55. Love will save the day 後編

「くっそー!タスク達はまだかよ。ハーディ、今何体倒した?」


「数えるのも…バカらしい…口よりも…手を動かせ…」


「フンだ!ちょっと息抜きに喋るくらい、いいじゃんか!もうクッタクタなんだよ!休ませろ!」


「モンスターに言え…更に…数が増え始めた……来るぞ!」


 ギチギチギチ!ズリズリズリ!ウニュルルルルル!!


「あー!もうダメだー!虫なんて見るのもイヤー!」


「く…万事休ばんじきゅうすか…」


【バグズワームが襲いかかってきた】


「プラリネ、ハーディアス、無事か?よく頑張ったな」


「二人共、おまたせ。ここは私に任せて!闇をがす天界てんかいほのお!レーヴァテイン!!」


 ゴォォォォォォォォォォ!!


 凄まじい火炎が、一帯を薙ぎ払った。

 そのまま群れに突っ込み、バグズワームをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 その身にフェネクスを宿したトール、行く先に道が出来ていく。


「今の私は百匹や二百匹じゃ止められないよ!悪魔の力、とくとおがませてあげるわ!」


 完全にチートだこれ、もう悪魔そのもの。

 テンションの方もハイになっちゃってんな。

 這い出すバグズワームを、寄せつけないほどの強さ。


「よし!とっておきを完成させるなら今だ!二人共、もうひと頑張りだ!」


「こうなりゃヤケクソだ!ぶっ倒れるまで付き合ってやるよ!」


「タスク…指示を出せ…」


 ヘトヘトの体にむちを打ち、奮起ふんきする仲間たち。

 なんだか、胸が熱くなってきやがったぜ。

 描いてやるよ!俺達でしか完成しない、勝利へのシナリオを。


「ハーディアスはこいつを頭に叩き込んでくれ。出来る限り細かく再現する必要がある」


「一分もらおう…完璧に…オーダーに応えてみせる…」


 取り出したスケッチブックをハーディアスに渡す。


「プラリネ、お前のチョコレートが勝負の鍵だ。最高のヤツを最強の硬度こうどで頼む!」


「まっかせろ!形は無視、品質だけに神経を研ぎ澄ませて…ショコラティエスキル『厳選げんせんチョコレートマテリアルきわみ』出てこい、最上級加工用チョコ!!」


 プラリネのスキルで、カカオを配合してチョコの塊を作る。

 まずは第一段階、これがとっておきの骨の部分だ。


「ふぇぇ…出来たぞ。全アタシの努力の結晶!」


 ピッカピカに光るチョコレートの塊が形成された。

 力尽き、その場にへたり込むプラリネ。


「よくやった、本当によく頑張ったな。お次はハーディアス、準備はいいか?」


「形は記憶した…歯科医師スキル『ドリルクラフト』…」


 キュインキュイン!ギュイィィィィィン!!


