70. Lost Technology 前編

『防衛大臣』とは、行政機関ぎょうせいきかんのひとつ、防衛省の長のこと。

 自衛隊をべる役職であり、総理大臣のもとで日本の防衛をになう。

 閣僚かくりょうの中でも重要度が比較的高く、専門的な知識や技術が要求される。

 国の存続に関わる役割のため、その肩にかかる責任は非常に重いと言えるだろう。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



"異世界人のラボ"


 謎解きをクリアし、そのまま目標へ一直線。

 なんて順調に話が先に進むわけもなく、新たなトラブルに見舞われる。

 ここにきて、防衛大臣のタイラーが裏切りやがった。


「てめぇ!トールから手を離せよ!」


「君が鍵をこちらに渡せば、この娘は開放しよう。おかしな真似はしないことだ、私はあまり気が長いほうではない」


「うぁぁ!く、苦しい!」


 タイラーの腕が、トールの首をギリギリと締め上げる。

 こいつ、目的のためなら本気で人を殺しかねない。


「汚ぇぞ、最初から俺達を利用するつもりだったな」


 鍵を床に置き、ゆっくりと後ずさる。


「聞き分けが良くて助かる。君達には本当に感謝しているよ。私の目的のためには、あれがどうしても必要なのでね」


「ふざけ倒せ!おもちゃ一つで政都を制圧できると思ってんのか?あそこにゃ最強ジョブの総理大臣がいるんだぞ」


「ふむ……政都など私の眼中にはない。名声もマニーも、権力すらも些細ささいなことだ。これさえあれば、私の願いは成就じょうじゅする」


 鍵を拾い上げ、扉へと向かうタイラー。

 なんとか隙をついて、トールを助けださなければ。


「やめておけ、君の気配は分かりやすい。そんなき出しの感情では、今から攻撃しますと宣言しているようなものだ」


 こちらの動きが見透かされていて、見ていることしかできない。

 タイラーは、そのまま扉に鍵を挿し込み、ガチャリと回した。

 中との気圧差か、プシューと音を立てながら扉は開いていく。



「ふむ、短い間だったが、ここでお別れだ。さらばだ、まぬけな小説家と無力な声優よ」


 突き飛ばされたトールを抱きとめる。

 その間にタイラーは捨て台詞ぜりふを残し、その足で兵器へと走り出していた。


「トール!大丈夫か?」


「うん、私は平気。でも、タイラーさんが奥に行っちゃったよ」


「ああ、出し抜かれた。これじゃ奴の手助けをしたようなもんだ。追うぞトール!」


 もっとタイラーのことを警戒すべきだった。

 だが、今さら悔やんだところで状況は変わらない。

 兵器の起動を阻止すべく、こちらも走り出す。



"兵器の格納庫"


 だだっ広い吹き抜けの空間、その壁に巨大なロボットがはりつけにされている。

 剥き出しのフレームが、照明に照らされ、ギラギラと黒く光る。

 タイラーの奴はどこだ、姿が見えない。


「ふむ、追ってきてしまったか。君達は逃げるべきだった。まぁいい、そこで見ていたまえ」


 上から声、既にロボットに乗ってやがったか。

 ロボットの頭部で何かを操作している。

 まずいぞ、奴は兵器を起動する気だ。


「やめろタイラー!そんなもん動かして、何がしたいってんだよ?今すぐ、そこから降りてこい!」


「もはや君達と語る言葉は無い。さぁ、究極の兵器よ!長き時を超えてよみがえるがいい!!」


 ゴゴゴゴゴゴ!


 急に施設全体が震えはじめる。

 やりやがった、こんなもん動きだしたら、止める術はあるのか。


「いいぞ、システムは生きているな。動力には何を使う?……ぐわぁ!スネに金具が食い込んでくる!?」


 何が起きているんだ、タイラーは苦しんでいるように見えるが。

 揺れが激しすぎて、立っていることも出来ない。


「フハハ……そういうことか!こいつは搭乗者からエネルギーを吸うのだな。ならば持っていくが良い。私のマニー、その全てをくれてやる!!」


 ぎょぱぁぁぁん!!


