66. Hometown Colors 後編

"フランキーのジム"


「一度パーティーを解散しようと思うんだ」


「なんだと!オマエ、またアタシらを巻き込まないように、自分で全部背負い込む気でいるんじゃないだろうな!」


 仲間思いのプラリネのことだ、そう言うであろうことはわかっていた。


「今回の相手は防衛大臣タイラー・アンソン。今のところ大きな動きは見られないが、間違いなく何か企んでるはずだ。政治家は最強ジョブの一角、防衛大臣ともなれば、組織力も圧倒的ときた」


「そんなのでアタシがビビると思ってんのかよ!そりゃ政治家に喧嘩売るなんてヤバイとは思うけど、アタシらは仲間だぞ!今までだって、散々ヤバイのとは、やり合ってきただろ!」


「まぁ聞けって。ずっと不思議に思ってたんだよ。一度は投獄されて死刑を宣告、脱獄までしたのに放置されてんだぜ。いくら政治家が忙しいからって、そこまで追い込んだ相手を簡単に許すとは思えない」


「そう言えば最近、ジムの周りに見たこと無い奴らがウロついてるな!あいつら、政都から偵察に来てるってことか!」


 おそらくは、泳がされているのだろう。

 カラーズは人の往来が激しい街だ。

 人混みにまぎれて、俺の行動を見ながら、動き出すのを待っていると見た。


「そこでだ、パーティーを一度解散して、プラリネとハーディアスには陽動作戦ようどうさくせんをしてほしいんだ。色んな場所に行って、俺が政都に何かをやらかすとか、悪評を流してくれ。出来れば、ガラの悪い連中の耳にも届くように」


 上手くいけば、政都の周辺に悪い奴らが集まってくるはずだ。

 防衛大臣なら、そいつらを無視することは出来ないだろう。


「どういうことなんだ?タスクは悪いことなんてしてないし、政都に何かしたりしないだろ!」


「よせプラリネ…タスクにも考えがある…それに良い機会だ…グルマリーに帰り…カカオの補充と…僕の装備のメンテナンスもしたい…今回もどうせ…大規模な戦いになるのだろうからな…」


 ハーディアスは理解が早くて助かる。

 大規模な戦いか、そうならないことを祈りたい。

 そのためには、タイラーに先手を打って兵器を押さえなければ。


「腹が減っては戦はできぬ、だよ。まずはご飯を食べにいこう。しばらくは一緒に食べられないしさ」


 トールが言うと、腹が減っているだけに聞こえる。

 いや、今はこのユルさを見習うべきか。

 いつでも自然体でいられるってのは、ある意味才能だと思う。


「それじゃ、レストランにでも行くか」


「やったぁ!ごっはんごっはん」


「今日はタスクの奢りだからな!」


「歯磨きを…忘れないように…」


【全員マイペースだった】



"カラーズの街 レストラン"