 ドリルによって削られていくチョコレート。

 ハーディアスの集中力によって、ミリ単位で正確に形が出来上がっていく。

 表面の装飾まで細かく細かく。


【とっておきの形が出来上がった】


「ぜぇ…ぜぇ…消耗が激しい。やっぱり悪魔の力を使いこなすのは……なんの!まだまだー!」


 トールの力は圧倒的だが、これだけの数を相手にするにゃスタミナが持たないか。

 力をセーブして戦えるほど器用でもないし。


「もう少しだ!耐えろトール!あとはルーンをきざめば完成…」


「待て…細部に納得がいかない部分が…ここを…こう…」


 ハーディアス、精密に作れとは言ったが、これほどしょうだったとは。

 パッと見た感じでは完成してるってのに。


「もっと…エッジを効かせるか…艶消つやけしもして…アンティーク感を…」


 はいはい、何でもいいから早くしてくれ。

 我慢だトール、ここが踏ん張りどころだからな。


「どへぇ、どへぇ…まーだー?」


 相当に息が上がってきている。


「まーだだよっと。ハーディアス、もういいんじゃないか?それをこっちに」


「まだだ…ここのバリ取りがまだ…」


「もういいから寄越よこせっての!トールが持たねぇよ!」


「よし…これで完璧だ…急げタスク…」


「お前が言うか!いや、そんなこと言ってる場合じゃない」


 あせるな、だが可及的かきゅうてきすみやかに行動しろ。

 正確に、そして大胆にブラフマンを振るい、ルーンを刻んでいく。


「できたぞトール!戻ってこい!」


 そう、これがとっておき、チョコレートで作った雷神のハンマー

 イグ樹で神の遺物アーティファクトをスケッチしたものを設計図に、みんなで形にした合体スキルだ。


【ミョルニルが完成した】


「っ!!うがぁぁ!ぐぎゅう!」


 やばい、トールが数で迫るワームに追い詰められている。

 背中の羽がじられむしられ、ボロボロになっていく。


「トール!嘘だろ?トォーーールーーー!!」


 大量のワームが群がり、トールの姿が見えなくなってしまった。

 くそ!ミョルニルが完成したってのに。


 ゴトリ…


「何だ…今、ミョルニルが勝手に動かなかったか?」




沛雨はいうの雲の一欠片ひとかけら 目覚めし空の王》


《その声はあらし その手は大地だいち その名はいかづち


《聴け あの咆哮ほうこうを 世界を震撼しんかんさせる怒りを》


なんじさばくは戦神せんじん鉄槌てっつい すなわ神罰しんばつ




 ビュン!!


 いや、気のせいじゃない。

 モンスターの群れを目掛けて飛んでいくハンマー。

 その先には……


とどろ金色こんじきの……美味しそうなハンマー!我は雷神らいじんトール!!」


 ガッシィーン!!


 トールだ、イグ樹で貰った鉄の手袋で、ガッシリとミョルニルを掴んでいる…食うんじゃねぇぞ。


「伝わる…タスクの想いが皆の力に。皆の力がミョルニルに!あらぶれいかづち逆巻さかまほのお神魔融合しんまゆうごう『ライジングミネルヴァ』」


 雷神と悪魔、相反する二つの力の融合。

 常識を遥かに超える表現力が成し得た奇跡か。

 ボロボロだったトールが、不死鳥ふしちょうのように再生していく。


 その姿は天空より舞い降りた女神そのもの。


「フェネクスとミョルニルが、お互いの力を増幅ぞうふくしあってる。魔力があふれだす!ストライクトールハンマー!!」


 バリバリバリバリ!ズガガガァーーーーン!!


 掲げたミョルニルから強烈な電撃がほとばしる。

 一瞬にして、無数のバグズワームがこんがり焼き上がった。

 今のトールは、悪魔式あくましき永久機関えいきゅうきかん搭載とうさい発電所はつでんしょだ。


「やれトール!ミョルニルなら…今のお前なら打ち崩せない壁なんて無い!ブチかましてやれ!!」


 エルフのソレガスィと、ドワーフのワッチは言っていた。

 ミョルニルはあらゆるものを粉砕し、時空すらも破壊するのだと。

 信じろ、みんなで作った希望は、本物に匹敵する!!


「すごいねタスク。本当にすごい。まさか本当に神の遺物アーティファクトを作っちゃうなんて。まるで神様みたいだよ」


 ハンマーを手でクルクルと回してみせ、天に向けて構えるトール。


「タスクがいるから戦える。タスクがいるから、何だって出来ちゃうんだよ。こんなことだって!!」


 掲げたハンマーを一気に振り下ろす。

 瞬間、パリンと音を立ててバグゼクスの作り出した異次元空間が砕け散った。

 元の世界、フォックスオードリー、残るは空から来たる災厄さいやくの使者。


混沌の太陽シャドウオブインフィニティ、こんなに近付いていたのか!まずいぞ、もう時間が無い!」


 見上げれば黒い火柱を上げる太陽。

 気象の変化か、いくつもの竜巻が起こり、地上を襲う。


「大丈夫!絶対に大丈夫!信じてタスク、私にはあれを壊せる確信がある!」


 ミョルニルを掲げたまま、飛び立つトール。

 荒れ狂う竜巻をものともせず、混沌の太陽へと一直線に飛翔していく。


「待て!トール!」


 思い込みは力、ただそれだけで、あの巨大な太陽を壊そうってのかよ。

 いくらなんでも無茶が過ぎる。

 トールの姿が吸い込まれていく、見えなくなっていく。


「トール…そんな……いくらなんでも、あの中じゃ……」



 パリパリパリ……ドドドド……ズババババン!!



「何だ、何が起こっているんだ?」


 真っ黒な太陽の中で、青白い光が漏れ出している。

 生きている?いるのかそこに!


「どりゃりゃりゃりゃるあー!発電発電発電らいらいらいぃ!こんなくす玉、パッカーンと割っちゃうんだから!究極表現力!!ラグナレクスーパーノヴァ!!!!」


 神話に言う『神々の黄昏』でも見てるのか、俺は。

 音という概念も、色という概念も認識できない。

 ただ何か禍々まがまがしい物が浄化じょうかされ、新しい太陽が生まれていくのを見ていた。


【混沌の太陽をブチ壊した!!】

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