71. I can feel your pain 後編

 がちぃぃぃぃぃぃん!!!!


 ゲンコツと拳骨ゲンコツがぶつかりあい、すさまじい衝撃波しょうげきはが発生する。

 ジャガーニートォと総理大臣、こんなのチート同士の頂上対決じゃないか。

 サイズは違うが、パワーは互角ごかくってとこか。


 メキメキメキ………バキィーーン!!


 突き出したジャガーニートォの腕が、音を立てて粉砕されていく。

 究極の兵器が、まるで赤子扱いだ。

 たった一発で勝負あり、やはり総理大臣は無敵か……ん?


「むぅ!さすがは最強ジョブ、伊達だてじゃない。まさか正面からの力比べで、押し負けるとはな」


「ガハハ!きたえた肉体に勝るものなど無い。もう観念せよ、お前に勝ち目は無いぞ」


 あれは鍛えるとかいう次元の話じゃない。

 なんというか、あっさりとタイラーの野望も潰えた。

 エバーが出てくると、全てがイージーモードになってしまうのズルい。


「まだだ!まだ腕一本やられただけだ!ジャガーニートォの底力はこんなものではない!金に物を言わせ、今必殺のジャガビーーーーーム!!」


 ジャガーニートォの全身から無数のビームが発生、湾曲わんきょくしながらエバーへと襲いかかる。


「風よ、雪を舞い上げ光を閉ざせ!ハルジオン最大出力!!」


「なにぃ!!」


 ペンシルフィードの力を借り、吹き荒れる風を操り、雪を舞い上がらせることでビームを遮断する。

 これだけ雪のあるフィールドだ、活用しない手は無いぜ。


「君は……生きていたのか。あの崩落ほうらくの中で」


「よぅタイラー、さっきはよくも出し抜いてくれたな。あとな、その技の名前は少し考えたほうがいいんじゃないか?」


「ふむ、必殺技の名前はダサいぐらいが丁度良いと聞いたが……善処ぜんしょしよう」


 ジャガーニートォの攻撃を防ぎ、総理大臣の前へとおどり出る。

 こりゃ最高に格好良い登場シーンが決まったぜ。


「さぁて、ここからは俺達に任せて、オッサンは下がってな。過去に何があったかは知らないが、あれは元々、俺達が追っていた相手だ」


「うはぁ、ロボットの腕がもげちゃってるからって、すごい強気に出てるね。初めから美味しいとこ持ってくつもりだったでしょ?」


 トールは黙ってなさいよ。


「タスク君トール君、無事だったことは嬉しいが、アレは君等でどうにかなるものではない。すぐにここから退避するのだ!」


 エバーに退くよう促されるが、ここは譲るわけにいかない。


「断る!オッサン、さっきの一撃から利き手をかばってるな。その腕、使い物にならないんだろ?」


「気付いていたか。だが奴にはまだ知られて……」


「タイラーさーん!エバーさんは今、腕を怪我していまーす!攻撃しないでくださーい!」


「やめんかトール君、大声で弱点を伝えるんじゃあない!恐ろしいことしよるわ、この子は」


 トールとしては、良かれと思っての行為だったのだろう。

 いとも容易たやすく、エバーの隠していたダメージがバレてしまった。


「腕の一本やそこら失おうと、ワシには奴を止める義務がある!あれはワシがここで沈める。タスク君、そこを退きたまえ」


「そんな義務なんて知るか!誰だって、友達は殴りたくないに決まってんだろ!タイラーはあんたの親友なんだろ?引っ込んでろよ!」


「ぐぬ、君という男は……しばらく見ないうちに、随分と逞しくなったものだな。だが、どうやってジャガーニートォを止めるのじゃ?」


「ここで完全に倒したいところだが、そう簡単にはいかないだろう。やるだけやってみるが、ダメなら時間を稼いで上手く逃げるよ。だからオッサンは政都に戻って迎撃体制を整えててくれ」


 あれだけのデカブツを相手にするなら、こちらも相応の作戦が必要だ。

 復讐が目的なら、タイラーはエバーを追って政都へ向かうはずだ。

 あそこなら防衛機能もあってワーカーも多い。


「わかった、ここは君に従おう。だが今の奴は危険だ、くれぐれも無理はしないようにな。では任せたぞ、さーらーばーだー!」


 ゴゴゴゴゴゴ ドギュゥゥゥゥン!!


