72. Go!! 後編

"鉱業都市マイン"


 ダンジョンのある雪山を下り、鉱業都市まで戻ってきた。

 ジャガーニートォを追う方法を聞こうと思っていたのだが、変わり果てた都市の様相に目を疑う。

 俺達が汗を流して働いていた採掘場は、見るも無惨むざんに破壊されていたのだ。


「おう、お前らか。無事で何よりだ。こっちは見ての通りの有様ありさま、しばらくは仕事になんねぇな」


 こちらの姿を確認するなり、声をかけてきたのは、ジョブ『現場監督』のアイローン・フルメタル。

 採掘場で作業を取り仕切る、親方的な存在だ。


「でっけぇ巨人が現れてな、怪我をしたくなければ採掘場から全員避難しろって言いやがんだよ。腕っぷしの強ぇ連中で立ち向かったんだけど、まるで歯が立たなかったんだ」


「ひどいな……タイラーの奴、なんで採掘場なんて襲撃したんだ。すまないアイローン、俺達がジャガーニートォを止めれなかったばかりに」


「そう自分を責めるこたぁ無ぇよ。採掘場は潰されたが、大した怪我人は出てねぇ。人を襲うのが目的じゃなかったようだ。巨人はな、ここで取れた資源を喰らい尽くして去って行ったよ」


 マインに立ち寄ったのは、マシンの強化を行うためか。

 今のジャガーニートォは、更にパワーアップして政都を目指してるってわけだ。

 状況は、刻一刻と悪くなっている。


「そういうことか。タイラーの奴、はじめから採掘場を狙ってやがったに違いない!なぁアイローン、何かあいつに追いつく方法は無いか?政都とここが地下で繋がってるとか、飛び込むとワープする泉とか」


「落ち着かんか。常識で考えて、そんな現実離れした物があるわけないだろう?どう頑張っても、政都までの道程には数日かかる」


 こんだけバグついた世界にいるってのに、常識や現実が邪魔してくんなよ。

 ちくしょう、ここにきての八方手詰まりか。

 何か都合良く、うまい考えは出てこないものか。


「タスク、瓦礫がれき撤去てっきょをしてるみたいだよ。人手ひとでが欲しいみたいだし、とりあえず手伝いに行かない?」


「人助けか……トールはそういうの、放っておけないたちだもんな。よし、下手な考え休むに似たり。バイトでお世話になった恩もある。今は、俺達に出来ることを、一個ずつ片付けていくか!」


「気付いてないかもだけど、今まで一番人を助けてきてるのはタスクだからね?タスクは巻き込まれ体質で人情家にんじょうかなんだから」


 嫌な体質だな、言われてみれば散々流れ弾くらってきたけど。

 まぁいいさ、何もしないよりゃマシだ。

 体でも動かしてりゃ、何か思いつくだろ。


「だぁっはっは!やっぱり若者は元気が一番だな!」


【採掘場に救援に向かった】


 ガラガラガラ、ドシャ!


「ぐへぇ!やっぱり肉体労働になるわけだ。タイラーの奴、ジャガーニートォから引きずり降ろしたら、運搬作業させてやる!」


「ふぅ…これだけ滅茶苦茶に暴れてたら、瓦礫の量も半端無いね。ちゃんと復興できるといいけど」


 鉱脈を食い千切ったかのように、地形がえぐられている。

 究極の兵器をうたうだけあるな、凄まじい力で蹂躙じゅうりんしたのだろう。

 ここの資源を吸収して、今じゃどれほど凶悪な姿になっていることか。


「ッキショウめ!せっかくカラーズから遥々はるばるきたってのによ、あんなバケモンが出てくるなんて聞いてねぇぞ!工房は閉まっちまうし、撤去作業に駆り出されるし、今日はツイてねぇなぁ」


「ん、この声どっかで……」


 人海戦術で瓦礫をどかしている中から、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 このの良い喋り方をする男。

