73. Gang Ster Paradice 前編

『ギャング』とは、反社会勢力に属する集団、構成員こうせいいんのこと。

 組織化して犯罪を起こす者達は、モッブやマフィアとも呼ばれる。

 秩序ちつじょを乱し、庶民の暮らしをおびやかす ならず者ではあるが、任侠にんきょう映画などの映像作品などは人気があったりする

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



 鉱業都市マインから、電車でぶっ飛び中。

 なんで電車が空を飛ぶのかとか、そもそも電車じゃなくて段ボール箱だとか、ツッコミはじめたらキリが無い。

 どうやら安定軌道あんていきどうに乗り、政都を目指して一直線なわけだが。


「タスク、お弁当たべようよ。飛びっぱなしで、お腹が空いちゃった」


「あのなぁ……今、俺達はブレーキの無い欠陥車に乗って、猛スピードで走り続けてんだぞ。こんな危険な乗り物があるかよ。よくこの状況でメシが食えるな」


「お腹が空いては戦は出来ぬ、だよ。いざって時にものをいうのは体力、戦ってる時に力が入りませんじゃ洒落しゃれにもならないよ」


 なんて言ってるが、単純に腹が減ってるだけだろうな。

 出発前にこしらえておいたオニギリを、口いっぱいにモグモグしている。


「まったく、トールにゃ怖いって感情は無いんかよ。無事に政都に着いたとして、今度はあのデカブツと戦うってのに。本当に恐れいるよ」


「アハハ、そんなことないよ。怖いものなんていっぱいあるし、昔は一人で良く泣いてたもの。でも今は、色んな人と出会えたし、仲間も出来た。絆って、人を強くするのかもね」


 友達のいなかったトールにとって、今の生活は最高に楽しいのだろう。

 俺だってトールに出会わなかったら、どうなっていたかわからない。


「………何か良い話してる時になんだが、電車の高度が落ちてきてないか?どんどん地上が近くなってるような」


「またまたぁ、そんなこと言ってビビらせようとしてもダメだよ」


 バリバリバリ!


 これは、ガムテープの剥がれる音か。

 まずい、嫌な予感しかしないぞ。


「タスク!電車の接合部せつごうぶが取れかけてる!」


「だから段ボールにゃ無理があるって言ったんだ!このままじゃ空中分解しちまうぞ!剥がれたとこをおさえるんだ!」


 忘れていた、トールと高いとこには来てはならないことを。

 段ボールで墜落ついらくしてゲームオーバーなんて、そんなマヌケな話があるか。


「よぉし!だったら声優スキル『ヒーリングボイス』……は、意味が無いか」


「何を遊んでんだ何を!しっかり掴まってろよ。力を開放しろ、ハルジオン!浮遊ソウェルそして騎乗ライゾー!」


 空飛ぶ棺桶かんおけを御するには、この方法しかない。

 電車にルーンを刻み、能力を付与することで飛行を継続する。

 頼む、このまま政都まで持ってくれ。


【空の上の惨劇さんげきは回避できるか?】



"政都バーナルド 周辺フィールド"


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 パッコーン!!


 長い時間、空を飛び続けた電車は、その勢いを失うことなく地面へと激突した。

 元が段ボールだから、なんとも軽い音でバラバラになってしまった。


「あぶねぇ!脱出してなかったら、地面に叩きつけられてたな」


咄嗟とっさに飛び出してよかった。ルーンってホント万能だよね」


 電車を乗り捨て、ハルジオンに浮遊のルーンを張り、ゆっくりと降下する。

 見下ろすと政都の防壁を眺めることができる。

 なんとか目的地の近くまで来れたようだ。


「ギリギリで間に合ったな。まだタイラーは到着していないみたいだ」


「空を飛んできたから、直線距離と移動速度で追い越したんだね。ふぅ、無事に着地っと」


 しがみついているトールが、地面に足をつける。

 決戦前からしっかりドタバタしやがって、命がいくつあっても足りんぞ。

 さてと、政治家達に救援を求めに行くとするか。


 ザザザザザザザ!!


 政都へと向かおうとした瞬間、いきなり大人数に取り囲まれた。

 ざっと見るだけでも数十人はいる。


「見つけたぜ、こいつが小説家のタスクぜ」

「おーおー、二人だけで政都に乗り込もうってか。どんな悪巧みをしてるぜ?」

「ククク、ここで身ぐるみ剥いで、討ち捨ててやろうぜ」


 シルベスタファミリーのバッジ、政都まであと一歩ってところで。

 そういやプラリネとハーディアスに、陽動作戦として俺の悪評を広めてもらったんだ。

 それを聞きつけ、政都に何か仕掛けると思って待ち構えていたのか。


「まずいな、考えてた作戦が裏目に出たかも」


「タスク、この数が相手じゃ勝負にならないよ。でも着ぐるみなんて着てないのに、何を剥ぐんだろう?」


 いや着ぐるみじゃなくて身ぐるみ、なんで俺達が可愛い動物の格好しなきゃならんのだ。

 なんてバカなこと考えてる場合じゃない。

 一難去ってまた一難、ただでさえ俺はファミリーに恨まれるようなことしてるし。


「やめとき!一家の品格を落とすような事は許さへんよ!」


「お……お嬢!へい、すいやせんぜ」


 並み居る強面こわもてを一喝して現れたのは、一人の女性だった。

 歳は俺達と変わらないぐらい、はだけた着物にサラシというジャパニーズ任侠にんきょうスタイル。

 下っ端達は頭を低くして女性の道を作る


「あんたが噂の小説家か、ジアゲーロ一派を壊滅させたんやて?そら随分と世話になったなぁ」


「ジアゲーロ?あぁ、幹部の嫌な奴のことか。なるほど、俺が一派を倒したから、報復に来たんだな」


 街道で人々を襲い、それをモンスターの仕業に仕立てて、護衛料金を取ろうと目論んでいた腐れ外道だ。

 確かあの時は、尾鎌太刀オカマタチによって成敗せいばいされたはずだが。


「勘違いせんとき、ウチはジアゲーロのアホは死ぬほど嫌いや。汚い手で伸し上がって、ファミリーを牛耳ろうとしとった奴や。一番許せんのは、ウチを口説くどき落として、首領しゅりょうの座に手をかけようと思とったことや。アンタのおかげで、制裁せいさいする手間がはぶけた。感謝しとるぐらいやで」


「首領の座?制裁って……お前はいったい」


「ウチはシルベスタファミリーの首領ドンフレッド・イトオカシム・シルベスターの孫娘、アンドレアナ・イトアハルレ・シルベスターや。鼻持ちならん政都の犬どもに鉄槌を下し、仁義じんぎをもって民草を導く!どや、アンタも一緒に世直しせぇへんか?」


 道理で貫禄かんろくがあるわけだ。

 反社会的組織のボス、その血筋を引くバリバリの極道ごくどう

 政都を守ろうってのに、とんでもないのを呼び寄せてしまったぞ。


【シルベスタファミリーの爆弾娘が現れた】

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