 ロボットの目が光り、その腕が拘束を引きちぎっていく。

 解放された狂気、圧倒的な巨体、こいつはマニーで動くのかよ。

 こんなものが暴れ始めたら、こんなダンジョンなどあっという間に崩壊するぞ。


「そいつは何かがおかしい!タイラー、すぐに停止して降りろ!全員、生き埋めになっちまうぞ!」


「君達には、本当にすまないと思っている。だがこれで、私の悲願ひがんは成就する。君達とは、ここでお別れだ。もう二度と会うことも無いだろう。恨みは無いが、消えてもらわねばならない!」


 グググ……ガシーーン!!


「ぐわぁぁぁぁぁ!」


「タスク!うわわわ!」


 巨大ロボットが片足を振り上げ、床を踏み抜いた。

 崩落した地面に巻き込まれ、トール共々落下していく。


 ゴゴゴゴォォォォォン!!


 落ち行く俺達を嘲笑あざわらうように、巨大ロボットは炎を噴射させながら飛び去っていく。

 あのデカさで空まで飛ぶなんて、反則を通り越して絶望すら感じる。

 ここまで来て、何も出来なかったなんて悔しすぎる。


 落ちる……暗闇に吸い込まれていく……ちくしょう。


【究極兵器を奪われた】



"さらなる隠しダンジョン"


 気を失っていたのか、頭に何か柔らかいものが当たっている。

 トールが膝枕でもしてるのか、どうやら助かったようだな。


「すまないトール、助けてくれてたんだな。ちょっと待ってな、今明かりを……」


 自分でカンテラを使う前に、パッと当たりが明るくなる。


「ヒェッヒェ、どういたしましてタスク殿。ワシの膝枕で良く眠れたかの?」


「どわぁぁぁ!シモンじゃないか、何でこんな所に?」


 俺の頭を支えていたのは、シワシワの老婆だった。

 占い師のシモン、幾度となく占いで助けてくれた人物だ。

 それがどうしてダンジョンの下層にいるんだ。


「そう不思議なことでもないじゃろう。ワシはどこにでもおるし、どこにでも行くのじゃよ」


 確かにシモンの神出鬼没ぶりは、今に始まったことではない。

 俺の行くところには、だいたい出現してくる気がする。


「イテテ……タイラーの奴め、滅茶苦茶しやがって。トール?トールはどこいったんだ」


 ダメージを確認しながら、体を起こす。

 落ちた時にはぐれたのか、トールの姿が無い。


「心配はいらんよ、あの娘とはすぐに会えるさね。それよりもタスク殿、今度の敵は大物だねぇ」


 トールのことは気になるけど、シモンが言うのなら大丈夫なのだろう。

 根拠とかじゃなく、彼女の言葉は信用できるのだ。


「高収入ジョブにマニーで動く巨人だからな、相性がマッチしすぎてるよ。で、今回も窮地きゅうちを打開する占いをくれるんだろ?」


「ふぅむ………ほぉほぉ、なんじゃろうなこれは」


「何だよ、そんなに悪い感じなのか?」


「いやいや、今回は占いは不要じゃよ。オマイサンは、この世界で随分と成長したのじゃ。自分を信じて進めばええ。ワシはタスク殿ならやると思っとるよ」


 信じて進むって、弱小ジョブで年中金欠の自分を信じろってのか。

 でも、シモンが言うと変な説得力がある。

 勇気なんてものは、誰かが背中を押してくれて初めて起こるものだ。


「サンキューシモン、やれるだけやってみるわ。状況は最悪だけど、ここであきらめるわけにはいかないもんな。行くよ、タイラーを止めるために何度でも這い上がってやる!」


「ヒェッヒェ、良い顔になったねぇ。いいかいタスク殿、オマイサンには今まで得てきた力があるはずじゃよ。もうダメだと思った時は、もう一度数えてみるのじゃ。武器・スキル・知識、相手に勝っている物が見つかるかもしれん」


 目を閉じて、自分の中にある強みを思い返す。

 俺にはハルジオンが有り、トールとの連携で魔法が使える。

 更にルーンを駆使して戦えば、巨大兵器に対抗できるはずだ。


 目を開けると、そこにシモンの姿は無かった。


「さぁて、やるとするか!!」


【防衛大臣の暴走を止めろ!!】

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