68. Art is an explosion 後編

"独創どくそうのダンジョン 壁画のフロア"


 ついに辿り着いた異世界人の描いた壁画。

 ファンタジー世界には似つかわしくない形、まるでスーパーロボットだ。

 どこの世界にも、オーパーツってのがあるんだな。


「この絵だけが、他よりもやたら古いな。多分これは、ダンジョンの設備で描かれていない。それ以前から、ここにあったものだ」


「じゃあ、ダンジョンマイスターさんは、この絵を見てから、ダンジョンを作ったってことだね」


「ふむ、興味深いな。本当にこんな巨人が存在するとしたら、恐ろしいことになる」


 実物があるとは考えたくないが、ずっと昔に大暴れした歴史があるんだろな。

 そこから時代を超えて、奇跡の復活を果たす展開まで見えた。

 まぁ絶対させませんけども。


「とりあえず、一つ目の目的は達成だな。さてと……トール!」


「うん、わかってる。ゴメンね行商人さん。よいしょっとぅ!」


 バキィ!!


 トールの強烈な回し蹴りが、ジョンを弾き飛ばす。

 不意打ふいうちに面食らってはいるようだが、転倒しないあたり只者じゃない。

 だとすれば容赦ようしゃは無用、追撃を仕掛ける。


 ガギィーン!!


 ハルジオン一閃いっせん、これをジョンは腕で受け止める。

 ギリギリと響く金属音。

 そでの下に金属製の手甲を装備していたか。


「その身のこなし、ますます普通の行商人って感じじゃないよな?」


「ふむ…弱小ジョブでありながら、数多あまた修羅場しゅらばをくぐり抜けてきただけはある。さすがに伊達だてじゃない。どうして私が行商人ではないと見破った?」


「この壁画を異世界人が描いたなんて、一言も言ってねぇもん。ジョン・ドゥーエってのも偽名だろ?お前、いったい誰なんだ」


 こっちの情報をしっかり持ってるってことは、おそらく防衛大臣の手の者に違いない。

 出し抜いたつもりだったが、ばっちりマークされてたわけか。

 いったん距離を取り、いつでも魔法を使えるよう構える。


「私としたことが、うっかりしていたようだ。そのするど洞察力どうさつりょく、お見事と言うほかない。私の名は既に知っていると思うが、政治家系ジョブ『防衛大臣』タイラー・アンソン。生活を脅かす存在から、人々を守る者だ」


 タイラー・アンソン!まさかのご本人さん登場ってわけか。

 政都で俺とリアを死刑にしようとした人物。

 いきなり大ボスが現れるとは思わなかったぜ。


「なるほどな、今になって俺を始末しに来たってわけか。だが状況はこちらが有利。二対一で勝てると思うなよ?」


「ふむ、そうだな……これは失礼した。先にやるべきことがあった」


 そう言うとタイラーは膝をつき、床に頭を擦りつけた。

 この体勢はまさか、謝罪の最上級『土下座どげざ』に見えるが。


「そのせつは、まことに申し訳なかった!こちらもピリピリしていた時期で、不審な人物への警戒が強かったのだ。私も政務で手一杯だったこともあり、過激派の動きを止められなかった」


「どういうことだ?あんたが死刑を命じたんじゃないのか?」


「私の目的は危険な兵器を見つけ出し、誰かの手で悪用されぬよう、回収するか破壊するかだ。それがジャーナリストに見つかり、騒ぎになってしまった。あの後すぐに、死刑は取り下げたのだが、君達は既に政都を脱出していた」


 そういえば脱走したにも関わらず、指名手配されることもなかった。


「フォックスオードリーでの戦いも聞き及んでいる。リア君のことは……本当に残念だった。私としても後悔の念でいっぱいだ」


「ならどうして、行商人といつわって近付いた?俺達が究極兵器を探していると知っていて、利用する気だったんじゃないか?」


「君は異世界から来た人間なのだろう。もしかしたら、あの兵器を呼び覚ますかぎに成り得る存在かもしれない。だから警戒されぬよう、正体を偽った。私としては、どうしても兵器の回収がしたいのだ」


「何であんなもんが要るんだよ?政都転覆せいとてんぷくを狙ってるってのは事実なのか?」


 悪者が巨大ロボを使ってやる事なんて、破壊活動くらいなもんだ。

 この世界に、殺戮さつりく兵器なんてあっちゃいけない。


「政都の転覆はゴシップによるデマに過ぎない。極秘ではあるが、そもそも兵器の回収命令はエバー総理から出たものなのだ。なぜ必要かと問われれば………バグゼクスだよ」


「何だと!どういう意味だ!」


 異次元から来た魔獣、深層しんそうの王バグゼクス。

 パーティーが一丸となり、やっとの思いで倒した最強のボスだ。


「あのような強大な敵が、今後現れないとも限らない。るんだよ、政都を…世界を防衛するための手段が。そのためには、手持ちのカードを増やしておく必要がある。誰の手にも渡らぬよう、速やかに政都バーナルドが保管・運用しなければならないのだ」


 さすがは政治家、言うことに説得力がある。

 総理大臣のおっさんは民衆からしたわれている。

 人を相手に兵器を使ったりはしないだろう。


「その話が本当だとしてもだ、それを持つ人間に対しての抑止力よくしりょくが無い以上、悪用された時の対抗策が無い。政治家系ジョブの中にも、腹の底で何を考えているかわからない過激派もいるのだろう」


「その通りだ、だからこそ政治家系ジョブの責任は重い。私利私欲に走る者は、厳格な法によって縛り上げる。どうだろう、ここは一つ力を貸してはくれまいか?」


「言っていることはわかった。それでも、この世界にスーパーロボットってのは、何かしっくり来ない気がするんだ。もしもそれが凶悪な兵器だった場合は、問答無用でブチ壊させてもらう」


「それで構わない。こちらの手に余る物であった場合は、手間が省けるというものだ。ご協力に心より感謝する」


 ビシっとスタイリッシュに敬礼をするタイラー。

 敵だと思っていた相手と、手を組むことになるなんて。


「ねぇタスク、政治家系のジョブが出てくるかいってさ、私のセリフが極端に少なくないかなぁ。全然、出番が無いんだけど?」


「あのなトール、今はシリアスな話してるんだから、この場の空気をパーにするようなこと言うなよな」


 相変わらずマイペースなやっちゃ。

 まぁいいか、今回は大きな戦いも無く終わりそうだし。


「では案内しよう。異世界人の秘密基地へと」


 がこぉーーん!


 タイラーがダンジョンの壁に手を当てると、そこに新たな通路が現れる。

 話の展開が早くて、本当に助かるな。

 いよいよ、究極の兵器とご対面ってか。


【隠し通路を発見した】

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