 総理大臣はロケットのような炎を噴射しながら、空へと飛び立っていく。


「オッサンの体の構造、いったいどうなってんだ?」


「うはぁ……あの人、人間やめちゃってるね」


「な、昔からアイツの、ああいうトコが、私はたまらなく嫌だったんだよ」


 残った三人で、総理大臣を見送る。

 あんなデタラメなのが友人だと、色々苦労もあっただろうな。

 防衛大臣の心中、お察しするに余りあるわ。


「さーて、今度は俺達とやろうや!オッサンからの連戦で大変だろうが、まさか卑怯だとは言わねぇよな?」


「腕一本ぐらい、ちょうど良いハンデだよね」


 俺がハルジオン、トールはスクリプトを構える。

 ジャガーニートォには、エバーが与えたダメージがある。

 これなら互角以上に戦えるはずだ。


「ふむ、とことん私の邪魔をしたいようだな。鬱陶うっとうしいを通り越して、いっそ楽しく思えてきたぞ!君を相手に、手加減はいらないな!」


 ガチガチガチ ジャキィーーーン!!


 雪の下から更に鉄の塊が現れ、失われた腕を復元していく。

 お願いです、手加減してください。


「ウソやん……さっきより強そうな腕になってるじゃんか。インチキ!卑怯者ー!」


「破損した部位を強化するのは当然だろう。さっそく喰らえぃ!ジャガパーンチ!!」


 破壊力の上がった鉄腕が、うなりをあげて襲いくる。

 かろうじて避けることが出来たが、これじゃさっきより強いじゃねぇか。

 弱体化したとこを狙って出てきたのに、とんだ大誤算だ。


「にゃろう!だから技名がダサいってんだろが!こうなりゃ小細工は無しだ!小説家スキル『疾筆しっぴつ』やっちまえトール!」


「特盛でいっくよー!ストライクトールハンマァァァァァ!!」


 ピピガァ!ずっどぉぉぉぉぉぉん!!


「ぬがぁぁぁぁぁ!!」


 よぉし、凄まじい雷撃がジャガーニートォに直撃。

 いくらデカくて強かろうが、所詮は機械人形だ。

 金属は電気を通すから、タイラー自身にも大ダメージ間違いなし。


「見たか!属性で弱点を突く戦法、基本中の基本だよなぁ!」


 雷に打たれ、変色した装甲から、煙がプスプスと上がっている。

 わりと呆気あっけない決着だったな。

 って、あれ?もしかして威力が強すぎて死んじゃったりしてないよな。


「お……おいタイラー?」


 グググ……ガッシィ!!


「しまった!」


 一瞬の油断、ジャガーニートォの腕がせまり、体を拘束されてしまった。

 アチチ、雷で焼けた手で握り潰されたら、ひとたまりもないぞ。


「ククク、今のは効いたぞ。なかなかしびれる魔法じゃあないか!単純で利用しやすい一般ワーカーだと思っていたが、その認識は誤りだったようだ。君達こそ私にとって最大の障害!ここで消えてもらうしかあるまい!!」


 ギリギリと握力が強まっていく、体が押し潰されそうだ。


「そうりゃ!てい!オラァ!!」


 ジャガーニートォの腕に、トールが連続蹴りを決めていく。

 しめた、ちょっと握りが弱くなったぞ。

 こいつもこいつで、なんつう脚力してんだか。


「オノレ、ちょこざいな!まとめて叩き潰してやるぞ!」


 グググ……ぶぅん!!


 まるで野球ボールでも放るかのように、俺はその腕から投げ出された。

 当然、投げられた先にはトールの姿。

 受け止める気か?キャッチャーみたいな構えすんな。


 がしぃっ!!


 空中で抱き合い、そのままの勢いで飛ばされる。


「タスク!!」


「おおっしゃ!騎乗のルーン『ライゾー』、紙々の滑板ヴァルキリーボード!!」


 トールを抱きかかえ、原稿用紙で作ったスノーボードで斜面を滑走かっそうする。

 雪山専用の高機動戦闘スタイルってな。


「逃がしてなるものか!ジャガ……タイラービーム!!」


 言い換えた?ちょっとは気にしてたのか…やっぱりダサい。

 だが俺もボードさばきには自身があるぜ。

 飛来するビームを右へ左へと回避していく。


「逃げた方が良いのはお前だぜ!やれるかトール?」


「うん、任せて。声優スキル『ラウドスクリーム』」


 俺にしがみついたまま、トールがスキルを放っていく。

 ものすごい声量の爆音が、この雪山に響き渡った。


「振動で装甲を剥がそうというのか?バカめ!その程度のスキルで……」


 ゴゴゴゴゴゴ……ざばぁぁぁぁぁっん!!


「何ぃ!?」


 超大声で呼び寄せるは白き大波、つまりは雪崩だ。

 振動で脆くなった雪が、一斉にジャガーニートォを飲み込んでいく。

 こちらは巧みにボードを操り、雪崩を回避させてもらうけどね。


【ジャガーニートォは埋もれた】

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