 間違いなく知っている人物だ。


「おう、おめぇさんはタスクじゃねぇか!久しぶりだったなぁ」


「ラッチ!何で鉱業都市にラッチがいるんだ?」


 カラーズ転送系ジョブ『駅長えきちょう』をやっているラッチだった。

 スキルで電車を操り、長距離の移動を可能にするジョブ。

 問題は若干、電車に安全性と乗り心地が欠如けつじょしていることだが。


「何でって、そりゃ電車の整備はマインでやってっからな。定期メンテナンスに来たんだが、バケモンが出てきてこのザマよ」


 そうか、電車も金属で出来ているから、鉱業都市との関係も深い。

 トロッコのどこを整備するんかは知らんけど。


「ラッチ、政都に向けて電車を出せないか?そのバケモンを追っかけたいんだよ。電車なら、最速で政都まで行けるだろ?」


「そりゃ、出してやりてぇのは山々なんだがよ……持ち込んだ電車は、全部バラバラにして格納庫の中だ。この状況じゃ、整備どころかパーツも手に入らねぇ」


「そっかー、やっぱダメかぁ。電車なら追いつけると思ったのに。こっちが打てる手は、全部もってかれちまう。タイラーの野郎、やってくれるぜ」


 ここで足踏みしてる間にも、奴は政都へと近づいている。

 時間の経過とともに、焦りと不安だけが加速していく。

 もう本当に、ジャガーニートォに追いつく手段は無いのか。


「ん……そういやアレなら」


 来た!万策ばんさく尽きた状態を打開する、魔法の言葉が。

 ラッチは首をかしげ、何かを考えはじめている。


「何かあるのか?何でもいい!思いついたものは全部言ってくれないか!」


「いやな、今の安全な電車が作られる以前に、実験的に建造されたプロトタイプが存在するんだ。ソイツは誰も近づかねぇ古い格納庫の中で、今も眠ってるはずなんだがな……」


 あの空飛ぶトロッコの、どこを見て安全と言えるのだろうか。

 いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 わずかでも希望があるなら、俺はそれを手繰たぐり寄せるだけだ。


「あるのか!政都まで行ける電車が!頼む、そいつを引っ張り出して、俺達を乗せてくれ!プロトタイプでも何でも構わない!」


「ふぅん……へっ!そこまで頼まれちゃ嫌とは言えねぇやな。一晩待ちな、キッチリ動くようにしとくからよ。政都までの道のりは、ちゃんと開いてやらぁ!」


 よっしゃ、これでジャガーニートォを追うことができる。

 偶然でも奇跡でも、人との繋がりが無きゃ始まらないもんだよな。


「そうと決まれば、急にやる気が湧いてきたぜ!瓦礫なんぞ纏めて片付けてやらぁ!」


「ちょ!タスク!あんまり飛ばすと、へばっちゃうよ?」


 この日はひたすら撤去作業に集中し、現場スタッフ達と飯を食い眠った。

 全ては明日、急ぎ追いつきジャガーニートォとの決着をつけてやる。


【一晩が経過した】



「お……おい。プロトタイプってこれか?ただの段ボールじゃねぇか!」


「なんでぇなんでぇ、朝から酒が飲みたいのか?」


 ハイボールじゃねぇわ、段ボールだっつってんだよ。

 ご丁寧に二つ繋げて、ガムテープで止めてあるだけのミカン箱。

 一晩かけて、コレのナニをドウしたんだよ。


「さっさと乗りなって。連れの声優はとっくに乗車してんだぞ」


「タスクー、早く来なよ。でもこれ、二人で乗るには、ちょっと小さいかも」


 お前は捨てられた猫か。

 この状況にいささかの不安も無いのかよ。

 逆らっても無駄な展開なので、渋々ご乗車いたします。


「なんつってもプロトタイプだからな。出力と精度が不安定で、政都側のレールに着地させるのは困難だ。近くまで飛んだら不時着させろ、いいな?」


「それよりも耐久性のほうが心配になるんだが?本当に大丈夫なんだろうな」


「本日も、素敵なフライトをお楽しみ下さい。それでは行ってらっしゃい」


「おい、やっぱり不安になってきた。何か他に方法が……」


「発車ぁぁぁ!!オォォォライィィィ!!!!」


 ガコン……ずっどーーーーーーん!!


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉ!!」


【マッハで政都を目指す】

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