55. Love will save the day 前編

『手作り』とは、機械などに頼らず、自力で物を作成すること。

 完成までに労力をともなうが、達成感は大きい。

 思いを込める一つの形として、手作りを選択する人も多い。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



"異次元空間"


 アスモダイにリアにと、大事な人が相次あいついで消えてしまった。

 二人の犠牲を無駄にしないためにも、俺達は絶対に立ち止まることは出来ない。

 これ以上、誰も失うことがないように。


「おいタスク!全員揃ったはいいけどよ、アイツを倒す方法はあるのかよ?原稿用紙は全部使っちまったんだろ?」


「手詰まりか…いつものように…何か作戦はないのか?」


 プラリネとハーディアスの言う通り。

 手持ちのネタはほとんど出し切ったし、アンスールも消費が激しくて、もう何度も使えない。

 どうすればいい、どうすれば。


 こちらの戦力を見直してみよう。

 チョコとドリルと声と文字。

 こんなんで何が出来るってんだ……いや。


「作戦と呼べるかはわからないが、この方法なら……聞いてくれ、これが最後の賭けだ!」


【タスクはとっておきを説明した】


「おいおい、こんな発想アリかよ。もしこれが失敗した場合は?」


「アウトだ、続く手が無い」


「形は出来るかもしれんが…予定の出力が出ない場合…」


「その時もアウト。とにかく全員の協力が重要になってくる。それぞれの能力を最大限に発揮はっきできれば…」


 全ては想像、出来るかどうかの確証も無い。

 雲を掴むような話だが、ムリにムチャを乗っけるぐらいじゃなきゃ、奇跡なんて起こらないのだ。


「みんな!何か来るよ!!」


 トールが何かに気付いた。

 まずいぞ、もう少し詳しく説明する時間が欲しかった。


 パリィーーーン!!


「見つけたぞニンゲン。そこの異端いたんを差し出すがいい」


【バグゼクスが現れた】


 リアの作った空間を破壊し、乗り込んできやがったか。


「お前の言うことは聞き飽きた!いい加減、耳にタコだってんだよ!」


「あくまでもあらがう姿勢を崩さないか。ワタシとしても、世界を滅ぼすのは不本意だが、混沌の太陽シャドウオブインフィニティは着実に衝突しょうとつの時をきざんでいるぞ」


 後ろの黒い太陽は、かなり近い位置まで接近している。

 モタモタしていたらドカン!ジ・エンドだ。

 こうなったら腹をくくるしかない。


「勝負だバグゼクス!やるぞみんな!!」


 掛け声とともに、全員で陣形を組む。


「フン…ならばとことん相手をしてやる!もはや小細工は通用しないと知るがいい!『界獣の次元ビーストディメンション』現れろ、バグズワーム!!」


 出た出た、出ましたよ。

 異次元からやってくる獣、気色悪いミミズども。

 大きいの小さいの色違い、羽や足まで生えてるのが、ウジャウジャ次元の扉からい出してくる。


「この数を相手に、どこまで戦えるか見物だな。かかれ!異次元の界獣かいじゅう達よ!」


 号令とともに、一斉にこちらへと猛進するバグズワーム。


「チョララァ!チョラァ!くっそ、これじゃキリが無いぞ?」


「く…とっておきを…使う暇も…無さそうだ…」


 なぐってもえぐっても、ファイヤーボールで焼いたとて、次々と這い出るワーム。


「奴め!消耗戦しょうもうせんに持ちこんで、タイムアップさせる気だ。くそっ、せめて前衛二人の手が空けば…」


 アンスールを使ってワームを遮断しゃだんするか?

