68. Art is an explosion 前編

芸術げいじゅつ』とは、個性的な表現を用いて美を生み出す活動、または作品のこと。

 絵画かいが彫刻ちょうこく、工芸品の他にも、詩やダンスといった形の無い表現も含まれる。

 永い時を超えて、遥か未来で評価が上がることもあり、芸術は永遠であると言えるだろう。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



"独創のダンジョン"


 行商人のジョンに案内され、鉱業都市マインから北へと進む。

 雪深い山の中にひっそりと、そのダンジョンは存在していた。

 ここにリアが見た、異世界人の描いた壁画があるのか。


「タスク!見てこれ。ほら、入り口の壁のとこ」


 トールが指差す位置に目をやると、一枚のプレートに文字が刻んであった。


『ダンジョンに芸術を求めるのは間違っている?否!ダンジョンにこそ美を求めるべきなのだ!ここを訪れた方には、是非その目で、手で、美しさを探求してほしい   D.M』


「これは!ダンジョンマイスターのメッセージか」


 この世界の八割のダンジョンは、彼の手によるもの。

 兵器の絵を描いたのがダンジョンマイスターなら、彼は異世界人ってことになるが。


「とりあえず入ってみよう。何が出てくるかわからないし、慎重に…って待てよトール、何でズカズカ先に行っちゃってんだ!」


 トールは目をキラキラさせながら、ダンジョンの奥へと突っ走る。

 ダンジョンってのは罠が仕掛けられていたり、凶悪なモンスターが生息したりするってのに。


【ダンジョンに突入した!】


 長く薄暗い一本道、この先にいったい何が待ち構えているのか。

 一切モンスターが出てこないのも逆に不気味だ。


「気をつけろよ、こういう場所で急にモンスターが出てきたら厄介だからな。なるべく音を立てずに進むんだ」


「ねぇねぇタスク、どんな芸術が見れるか楽しみだね。絵画とか飾ってあるのかな」


「ぶえっくしょい!ちきしょう!」


「「!?」」


 急に後ろから大声が聞こえ、トールと二人で跳ね上がってしまった。

 声の主はジョン、盛大にくしゃみをぶっ放したらしい。

 いるよな、急にくしゃみするおっさん。


「やぁすまない、鼻がムズムズしていてね。おや、どうやらメインフロアに出たようだぞ」



"独創のダンジョン 作業のフロア"


 明るくて広くて壁が白い、何なんだここは。

 何も無い空間が逆に不気味だ。


「見て見て、何かの装置があるよ。よいしょっとぅ!」


「待てトール!そりゃ、どう考えても罠だろ!」


 ギュイーーン!カシャン!


 何が起こっているんだ、トールの前に四角いボードが降ってきた。

 さらにペンと電子パレットのような物が。


「すっごーい!絵が描けるよ!この板に描くと、ダンジョンの壁に反映されるみたい。タスク描いたげるね」


「おいおいおい!絵を描くのは良いけどよ、俺の手は頭から生えてねーのよ。あと胴体はどこ行ったんだよ?」


 ダンジョンの壁に巨大な変異体の俺が映し出されている。

 その構図は、もはやモンスターなのよ。

 こんな生物がいたら、ある種のホラーなのよ。


「いいかトール、輪郭りんかくを線で捉えながらサッサッと筆を入れていくんだ。んで、全体のバランスを考えながら特徴を盛っていくと」


「わぁ!私達二人が並んだ絵だ。しかも上手い!タスクってさ、わりと何でもできちゃうのに、小説だけがはかどらないのは何故なんだろう」


「グサッ!ほっとけや……別に、このぐらいの絵は練習したら描けるんだよ。昔、漫画家のアシスタントのバイトやってたからな」


 バイトで経験したことは基本的に出来る。

 だが、小説は誰かに教えてもらったりしたことは無い。

 おいそれと書けてたまるか。


「ふむ、私もやってみたぞ。絵ではなく彫刻に挑戦してみた」


「ひゃっ!」


 振り向いたトールが目を伏せる。

 そこにはたくましい肉体を持つ、全裸男の立体画像が出現していた。

 ジョンが、このダンジョンの機能で作り出したようだ。


「なるほどな。モードを変えれば、色んな作品が作れるのか。しかも出力してプリントも出来ると……ダンジョンって言うより、便利ツール満載のアトリエだな」


「冷静に分析してないで早く消してよ!ヌードはアウトだよヌードは!」


「これはすまない。裸体に耐性が無いとは思わなかった。芸術であればセーフ、とはいかないものだな」


 やれやれ、こんなお絵描きスペースで遊んでる暇は無いってのに。

 とにかく兵器の壁画を探さなければ。

 まぁ、せっかくだから描いた絵はプリントしておくけど。


 作業の間を抜けて、他のフロアも調べていく。

 回廊で繋がった、いくつかの広い部屋。

 今まで、この場所を訪れた人の作品を飾る展示室になっているのか。


 今更だが、ダンジョンマイスターは、真面目にダンジョンを作る気があるんだろうか。


「絵画や陶器はあるけど、ほとんど素人の作品ばかりだな。残念だったなジョン、持ち帰れそうな物は無さそうだぞ」


「これはこれで味があって良いものだ。正統派から奇抜な物まで、必死で何かを作ろうとしたのだろうな。値は付かないだろうがね」


 更に奥へと進むと、圧倒的に広い吹き抜け構造の部屋に出た。

 壁一面に書かれた、細かな文字や数字。

 その中央に描かれていたのは。


「これがリアの見た壁画か……」


「だいぶ古くなっちゃってるけど、描かれているのは巨人……かな」


「ほぉ、これが異世界人の遺した兵器かね」


【究極兵器の設計図を見つけた】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る