69. Killing Machine 前編

『アンドロイド』とは、ロボットの一種のこと。

 用途により様々な形があるロボットの中でも、人間に近い姿をしたものの呼び名である。

 本来は機械ではなく、人工的に生み出された生命体、人造人間を指す言葉だったとされる

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



"独創のダンジョン 隠し通路"


 とんでもない大御所おおごしょと同行することになってしまった。

 防衛大臣タイラー・アンソン、話した感じでは誠実な男だが。

 政治家なんてのは平気で嘘つくって婆ちゃんが言ってたし、油断はできないな。


「ふむ、油断するなよ?ボーっと歩いてると、落とし穴に嵌まるぞ」


「え?おわぁぁぁ!」


 何で急に落とし穴が掘られてんだ。

 ストレスの無いダンジョンだと思ってたのに。


「気をつけなさい、ここはトラップがいくつか仕掛けられている。怪我は無いかね?」


「すまない、大丈夫だ。こういう不運には慣れてるから。罠まであるなんて、いよいよ臭くなってきたな」


 タイラーに力強く引っ張り上げられる。

 ゴツくも優しさのある、父親を感じる手だ。


「罠だけではないぞ。とんでもないのが徘徊はいかいしている。今の音を聞きつけて、奴が来たようだ」


 ガッシャ!ガッシャ!ガッシャ!ガッシャ!


 金属系の足音、何かが近づいてくる。

 この通路は狭くはないが、大技を撃って生き埋めになるわけにもいかない。

 できれば敵との遭遇そうぐうは避けたかったが。


「くっ!いったん逃げるか」


「もう遅い、上から襲ってくるぞ!」


 見上げると、天井に張り付く黒い影。

 メタリックなモンスターの目が赤く光り、電子音が響く。


「ピポポポポポ」


「なんだ……こいつは!」


 ギャン!!


 こちらが構える前に飛びかかってきた。

 間一髪のところで攻撃を回避し、にらみ合いが始まる。

 焦るな、まずは相手を見極めよう。


「四足歩行のロボット型モンスターか。まさか、こいつが異世界人の作った究極兵器なのか?」


「いや、侵入者迎撃用の刺客しかくといったところだ。おそらくは壁画のすみに描かれていた『ヨトゥンバイン』と呼ばれる人造モンスターだろう」


【ヨトゥンバインが現れた!】


 ヨトゥン……つんい!またクレイジーな名前を付けやがって。

 一周回って、逆にカッコよく思えてきたぜ。


「ピポポポポポ……グァンドァム!」


 ドムゥ!ドムゥ!


「ぐふぅ!」「きゃん!」


 うなり声を上げて突進してくるヨトゥンバインに、トールとセットで弾き飛ばされる。

 こいつ、思ったよりずっと速いぞ。


 ザムザザァァァ!!


 走り抜けたモンスターが、地面に爪を立てながら反転してくる。

 このままじゃ一方的に攻撃されるだけだ。


「反撃するぞ!小説家スキル『疾筆しっぴつ』。ブチかませ、トール!」


「私ののどが真っ赤に燃えるぅ!ご飯を食べろと輝き叫ぶぅ!」


 どこで覚えてきたんだ、そんなセリフ。


「いくよ!必殺のファイヤーボォォォォル!!」


 燃え盛る火炎の塊、お馴染みのファイヤーボールが敵を目掛けて一直線だ。


 ズゴッ!ズゴッ!ズゴッ!


 地面に穴掘って避けやがった、そんなの有りかよ。

 上へ下へと器用な奴だな。


「おいタイラー、ここには入ったことがあるんだろ?どうやってアイツを退しりぞけたんだ?」


「ヨトゥンバインは、音を立てなければ出てこない。戦わずに、やり過ごすのが一番だ」


 もう戦闘に入っちゃってるしな。

 なんとか倒すしか……


 ザクッ!


