてくれるよね?だってこんなにカッコいいボクの頼みだもの。断る理由が見つからない」


 おっと、トールの方はお声がかかったようだ。

 やたらと自信たっぷりで、なるほど顔もスタイルもカッコいい。

 ジョブが何なのかはわからないが、いけ好かないタイプだ。


「パーティーのお誘いだね。うん、いいよ。上級ワーカーの私が助けてあげるよ」


「ふふ、ボクがカッコよくモンスターを倒すのを見たら、キミはメロメロになっちゃうかもね」


 トールは二つ返事で誘いを了承してしまった。

 こんな奴と二人でクエスト……誰がお前なんかにメロメロになるかっての。

 ちくしょう、イケメンに生まれたい人生だった。


「別に……いいけどさ」


 トールは純粋に新人を助けに行ったんじゃないか。

 これじゃまるで嫉妬しっとだ、切り替えねば。

 なんて考えてたら、クエストカウンターに向かったはずのトールが戻ってきた。


「じゃあ行ってくるね。タスクも頑張って。あと、ヤキモチ焼いちゃダメだよ?」


 ギュッとハグだけして行ってしまった。

 こんなにハッキリと愛情表現する奴だっけな。

 リアと融合してから、積極性が増してる気がする。


「俺も、新人を探さないと」


【タスクは取り残された】

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