 いや、別の場所から、また召喚されるだけだ。

 何よりも、とっておきを使う前に、ガス欠してたんじゃ洒落しゃれにもならない。


 毎度のことだが、本当に都合の良い展開ってのが来やしない。

 運命はもっと空気を読む努力をしてくれ。


「タスク、ちょっと……」


「どしたトール?今は手が離せないぞ」


「もしかしたら、時間を稼げるかもしれない」


 突拍子とっぴょうしもない事を言い出すトール。

 とは言え、状況はジリ貧。

 他に良い手も思い浮かばない。


「プラリネ!ハーディアス!しばらくワームの相手を任せていいか?」


「そんなには持たねぇぞ!帰ったらクレープおごってもらうかんな!」


「僕には…ブルーベリートッピングで…頼もうか…」


 トールに手を引かれ、その場から移動する。

 頼んだぞ、ふたりとも。


【タスクとトールが戦闘から離脱した】


「で、どうやって時間を稼ぐんだ?あの数を相手に、並のスキルじゃ歯が立たないぞ」


「うん、だからね…これを見て、タスク」


 トールがふところから取り出したのは、一本の羽だった。


「それ……フェネクスの羽。でも、魔力切れで真っ白になってるじゃないか。これじゃ悪魔の力は引き出せないだろ?」


「昔読んだ本の中にね、悪魔は人の体の一部をささげることで、魔力を回復するって書いてあったの。これもきっと、捧げ物をすることで、魔力を補充ほじゅうできるはず」


「体の一部って……何をするつもりなんだ?捧げ物なんて…」


 トールは髪留かみどめを外し、まとめていた髪を下ろした。

 ポニーテールがロングウェーブへと変わり、フワリと良い匂いがただよう。


「ずっと伸ばしてたんだけどね……アハハ、これだけ長い髪なら、きっとフェネクスの魔力も取り戻せるよ」


 トールは、子供の頃に俺が言った言葉を真に受け、髪を伸ばし続けていたのだろう。

 今まで14年間、大事にしてきた髪を……


「トール、その髪は……」


「いつか、大人っぽいお姉さんになりたくて。でも、想い入れが強すぎて、自分じゃ切れないよ」


 俺の胸に顔をうずめ、両手で髪をまとめるトール。

 小さな肩が、小刻こきざみに震えている。


「だから……タスクが切って………」


 俺が切るのか、トールの大事にしていた髪を俺が。

 いや、元はと言えば俺の言葉がきっかけだ。

 これが男の責任、美容師びようしにジョブチェンジしときゃ良かった。


「後悔しないな?いや、後悔なんて俺がさせない!」


 無言のまま、コクンとうなづくトール。

 ブラフマンの切っ先を、纏めた髪にあてがう。


「トール、帰ったらまた喧嘩けんかしようぜ。殴って蹴って…くだらないスキル合戦がっせんでもいいな」


 そしたら、今度もまた俺が負けるから。

 だから、トールの14年間を俺にくれ。

 またバカみたいな日常を取り戻そうぜ。


 ざしゅ!


 その長い髪は、驚くほど呆気あっけなくトールの頭から離れた。

 14年分の想い、長い時を一緒に過ごしてきた友。

 それが今、トールの手の中で別れを告げた。


「う…ひっぐ……うぇーん!もう髪無くなっちゃったけど、嫌いにならないでね」


 いや、坊主ぼうずになったわけじゃあるまいし。


「嫌いになんて、なるわけないだろ。子供の頃の話だぞ?好みなんて変わるさ。それに、ショートになったって、トールの魅力みりょくは変わらないよ」


「……もっと」


「え?あーっと、何て言うか…そう、可愛い!すっごい似合ってるって」


「おかわりぃ!」


「えぇ…短いほうが、洗う時に楽だろ?邪魔にもならないし……あーもう!これ以上は出てこねーわ!早よしろやワガママ声優!!」


「フンだ!こんな時くらい優しくしてくれてもいいじゃない!ひねくれ小説家!!」


 これこれ、シリアスパートが長すぎて忘れていた。

 俺達のいつものやりとり、何があっても変わらないもの。


「見ててねタスク、今までで一番の演技するから!最後まで頑張るから!」


 フェネクスの羽に反応し、手に持った髪の毛が燃え上がる。

 火花は次第に勢いを増し、火の鳥へと姿を変えていった。


表現力全開ひょうげんりょくぜんかい!!『憑依融合ポゼッション』フェネクス完全憑依形態かんぜんひょういけいたい、これが私の本気だよ!!」


【スペリオルフェニックス降臨こうりん!!】

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