 昼時、多くの客で賑わうレストラン。

 俺達の囲むテーブルに、大量の料理が並ぶ。


「モグモグガツガツ!おいトール、それは俺のエビフライだぞ!返せっての」


「早いもの勝ちだもんね、パクッチョ!ほら、チョコちゃんも、しっかり食べなきゃダメだよ」


「ムググゥ!口の中に押し込むなって!ハーディ、飲み物とって!」


「もう少し…行儀よく食べられないのか…周りから…変な目で見られているぞ…」


 皿が、瞬く間に空になっていく。

 大声で喋りながら勢いよく食べる俺達の姿に、他の客はドン引きだ。

 これでいい、俺の目的は派手に目立つこと。


「最近アタシらの出番が減ってんじゃないか!?パーティー内に格差が出てるぞ!」


「そんなわけないだろ!今まで協力してやってきたんだし、リーダーってのは色々と大変なんだよ!」


「そんなこと言って、結局タスクはトールと一緒にいたいだけなんだろ!もう二人パーティーにでもしろよ!」


「べべべ、別にトールは関係無ぇよ!プラリネだって、いつもハーディアスと一緒にいるだろうが!」


 ギャイギャイとプラリネと喧嘩になっているが、これはもちろん演技だ。

 演技…だよな?本気で言ってないだろうな。


「二人とも…いい加減にしないか…これ以上言い合いが続くなら…僕は席を立つ…」


「ほら見ろ怒られた!タスクが謝ってくるまで、パーティーには戻ってやんないからな!待ってよハーディー!」


 プラリネとハーディアスが揃って店を出ていく。

 自分で言い出した作戦だが、けっこう心にくるものがあるな。

 これにてパーティーは解散、頼んだぞ二人とも。


「タスク、大丈夫?ハンバーグ食べる?」


「いや、いらない。それより、こっちも始めるぞ。覚悟はいいか?」


「待ってね。最後に、もう一品だけ…」


 カラーズの料理が名残惜しいのか、なかなか食事を終えようとしない。

 しょうがない、作戦ステップ2を強行するか。


「すぅぅ……あー!所持金がゼロだー!これはもう、逃げるしかねぇな!」


「タスク!?まだ心の準備が出来てないよ!」


 店の中がざわつき始めた。

 こうなったら、もう行くしかない。

 トールの手を掴み、店の外へと走り出す。


「無銭飲食だー!そいつらを捕まえてくれー!」


 後ろから店員の怒声が聞こえてくる。

 これでカラーズは被害者、タイラーの矛先が街に向くことはないだろう。



"カラーズの街"


 食い逃げしたら、みんなで追ってきやがった。

 トールを連れて逃げろや逃げろ。


「街に迷惑をかけないために、街に迷惑をかけるなんて、やってることメチャクチャ!」


「場合によっては、矛盾を飲みこんで行動することも必要なのさ。全部終わって帰ってきた時、俺達が極悪人になっているか、それともヒーローとして喝采を浴びているか。面白くなってきやがった!」


 さぁて、ここからどうやって逃げ切ろうか。

 とりあえず、人通りの少ない方へと走ってきたわけだが。


「よぉタスク、食い逃げだってな。飲食店をやってる者としては、ここを通すわけにゃいかねぇな」


「くっ、ピスコか…よせ、お前とは戦えない!」


 立ちはだかったのは、ジョブ『バーテンダー』のピスコだった。

 いつもはチャラけた性格だが、今日はやけに真面目な顔をしてやがる。


「やるだろうとは思っちゃいたが、とうとう一線を超えてきたな。労働者の敵め!」


「ピスコ…く、ワケを言うわけにも……ん?」


 何か今、ウインクをされたような。

 いったい何の合図なんだ。


「お前みたいなのは、カラーズにいちゃいけない!街から出ていきやがれ!いいか、北門の外に馬を二頭つないである。もちろん俺の馬だ、絶対に手を出すな」


「おい、ピスコ…いったい何の話を」


「お前はもう喋るな!それから、ここにカベルネと結婚式を挙げるために溜めたマニーがある。この金は、絶対に渡したりしないぞ!」


 話が全く噛み合っていない。

 結婚式?それはおめでとうございます。

 それどころであるか、後ろから追っ手の声が聞こえはじめた。


 どてっ!


 何だ?急にピスコが前のめりに倒れたぞ。


「ピスコ!大丈夫か?おい」


 駆け寄り抱き起こすと、ピスコはニヤリと笑った。


【タスクの所持金に200万マニー振り込まれた】


「なにぃ!」


「ククク……うわぁー!タスクに大金を奪われたー!」


 濡れ衣だ、何もしてないのに。

 いや待てよ、俺にヘイトが集まるなら好都合か。

 こいつはもしかして、俺の目的を知っていて……


「かたじけねぇ…結婚式、楽しみにしてるからな。お前の金と馬は頂いていく!」


「じゃあな親友。負けんじゃねぇぞ」


 カッコつけやがって、胸が熱いじゃねぇか。

 お前は本当に、最高のナイスガイだよ。


「いたぞー!食い逃げ犯を捕まえろー!」


 見つかったか、ここで捕まるわけにはいかない。


「うわぁぁぁ!結婚式の資金を奪われたぁ!頼むよ、あいつからお金を取り戻してくれよ!なぁなぁ!」


「お、おう…捕まえる。捕まえるから離さんか!」


 ピスコが追っ手にすがりつき、その足を止めてしまった。

 助かった、この隙に逃げてしまおう。

 ありがとな、ピスコ。


「タスク、必ずみんなで帰ってこようね。オーバーリライトは絶対に使っちゃダメだよ?」


「わかってるさ、もうズルはしない!ちゃんと実力でタイラーの野望を砕いてやる。さぁ、行くとするか!」


 見ててくれリア、今度こそ正しく、俺達の物語を描いてみせるから。


【パーティーはカラーズを旅立った】

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