69. Killing Machine 後編

"異世界人のラボ"


 ダンジョンの奥に続く道を抜けると、そこには研究所かと言わんばかりの部屋が待ち構えていた。

 自動で開く扉、何かが表示された液晶、LED照明、全てが現代的なもので溢れている。

 未来人でも来てたんじゃないだろうか。


「タスクタスク!ほら、床がヒンヤリしてるよ。ピカピカで綺麗だし、なんか別の世界に来たみたい」


「お、おい!だからって寝そべるなって。綺麗に見えても、床には雑菌ざっきんがウヨウヨいるんだぞ」


 ピッタリと床に顔を着けてはしゃぐトール。

 床がキンキンに冷えてやがるよー!じゃないんだ、まったくもう。

 掃除そうじする人も居ないまま、はるか長い年月を経た場所だぞ。


 ウィーン、ウィーン。


「ん、何これ?地面をうモンスターかな」


「掃除用のロボットもいるのか。道理でほこり一つ無いわけだ」


 うん、もうずっと床で寝てろ。

 人は居ないのに機械だけが存在して動く部屋。

 ここに住んでいた人は、どんな気分で毎日を過ごしていたんだろう。


「君達、何を遊んでいる。こっちに来て、これを見たまえ」


 タイラーが指差す先にはガラス張りの窓。

 そこから見えるのはミサイルのサイロみたいな空間。

 恐る恐るのぞきこんでみると、ついに目当てのものを発見した。


「巨大ロボット……壁画に描かれていた奴か」


「フレームだけで、装甲は貼られていないようだがな。これほど大きな鉄の塊が自在に動くとしたら……人々にとって、どれほどの脅威となるだろうか」


 それだけで街の一つや二つ、簡単に滅ぼしてしまうのではないだろうか。

 こんなものを、誰かに悪用されるわけにはいかない。


「さっさと壊してしまおうぜ。この窓をぶち破って、中に入るぞ!」


「やめておけ、私が本気で殴っても傷ひとつ付かない代物しろものだ。あの兵器に到達するには、ある仕掛けを解かねばならないらしい」


 まぁ、こういうのには、お決まりの展開ってやつか。

 だからこそ、今まで誰も手を出せなかったわけだし。

 タイラーに案内され、仕掛けを解くために別室へと移動する。


「さぁ、この部屋だ。ここの何処かに、兵器へと至るための鍵があるらしい」


「な、なんじゃこりゃ!」


 いくつもの宝箱が配置され、開けると中には鍵がギッシリ。

 そして奥の扉は、先程のサイロへと繋がっているのだろう。

 この中の一本が、ギミックを解くカギってわけか。


「ふーん、じゃあ手当たり次第に回していこうよ。運良く当たりを引くかもしれないし」


 トールが鍵の一本を手に持ち、扉の鍵穴へとし込む。

 この数の鍵を一本一本、全部試していくのか。

 気が遠くなりそうだ。


 ビーーー!ビーーー!


「何だ!何の警報だ?」


「鍵ガ、マチガッテイマス。ハッズレー」


 聞こえてくる電子アナウンス、何か腹立つなぁ。

 とりあえず、数撃ちゃ当たる作戦だ。


「先に言っておくが、三回間違えると、この施設ごと崩壊して、二度と開かなくなるシステムのようだぞ。私も一度間違えたので、次が最後になる」


 あっぶねぇ、鍵を挿し込むところだった。

 先に言ってねぇだろ、大惨事だいさんじになるわ。

 この数の鍵の中から、当たりを一発で見つけるなんて不可能だろ。


「これだけ強固なセキュリティなら、このまま放置しても誰も手が出せないんじゃないのか?」


「ふむ……だがもしも、一回で当たりを引く者が現れてしまったら?みすみす兵器をくれてやる事になりかねない」


 一回で当たりを引く強者になるしか無いってことか。

 宝箱は大量にあるし、鍵も百本や二百本じゃきかない。

 せめて何かヒントでもあれば。


「ん、扉の横に文字が書いてあるな。ここを作った奴が書いたものか」


『ニヒヒ、鍵が欲しいなら、宝箱をくまなく探せ、この玉抜け野郎』


「うわぁ、イラっとする感じの顔したモンスターのイラストが描いてあるや。これ、煽りだよね」


 ここの主は余程のイジワルだったようだ。

 なんと憎たらしい動物の絵だろうか。


「ふむ……異世界人である君ならば、あるいはギミックを解けるかと期待したのだが。これは難解すぎて、お手上げかもしれぬな」


 期待されてるのは嬉しいが、鍵の形状を見極めるなんて専門的な知識でもなきゃ無理だ。

 この数じゃ、一か八かで一本を選ぶわけにもいかない。

 どうする、ここまで来て手詰まりだってのか。


「ぐぬぬ、この絵がだんだん悪魔に見えてきたぜ。こうして悩んでる人間をバカにしてんだ!」


「落ち着いてタスク、ただの絵だから。でもどうする?この文章に何かヒントがあるのかな」


「鍵・宝箱・玉抜け野郎……これに共通点なんてあるのかよ!このタヌキ野郎め!……ん、タヌキ」


 ここに描かれている絵は、タヌキに見える。

 タヌキと言えば、有名なナゾナゾがあったっけ。

 確かあれは、『た』を抜くことで解読かいどくできる。


『にひひ、かぎがほしいなら、たからばこをくまなくさがせ、このたまぬけやろう』


 ここから『た』を抜くわけだから。


「誰がマヌケ野郎だクルァ!玉抜けも大概たいがい、良い感じはしなかったけどよ!」


「違う違う、その法則ほうそくに従うなら、宝箱の方を言い換えなきゃ。タスクは悪口にだけ反応しすぎだよ」


「うん?あ、そうか!空箱、空箱を探すんだ!そこに鍵があるはずだ!」


 片っ端から宝箱を開けていく。

 この中にあるはずだ、何も入ってない箱が。


 がっちゃん!


「あったぞ、この箱だ!何も入ってないけど、どうすんだこれ?」


「箱を隈なく探せって書いてあるよ。ちゃんと調べてみて」


 見た感じは、何の変哲もない宝箱に見えるが。

 箱を持ち上げ、くるくる回して眺めていると。


 チャリーン!


 箱の底が抜けて、そこから熊の装飾が施された鍵が落ちた。

 クマなく探すとクマが出てくるわけね、わかるかい。


【クマの鍵を手に入れた】


「タスク!!」


 急に部屋の中に大声が響き渡る。

 振り向くと、タイラーがトールの腕をひねり上げ、動きを封じていた。


「ご苦労だった、君達の役目はここまでだ。その鍵をこちらに渡してもらおうか」


「うぅ……タスク、ごめん」


 ガッチリと首に腕を回されている。

 タイラーがその気になれば、トールの首を折ることぐらい簡単だろう。

 やられた、俺に仕掛けを解かせるために、ここへ連れてきたのか。


【防衛大臣が裏切った】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る