67. Impulse buying 前編

行商ぎょうしょう』とは、人のいる場所におもむき商売をする方法のこと。

 各地で様々な物を仕入れ、色々な場所で売る。

 食べ物やり物や薬など、商品は実に多種多様である。

 その昔、忍者やスパイが身を隠す手段として、行商人の姿をしていたという話もある。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



 防衛大臣タイラー・アンソンの野望を阻止すべく、ついに行動を起こした。

 カラーズの街を抜け出し、トールと二人旅。

 ピスコから拝借はいしゃくした馬にまたがり、ひたすらに北を目指す。


「トール、壁画のダンジョンへの方角は、こっちであってるのか?」


「正確な位置はわからないけど、リアは鉱業都市マインを経由していたみたい。けっこう遠いから、途中で宿をとりながらの移動になるね」


 七大都市の一つ、鉱業都市マイン。

 採掘場の上に街を作り、鉄鋼業を中心に発展した都市だ。

 まずは、そこで情報収集をしていこう。


「おぉ、なんか追放系の主人公になった気分だ。ここから強敵に挑んで、汚名を返上していく逆転劇。と言っても、自分で悪さして逃げてきたんだけども」


「妄想にひたるのはいいけどさ、ちゃんと前を見ながら走らないと…」


「ヒヒヒーン!!」


 ドシャ!!


「ほげぶっ!」


「ほらぁ、そうなると思ったよ!」


 いななく馬に振り落とされてしまった。

 なんでこう、集中力って持続してくれないんだろう。

 こんな調子じゃ、鉱業都市まで体が持たないぞ。



"鉱業都市マイン"


 いくつかの町を経て、鉱業都市へとたどり着いた。

 ピスコから頂戴したマニーがあるので、路銀に困ることはない。

 いつもチャラいくせに、こういう気遣いは抜群なんだよな。


「ところで、ここまで何日もかかってるのに、途中の記憶が無いぞ?スキップ機能でも搭載されているのか」


「それはタスクが途中の町で、記憶無くすほどお酒を飲んだからでしょ!毎度毎度、宿まで担いでいく私の身にもなってよね」


 お金があると、つい贅沢ぜいたくしてしまう。

 人としてのさが、逆らえない誘惑。

 心から反省してます。


「さぁて、壁画のダンジョンについて、聞き込みを始めるか。都市だけあって人も多いし、誰か知ってる奴いるだろ」


「初めて来るとこだけど、作業用の装置がガチャガチャにぎやかだね。ここは肉体労働系のワーカーの人数が、クーベ大陸で一番多い都市だよ。そしてクエストの過酷かこくさは随一ずいいち、そのぶん報酬も高めだから、人が集まるんだね」


 都市の下には大きな穴が空いており、資源を採掘さいくつするための設備が満載まんさいだ。

 そこら中で蒸気や煙が上がり、移動と運搬うんぱんのためのレールが縦横じゅうおうに張り巡らされている。

 レトロで未来的という、両立しそうにない世界観が混在こんざいする都市。

 これが、スチームパンクってやつか。


「手当たり次第に声をかけていこう。そこの人、この辺にダンジョンは無いか?壁に絵が描いてあるやつなんだが」


 とりあえず、道行く肉体労働者を捕まえてみる。

 重そうな資材を軽々と担ぐナイスガイだ。

 フランキーを連れてきたら喜びそうだな。


「あん?あぁダンジョンか!それよりお前、良い体してんな!ちょっと来い!」


 何ぃ!これはあれか、狭い部屋に連れ込まれて、ガチムチなワーカー達とめくるめく夜をエンジョイする流れか。

 トールを…トールだけは守らなければ。


「待て、俺にはそういう趣味は…離せ!話せばわかる!アッーーーーー!!」


【肉体労働者に連れていかれた】



「ハァ…ハァ…タスク…私もう、限界かも。はぅん!」


「俺だってヘトヘトだっての。でも、次から次へとかたいモノがいっぱい来てるぞ。早く処理しないとあふれちまう」


 ガチムチ兄貴に連れて行かれてから、かれこれ数時間が経つ。

 休む間もなく、肉体の酷使こくし強要きょうようされ、疲労困憊ひろうこんぱいだ。

 何で俺達が、こんな目に。


「すまんなぁ。手伝ってくれて助かるよ。ここ最近、やたらと忙しくてよ、鋼鉄こうてつやら鋳造品ちゅうぞうひんやらの大型発注が頻発ひんぱつしてんだ。大きな声じゃ言えねぇが、政都からの大口発注でな、戦争でもするんじゃねぇかって噂になるほどだ。だぁっはっは!」


 大声でつばを飛ばしているのは、ジョブ『現場監督げんばかんとく』のアイローン・フルメタル氏。

 黄色いバイキングヘルムを被り、職人系のワーカーを統括している人物。

 俺達を作業場に引っ張ってきた、ガチムチの兄貴だ。


「戦争って…そりゃまずいんじゃないか?」


「あくまで噂だよ。戦争なんてする相手がいねぇからな、建築けんちくやら修繕しゅうぜんやらに使うんだろ。もうすぐMAOGUNマオーガンのコンサートツアーもあるし、イベント会場に使う資材も大量に必要になるんだろ。この鉱業都市マインもツアー対象地だからな。みんな楽しみにしてるよ」


 この忙しさは、たまたま色んな方面からの需要じゅようが高まったのが原因か。

 MAOはコンサートをするためなら、手段を選ばない奴だ。

 政治家と繋がってても不思議はない。


「ちょっとぉ!サボってないで働いてよ。だいたい、なんでタスクより私の方が重たいもの運んでるのさ?普通こういう過酷な仕事は、男がやるもんでしょ?」


「しょうがないだろ、アイローンに良い体認定されたのはトールなんだから。実際、俺より力持ちじゃないか」


 バキィ!


「もう!そんなことばっかり言ってたら殴るよ?」


「殴ってから言うなよ!」


 グーで来やがったグーで。

 重いものを運びすぎて、加減がわからなくなってんじゃないか。


「だぁっはっは!元気があまっていてよろしい。その元気は仕事に注いでくれたまえ!もちろん報酬は出すし、メシもおごってやるからな!」


 ぎゅぴぃぃぃぃん!!


 おぉ?メシと聞いて、トールの目つきが変わった。

 食べ物のためならば、死をも恐れぬ声優だ、面構つらがまえが違う。


「うりゃりゃりゃりゃりゃーーー!!」


 ありゃ三人前は働いてるな。

 アイローンも目をパチクリしている。

 俺達、どんどん文化系のジョブから離れていってる気がする。


【タスク達は肉体労働に目覚めた】

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