70. Lost Technology 後編

 崩落ほうらくしたダンジョンの下層、そのせまい道を歩く。

 通路があるってことは、外に繋がっているはずだ。

 進め、タイラーを止めると決めた以上、立ち止まってはいけない。


「ん、なんだここ?変な部屋に出たぞ」


 小さな部屋に、ベッドと本棚だけが置いてある。

 異世界人はここで寝起きしていた?

 上のフロアに比べると、えらく質素しっそな造りの部屋だ。


「タスク!無事だったんだね。良かったぁ」


「おうトール、やっと合流できたな」


「んん?もっと心配してくれてると思ったのに。なんか初めから安否あんぴを知っていたような口振りだね」


「心配はしてたよ。でも信頼できるかたから助言じょげんを頂いたんでね」


 シモンの言うことは、いつだって当たる。

 この再会は必然だったってことだ。

 それよりも、この部屋はいったい。


「小難しそうな本が並んでるな。ん、これは日記のようだが」


「ダメだよタスク!人様の日記を勝手に開けちゃ」


「大昔の人がつけた日記だぞ?とっくに、お亡くなりになってるだろ」


 古ぼけた日記帳、ここの主が書いていたものだろうか。

 これを読めば、何かがわかるかもしれない。

 期待と恐れを抱きながら、ページをめくっていく。



4月29日

 今日も平凡な一日だ、仕事を辞めてから何日目だっけ。

 無能な連中しかいない職場だったし、何の未練みれんも無いけどな。

 ボク様ほどの技術を持ったエンジニアなら、どこの企業からも引く手あまた。

 すぐにでも次の雇手やといてが現れるだろう。



「何だこいつ、凄い自信家だな。機械系のスペシャリストだったってことか。ひたすらバイトに追われていた俺にとっちゃ、憧れが強いなぁ」


「前半はダラダラ引きこもり日記だね。重要な部分までチャチャっと飛ばすよ」



5月14日

 ボク様ほどの天才が、まさか火事に巻き込まれるなんて。

 きっと誰かが才能をねたんで放火したに違いない。

 それよりも問題は、ボク様が異世界に飛ばされたことか。


 いったいこの村は何なのだ、別の世界から来たボク様を『救世主きゅうせいしゅ』だってさ。

 何とも笑える話だな、今日なんて適当にスキップを教えただけで英雄扱いだ。

 なぜかスキップが出来る出来ないで、村の中で身分制度みたいなのできたし。



「スキップ村の悪習あくしゅうは、こいつのせいかよ!」



6月1日

 お城からつかいの者が来た。

 毎日チヤホヤされながら、食っちゃ寝の生活だったが、ついにボク様の出番がきたようだ。

 王様が直々じきじきに救世主様をご指名、聖王都せいおうとバーナルドへ向かうことになった。


6月14日

 こっちに来て数日が経過した。

 適当にヨーヨーやカイトを作ってやると、魔導具師クリエイターとか呼ばれてあがめられる。

 なんだこの世界、チョロすぎのイージーモードだな。


8月2日

 暑い、暑すぎて部屋にもりきり。

 都の連中も、ボク様をチヤホヤしなくなってきた。

 そもそも異世界なのだから、女神でも出てきてチート能力の一つもさずけろや。


 こっちの世界なら活躍できるはずだったのに。

 やはり異世界なんてとこは、野蛮やばんで無能な人間しかいない。

 もっとボク様の価値を認め、泣きついてくるなら本気を出そう。


8月20日

 聖王都から追い出される。

 働かないという理由だけで追放するなんて、なんと心の狭い連中だ。

 ボク様が作ってやった玩具おもちゃで、あんなに遊んでいた子供達もさげすむような目で見やがって。


 どうやら採掘場のある町に送られるらしい。

 嫌だ嫌だ、肉体労働なんてしたくない。

 ボク様のような一流の技術者がやることじゃないはずだ。


9月1日

 筋力だの根性だので働くなんて、効率が悪すぎる。

 ボク様の考え出した採掘システムの設計図を場長に突き出してやると、興味深そうに眺めていた。

 ふふん、少しは物分りの良い者もいるようだ。


 その設計図を元に、採掘場が大幅に改修されることが決まった。

 全体にレールを張り巡らせ、魔法石によって動く昇降機リフトも設置しよう。

 いいぞ、ボク様の時代が来たってわけだ。



「鉱業都市マインは、こいつの作ったシステムで大きくなったのか」


傲慢ごうまんな人に感じるけど、腕は確かだったんだね」



11月10日

 採掘場の作業効率は格段に上がった。

 そんなボク様に対して、周りは汗を流して働けと言う。

 ボク様のおかげで楽が出来ているんだ、凡人に指図される筋合いは無い。


 凡人は天才の手足となって動けばいいんだ。

 ボク様が、いかにとうとい存在か分からせてやる。

 頭脳であるボク様のストライキを喰らえ。


12月12日

 部屋に閉じこもって数週間、食事も運ばれなくなり、食べるものが無い。

 ボク様がいないのに、採掘場から聞こえる音は、大きくなるばかりだ。

 どうしよう、働くべきか?


