79. we're the no brand heroes 後編

"カラーズの街 サーフビーチ"


 受勲式じゅくんしきを間近に控え、トールとのんびり海を見に来た。

 王宮に入れば、もう一緒に過ごすことは難しい。

 それなのに、気の利いたデートプランが浮かびやしない。


「なんか一年なんて、あっという間だよね。悪魔と戦ったり、モンスターに追い回されてみたり。ここから二人で花火を見たのなんて、半年も前のことだよ」


「温泉に海水浴に祭りにと、毎日ドタバタしてたな。未だにクエストには苦労してるし、ほんと成長のない一年か。収穫は、小説のネタが増えたことくらいかな」


「フフフ、そんなことないよ。出会った時から比べて、ずっとたくましくなった。ずっと強くなってるし、ずっとカッコよくなったんだよ」


 嘘?俺ってそんなにヒョロっちかったのか。

 日々の筋トレやクエストは、しっかりレベルアップに繋がっていたのか。

 いまいち実感がないけど、今日まで生き残ったのは確かだ。


「ね、砂遊びしない?せっかく海に来たんだし、遊ばないと勿体もったいないよ」


「あのなぁ、俺達はもう良い大人なんだぞ?砂遊びなんて子供っぽいこと………やるとするかぁ!!」


「やったぁ!そうこなくっちゃ!バケツとスコップ取ってくるね!」


 溢れんばかりの笑顔で走り出すトール。

 この先のことを考えれば、今日くらいは本気で遊びたい。

 しかしトールの奴、あんなに嬉しそうに。まるで犬だな。


【砂遊び開始から数時間が経過した】


「できたぁ!お城の完成だよ!」


「へへん、俺にかかれば、砂だって立派な建材。政都のに負けないくらいの出来栄できばえだな」


 砂を固めて積んで削って、二人で協力しあう砂遊び。

 大人の技術力を駆使しすぎてしまい、かなりリアルな城のジオラマが出来てしまった。

 これは小人いたら住めちゃうぞ。


「えっへん!王様だぞよ」


「はは、何だそれ。そんな砂まみれの王がいるかっての」


「余への無礼は許さんぞよ」


 よっぽど楽しい設定だったのか、トールは王様を演じ続ける。


「タスクよ、余はそなたの事が気に入った。これからは、余の騎士として働いてもらいたい」


「ははぁ!このタスク、王のために全身全霊でお仕えする所存!」


「アハハ、良き!そなたには、この城を与えよう。そなたの自由に使うが良いぞよ」


「ありがたき幸せぇ!」



「「あはははははははは!」」



【楽しい時間は流れるように過ぎていった】



"政都 シュナウザー城 謁見えっけんの間"


 とうとう受勲式の日が来てしまった。

 身だしなみもバッチシ整えたし、あとは練習通りにやればいい。

 前の時と同じように、俺は真ん中に立たされ、他の仲間は観覧席に通される。


「来たな小説家。ワシはまだ、お前のことを許してはおらん。しかし、王が決めたことならば致し方ない。くれぐれも、いいか今回はくれぐれも、無礼の無いように振る舞うのだぞ?」


 小言の多い家老だ。

 前回、王を犬呼ばわりしたことを、未だに根に持っているらしい。


「それでは、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル陛下の御成おなりである。こうべを垂れて平伏すが良い」