「アッーーーー!」


 不意に体中を駆け巡る激痛。

 油断していた所へ、下から尻を攻撃された。

 俺、このモンスター嫌い。


「あわわ!タスク、ヨモギヨモギ!」


「ムググ!ふぅ、ダメージが消えていく。どうやら、致命傷ちめいしょうは避けられたようだ」


 右の尻肉に爪が刺さっただけで済んだ。

 何とは言わないが、色んなものを失うところだったぞ。

 なんちゅう危ない攻撃してきやがる。


「地中からの攻撃なんて、どうやって対処すりゃいいんだ。勝てねぇぞ、これ!」


「ふむ、下がっているがいい。あぶり出してやろう!」


 前に出たタイラーが、右足で地面を踏みしめると。


 ピシ!バリバリバリバリ!!


 かわいた音を立てながら、岩盤が割れていく。

 政治家系ジョブはバケモノか。


「グラブロロロロロ!」


「よぉっしゃ!姿を現したな!決めるぞトール!」


 敵が空中に投げ出される。

 これで今度こそ避けることはできないはずだ。

 魔法をスクリプトにチャージし、トールの早口詠唱が始まる。


「いっけぇ!ファイヤーボォォォォル!!」


 どっかーーん!!


「ジジジ……オォォ……」


 渾身こんしんの魔法が直撃し、ヨトゥンバインが床に這いつくばった。

 プスプスと音を立て、動きは完全に止まっている。

 どうやらダメージで機能停止したようだ。


「やったなトール。しかし、こんなロボットが出てくるなんてな。いったい、どうやって作られてんだ、こいつ」


 動かなくなったヨトゥンバインを、指でつついてみる。

 金属の体と滑らかに動く四肢しし、どう考えてもオーバーテクノロジーだ。

 こんなものを作る異世界人ってのは、どんな奴だったのだろう。


「ピピピ……ヴーン!」


「何!再起動した!?」


 バクゥン!


 一瞬の油断、急に動きだしたヨトゥンバインが飛びかかる。

 四本脚でガッチリと組み付かれ、身動きが取れない。


「くっ!この!まずいぞ、この流れはヤバすぎる!」


「自爆シマス自爆シマス」


 そうなると思ったよ、なんとか振りほどかなければ。


「おーいタスクー!このままじゃ端微塵ぱみじんだよー!」


「すげぇ離れたとこから声かけるじゃねぇか!この薄情者はくじょうものめ!木っ端微塵とか言うなし!」


 トールとタイラーは、危機を察知して距離を取っていた。

 なんてこった、こんなマヌケな死に方だけはしたくなかった。


「カウントダウン60・59・58……無駄ヲ省略。10・9・8」


「おいおいおい、貴重なラスト一分をスキップすんなや!うおぉぉぉ、離れろぉぉぉ!」


 ダメだ、鉄の体はビクともしない。

 カウントが進んでしまう。


「3・2・1……自爆用ノ火薬ハ賞味期限ガ切レテイマス。交換シテクダサイ、交換シテクダサイ」


 してたまるか、どうやら火薬が古すぎて自爆できなかったようだ。

 そういえばここは、遥か昔の施設なんだっけか。


「やれやれ、どうなることかと思ったが、大丈夫かね?」


 タイラーがヨトゥンバインを引っ剥がし、これを壁に叩きつけた。

 体がバラバラになり、今度こそ完全停止したようだ。


「なぁ、あんたが最初から相手をしてれば、もっと楽に倒せたんじゃないか?」


「民事不介入が私のモットーだ。それに、敵の力を把握しないまま戦うというのは、危険をともなうのでな。戦況を細かく察知し、確実に作戦を遂行するのが防衛大臣の在り方だろう」


 ぐぅの音も出ないほどの正論だ。

 ムチャして死んだんじゃ、洒落しゃれにもならない。


「さぁ行こうか。余計な邪魔が入ったが、もう出てこないだろう。この先に、究極の兵器は眠っている」


【ヨトゥンバインを倒した】

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