 いや、凡人にはすぐ限界が来る。

 この場所を離れよう、ボク様の才を発揮できるステージへ。

 とりあえず、町の食い物をかっぱらって逃げるとするか。


12月20日

 採掘場の北に洞窟を見つける。

 ボク様がいなくなったと、奴らが慌てるのが目に浮かぶ。

 早く連れ戻しに来るがいい。


12月22日

 誰も来ない、食料も底を尽きそうだ。

 もう少しだけ待ってやるか。


12月23日

 おかしい、なぜ誰も来ないんだ。

 ボク様がいなきゃ、機械のことなど……

 頼む、誰か助けにきてくれ。


12月24日

 洞窟に女が訪ねてきた、町の人間じゃない。

 不思議な力を使い、食事をしなくても生きていける体にしてくれた。

 空腹も無く、睡眠を取る必要もない理想の体。


 なるほど、今になって女神が現れたわけだ。

 女神はボク様の才能を、フルに発揮できる施設を作ってくれた。

 最高のクリスマスプレゼントだ。


12月31日

 女神が『アダマンレイブル』という鉱物を持ってきた。

 精神感応して、様々な力を起こす究極のマテリアルだという。

 調べてみると、確かに凄いエネルギーを有した物質であることが解った。


 次から次へと設計案があふれる、壁に全部記すか。

 面白い、こいつで長年の夢だった、巨大ロボットを作ってやろうじゃないか。

 ボク様を認めなかった愚か者どもに、正義の鉄槌てっついを下すのだ。


1月26日

 ククク、何もかもが上手くいく。

 四足歩行のアンドロイドを作ったから、巨大ロボットの製造をやらせればいい。

 あとは動力をどうするか、人の感情を動かす大きな起爆剤が必要だ。


 女神が大量に、この世界の通貨を持ってきてくれた。

 そうか、金だ!人の感情を揺さぶるのは金。

 金の魔力ったら無ぇよな。


2月15日

 ええぞ、巨大ロボット『ジャガーニートォ』の完成ダダッダー。

 装甲庭、メガの持ってきたオリハルコンを着装。

 止メルことのデキない、圧倒的な墓…ハカ…破壊力か。

 明日が、ニンゲンどものエックスデーとなルルル。


「急に文字がグチャグチャになってきたな。あのロボットの名前はジャガーニートォか。ついに名前が判明したぜ」


「人らしさが消えてきてる。タスク、なんだか結末を読むのが怖いよ……」



○月✕日???

 破戒シタッタ、採掘場のヤツラをズタボロに。

 ダメだ、頭がマワラナイ、カネ無い、ジャガ動カナイ。

 作っテハ、イケナカッタ、アイツはメガ実ナンカジャ無カタファルカタ。


 封印、フウインしなケレバ、アレはダメ。

 ヒトガオカシク曲がる、コワイコワイ。

 ダレカタスケテ、カエリタイ。


 シゴト肢体



【日記はここで途切れている】


「後半は、ほとんどホラーみたいになってるな。採掘場に攻撃を仕掛けて、エネルギー切れでここに戻したって感じか」


「あのロボット、人の精神を壊す力があるのかも。タイラーさん、もしかして知らずに乗ってるんじゃないかな。このままじゃ……」


「この異世界人みたいに、精神崩壊するかもしれないな。そうなったら、どんな暴走を引き起こすかわからない。その前に、なんとしても止めるぞ!」


 対抗策と呼べるものは、見つからなかったかもしれない。

 だが名前を知り、生み出された経緯も解った。

 行こう、ジャガーニートォをブッ壊しに。


 ガコォーーン!


 急に壁の一部が外れ、新たな道が現れる。


「これは、空気が流れ込んできている。外に繋がる隠し通路か。いや隠し通路多すぎ!」


「怖ぁ……異世界人さんの幽霊でもいるんじゃない?」


【ダンジョンを脱出した】

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