79. we're the no brand heroes 前編

『ナイト』とは、馬上での戦闘を得意とする者に与えられる称号のこと。

 集団の場合は騎士団となり、それを率いる者は騎士団長と呼ばれる。

 ファンタジー世界では、鎧をまとい、武器を振るう勇猛な戦士のことも、その名で呼ばれることがある。

 しかし......


◇◆◇◆◇◆



 政都を目の前にして、究極の兵器ジャガーニートォは、ついに活動を停止した。

 表現力が完全覚醒したトールに、神の遺物アーティファクトミョルニルのスペシャルコンボ。

 鬼に金棒どころか、まんま雷の神にハンマーってな。


「やっと終わった。リアの掴んだ情報から始まった戦いが………今度こそ、俺達の勝ちだ!」


「やったねタスク!ぷっふぅ、もうクッタクタ。早く帰ってお風呂にでも入りたいや」


 憑依融合ポゼッションを解除し、空から降りてくるトールを抱きとめる。

 これにて今回の騒動は、全て解決したってわけだ。


 ざわざわ……ざわざわ……


(あんなデカい怪物が政都を襲いにきてたのか。総理大臣は何をやってたんだ)

(あれを操っていたのは防衛大臣って話よ。政治系ジョブから反逆者が出るなんて、世も末だわ)

(マジかよ?一部の政治家が、政都を潰そうとしてるって噂は本当だったのか。死刑だな死刑)


 戦いが終わったと見ると、政都から野次馬が現れる。

 話が伝わるのは早いもので、言ってることはおおむね間違っていない。

 タイラーは牢屋で臭い飯を食うことになるだろう、だが。


「トール、悪いが、もちょっとだけ頑張ってくれるか?小説家スキル『疾筆しっぴつ』こいつを、皆に聞こえるように読み上げてくれ」


 声優専用武器スクリプトに、セリフが浮かび上がる。


「タスク、これって……本当にいいの?」


「どうせなら、最後までカッコ悪くいこうや。ドーンとやっちまえ」


 トールは少しだけ不安そうな顔をしたが、民衆に向かい台本を構える。

 深く息を吸い込み、遠くまでハッキリと通る声で語り始めた。


「みなさん、聞いてください。突然現れた巨大な敵に、さぞ驚かれたことでしょう。怖かったことでしょう。今回の事件は、封印された超兵器の捜索を、防衛大臣が始めたことが始まりです」


 間違っていない。


「これは総理大臣の指示であり、遠く北の山奥にて、それは発見されました。しかし封印は強固で、超兵器を動かすには至りませんでした。そこで防衛大臣は、一人の小説家に目をつけたのです」


 ここまで間違っている部分は無い。


「それがタスクです!タスクはうっかり超兵器の封印を解いてしまい、破壊するはずだったジャガーニートォに、防衛大臣タイラー・アンソンが乗り込んでしまいました。ジャガーニートォには、制作者の怨念おんねんが宿っており、タイラーさんは心を操られ、衝動のままに、鉱業都市マインの採掘場を破壊」


 ちょっと細かい部分は端折はしょってるけど、間違いではないよな。


「そして政都に狙いを定めたので、小説家タスクは自分のせいになるのを恐れ、怒られたくない一心で、これを阻止に向かいます。結果はご覧の通り、みなさんの協力を得て撃破。全てはタスクが……小説家のタスクが引き起こした事件だったのです!」


 盛大に脚色してやったが、大筋は間違っちゃいない。

 政都の連中の目が、一斉にこちらを向くのが分かった。


「こりゃ嫌われっぷりも半端ない。二度と政都には近づけないかもな……はは」


 総理大臣と防衛大臣の私的な喧嘩だったと知れば、民衆の方で暴動が起きかねない

 事実をちょっとだけ曲げて、注目を俺に集中させることで、政都の地盤が崩れることを防ぐシナリオ。

 誰にも感謝されないエンドってのも、たまには悪くないさ。


 衛兵がやってきて、タイラーは引き取られていった。

 集まった人達を解散させ、俺は政都へ出頭。

 カラーズの街に戻り、しばらく謹慎きんしんせよとのお達しが出た。


【ジャガーニートォを巡る戦いが終わった】



"カラーズの街"


 街に戻って一週間くらいか。

 あの後、ジャガーニートォの残骸は、MAOが責任を持って管理すると言って持ち帰った。

 タイラーは辞職し、自ら牢屋に入ることを望み、罪を償うそうだ。

 アネスは一頻ひとしきりハーディアスを可愛がり、こっちには請求書だけ渡して去っていく。


 俺はと言うと、筋トレするか飯を作るしかしてない。

 なんだか、毎日がのんびり進んでいく。

 何もしなくて良い日々ってのも、これはこれで……


「タスク、手紙がきてるよ。これ王家からだね。差出人はキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルだってさ」


「キャビーから?王様を雑に使ったから、文句でも書いてきたか……どれどれ」


 トールから豪華な手紙を受け取り、中身を確認する。



『この度のジャガーニートォ討伐、多くの仲間を率いての戦闘、実に見事な働きであった。政都バーナルドを救ってくれたこと、王として礼を言うぞ』


 なんだ、感謝状か。


『しかし、そなたは注目を集めすぎた。その類稀たぐいまれな統率力と人脈に、政治家や反社会的勢力が目をつけたようだ。自分の勢力に引き込もうとする者、またはそれを良しとしない者。彼らによって、そなたは常に狙われることになるであろう』


 うげぇ、何で俺みたいな弱小ジョブを狙うんだよ。

 いやまぁ、自分で目立ちまくった結果だけども。


『そこで、そなたには王室より、栄誉ある騎士将軍オルランドゥの爵位を与え、王宮への出仕を命ずる。そなたを守るための緊急措置であるため、この申し出は決して断らぬように』


「うわぁ、大出世だ!騎士将軍なんて、王様の臣下でも、相当な位だよ」


 まるで自分の事のようにはしゃぐトール。

 確かに宮仕えなら、外部からの干渉は受けにくいけど。


「ってもなぁ、結局は勢力に引き込まれるって話なんだよな。キャビーなりに考えてのことなんだろうけど」


 かと言って、嬉しくないかと問われれば、情けないが嘘になる。

 この世界においての、最高位への道が開けたわけだし。


「これだと、カラーズを離れて、政都で生活することになるね。どうする?受けるの?」


「ううむ……」


 そうなったら、パーティーは今度こそ本当に解散だ。

 みんなバラバラになってしまう。


「受けないの?」


「そういうわけには……申し出は受けざるを得ないだろ」


「だよね……………寂しくなっちゃうかも」


 そう言うとトールは、俯いたまま俺のシャツを掴んだ。

 二人で歩んだ一年間、俺達は何かを遺せたのだろうか。


【タスクの受勲が決定した】

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