 言われるままに片膝をつき、頭を下げる。

 重たそうなカーテンが開き、キャビーが現れた。

 威風堂々とした姿で階段を下り、俺の前でピタリと止まる。


「よくぞ来てくれた。政都を救ったそなたに、王として礼を言う」


 上からの物言いだが、その振る舞いには微塵みじんも嫌味を感じない。

 王たる者の貫禄というやつか。


「それでは受勲式を始める。小説家タスク、なんじの功績を称え、ここに騎士将軍オルランドゥの爵位を与える」


 シャキン!と音を立ててデュランダルを抜き、それを俺の肩に当てる。

 ファンタジーなんかで良く見る、騎士の誓いみたいだ。


「以後、余に忠誠を誓い、余のために働き、余を支えてほしい。よいな?」


「騎士将軍の任、つつしんで拝命…………拝命………」


「どうしたタスク。緊張で声が出ぬか?それとも台詞せりふが飛んだのか?」


 小声でキャビーが耳打ちをしてくる。

 それでも、続く言葉が出てこない。

 これを見て場内がざわつき始めた。


「やめだ……すまんキャビー、騎士将軍は辞退するよ。実は他でスカウトされたんだ。この申し出は受けるわけにいかない」


 おごそかな式典が一転、驚愕きょうがく坩堝るつぼと化した。


「貴様ぁ!受勲をそでにするバカがどこにいる!」


 これに激昂げきこうしたのは家老だ。


「ははーん、何か目先の金にでも釣られたのだろう。いったい、いくら貰ったのだ?こちらとしても、給金については交渉の余地ぐらいはあるのじゃぞ?」


「そうだな、俺のことを高く買っていて、ちゃんと理解してくれる王様がいてな。あと、もう城を貰っちまった」


 観覧席のトールが、大笑いしはじめた。


「バカな!王はただ一人であるぞ!城て……」


「もうよい、爺は黙っておれ!」


 キャビーの一喝で、家老は引き下がる。


「タスクよ、そなたは一度ならず二度までも、この神聖な場所で余の顔に泥を塗ると言うのだな?」


「すまないキャビー。どうもしっくり来ないんだよ。やっぱ俺は、俺達は外の世界で生きるのが性にあってる」


「ならば、ここで余に切り刻まれても構わんと言うのだな?」


「いいや、そいつは勘弁だ。みんな逃げるぞ!」


【パーティーは逃げ出した】


「ふっ、どこまでもかぶきよるわ」


「追わぬのですか?」


「いや追う……まぁ今日は疲れたし、明日でも良かろう。猶予ゆうよを与えてやれ」


「仰せのままに」



"シュナウザー城 入口"


 急いで城から脱出しなければ。

 キャビーに捕まったら、デュランダルで八つ裂きにされてしまう。


「おや、タスク!小説家のタスクじゃないか?」


 声をかけてきたのは、警備員のケビンだった。

 まずいぞ、城を守る専門家に遭遇してしまった。


「どうした、王に謁見するんじゃなかったのか?」


「悪いなケビン、急な用事が出来たんだ。悪いけど何も聞かずに通してくれないか?」


「やれやれ、また揉め事を起こしたんだろう?懲りないね、お前さんも。まぁいいや、ほとぼりが冷めたら、また来いよな」


 案外あっさり通してくれたな。

 ケビン、いい奴だ。


 "政都バーナルド 結婚式場"


 王城を抜けて、途中で教会へと立ち寄る。

 ジャガーニートォ討伐戦の功労賞として、ピスコとカベルネの結婚式が挙げられることになってたんだ。


「健やかなる時も、病める時も、愛しあう事を誓いますか?」


「「誓い……」」


「ちょっと待ったぁ!わりぃピスコ、トラブっちまったわ!ここは危ない、すぐにカラーズに帰るぞ!」


 結婚式へと乱入、タキシードとウェディングドレスに身を包んだ二人を引っ張る。


「な!お前って奴は、何でこんな日に!親友の結婚式ぶち壊す奴があるかい!」


「本当にろくでもない友人ですね!あなたはピスコと違って、もう少しまともだ思っていましたよ!」


「おー、二人とも似合ってるな。なんかそう、良い感じだぞ」


「「誤魔化ごまかすな!!」」



"政都バーナルド 入口付近"


「どうなってんだ?王宮の衛兵じゃなくて、知ってる連中ばっかり追いかけてくる」


「タスクが結婚式を台無しにしたからでしょ!他にも色々集まってきてるけど。あ、シルベスタファミリーのレアナちゃんもいるや」


「おいおい、弁護士が怖い顔で走ってくんぞ!これってアタシ達は関係無いんじゃないか!?タスク一人で逃げろよな!」


「一番恐いのは…姉さんだ…大量にメスを…投げつけてきている…」


 うへぇ、俺って各方面に恨まれてんな。

 閑静かんせいな政都の通りを、ドタバタと鬼ごっこ。

 大人しく騎士になっときゃ良かったかも


「楽しいね、タスク。こんなにいっぱい友達が出来て」


「あのなぁ、この状況で良くそんな事言えるよ。捕まったら袋叩きだぞ?まったく、退屈しねーよなぁ、この世界はよぉ!」


「言ってる割には楽しそうじゃない。みんなも笑ってるし、タスクのまわりは、面白いことが集まるんだよ」


 この世界に来て一年。

 ヒーローにも騎士にもなれないけど、俺は俺を生きてる。

 愉快な仲間達とともに……


「あ、ハーさんがアネスさんに捕まっちゃった」


 仕方がない、見捨てよう。


【長い冬を終え、また新しい春を迎える】

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