53. Let's face it 前編

『おさらい』とは、教わったことを確認したり、練習したりすること。

 話がだいぶ長くなってきたが、これまでの流れをまとめると以下の通り。

 アスモダイから世界の異常はタスクが原因であることを聞かされる→学術都市に謎のモンスターぐんが現れる→トールの命を奪うためバグゼクスが復活する→世界規模の殺戮さつりくスキル『混沌の太陽シャドウオブインフィニティ』が発動する→アスモダイが命がけで、混沌の太陽を抑える→タスクが過去を巡り、バグゼクスへの対抗策を見つける。

 舞台は整った、最終決戦の開幕である。

 しかし......



 ◇◆◇◆◇◆



 "異次元空間"


 神のルーン『アンスール』によって、バグゼクスの作り出した空間への侵入に成功する。

 過去巡りの時には手も足も出なかったが、今は戦う術があるんだ。

 何よりも心強い仲間がついて……


「お前さえ、お前さえいなければダイ先生はぁぁぁ!!」


「おい、待てよヴァイル!迂闊うかつに突っ込むな!」


 静止を振り切り、真っ先に駆け出していくヴァイル。

 丸腰まるごし、ノージョブ、無鉄砲むてっぽう三拍子さんびょうし揃った大学生の攻撃を、バグゼクスはこともなげにかわす。


「何だ、コイツは?お前では話にならん!」


「うるさい!ダイ先生は全てをたくして逝かれたのだ!絶対に討ち倒してやる!」


 ブンブンと両腕を振るうも、その攻撃が当たることはない。

 人を殴ったことさえ、そうそう無いくせに。

 ダメだ、完全に冷静さを失っている。


 ズドン!!


 バグゼクスの一撃が、深々と腹部へと打ち込まれる。

 たった一発で、ヴァイルは意識を失ってしまった。

 どうやら奴は、本当に力を取り戻しているようだ。


「愚かなニンゲンよ、次元の果てへと消え去れ!」


 バグゼクスの腕が弧を描く。

 空間にポッカリと空いた穴へと、ヴァイルは吸い込まれていった。


「ヴァイルさぁーん!どうしよう、ヴァイルさんが!」


「ヴァイルー!!くそ、お前のかたきは取ってやるからな……まぁ意識無くなって異次元に飛ばされただけだし、後でひろいに行ってやればいいか。さ、始めよか」


 勝手についてきて、勝手に突っ込んだんだから、しょうがない。一手とはいえ、相手の動きが見れただけ役に立った。


「アホに出鼻をくじかれたけど、アタシの出番だ!チョララァ!」


 チョコレートを拳に纏い、プラリネが仕掛ける。


「バカめ!近接戦闘など、次元跳躍じげんちょうやくで回避すれば、どうということもない!」


 バグゼクスめ、次元の扉を開き、瞬間移動で攻撃を躱すつもりか。


「バカはてめぇだ!何度も同じ手が通用すると思うな!次元を閉じろ、アンスール!」


 跳躍に先んじて、次元の穴をふさいでしまえば、プラリネの攻撃は通るはずだ。

 このルーンは、奴にとっての天敵。


「プラリネ…連携攻撃だ…反撃の隙を…与えるな…」


 プラリネが拳で、ハーディアスがドリルで、矢継やつばやに猛攻を仕掛ける。

 次元跳躍を妨害しているので、バグゼクスは近接戦闘を受けざるを得ない。

 やれる、二人のコンビネーションで互角に戦える。


「お前が次元を開く位置が、手に取るようにわかるぜ!」


「ちっ!神のルーンを使えるようになったか。しかしニンゲン如きが、こうもオレの力に順応してくるはずが…まさか、奴の体に封印されている内に、オレの思考と同調していた?」


「クライマックスにしちゃアッサリだが、このまま押し切らせてもらうぜ!」


 物語の終盤は派手な戦闘で盛り上がるものだが、現実ではシンプルに終わる方が多い。

 こちとらトールの命がかかってるし、黒い太陽が今にも落ちてきそうなほど接近している。

 早いとこケリつけて、リアとカラーズに帰るんだ。


「やはり一番の難敵はルーン使い。それなら、まずはオマエを倒してからだ!」


 二人を振り切り、こちらに一直線に向かってくるバグゼクス。

 先に俺のアンスールを止めようってか。

 勢いよく、奴が襲いかかってきた瞬間。


「俺を狙うってのは賢い判断だ。だがよ、こっちにはコレがある……トールバリヤー!!」


「な!なにぃぃぃ!?」


 突っ立ってたトールを引き寄せ、盾として使う。

 とっさの事に動きを止めるバグゼクス。

 結局攻撃は中断、間合いを取ってのにらみ合い。


「やっぱりな、前に戦った時におかしいと思ったんだ。トールに正体を見破られて、なぜか動揺していた。その後も、トールを攻撃するチャンスは結構あったはずなのに、それをしなかった。てことはつまり…」


「コレって何よコレって!私のことアイテムか何かだと思ってる?やってること、だいぶ最低だからね?」


 ポカポカと俺の頭を殴るトール。

 攻撃は防げたが、こっちのダメージで帳消しかも。

 絶対に攻撃できないという自信があってのトールバリヤーだったのに。


「よせって、悪かったよ。つまりお前は、俺の姿をしていることで、俺の行動までトレースしてしまうんだ。だからトールを攻撃できない。俺がトールを大事に思う限りな」


「うわぁ、普通に聞いたらキュンってくる台詞なのに、さっきの行動と矛盾しすぎて、全然嬉しくないや…」


 俺に化けている以上、俺の素敵な優しさの影響を受けているはずだ

 だから自分の手を使わず、回りくどく世界とトールの命をはかりにかけ、自死に追い込もうとしたに違いない。


「フッ…オマエに封印され、オマエを知ったことで、オレには予測できない行動がインプットされていたようだ……もはやニンゲンの姿はいらぬ。ワタシの手で滅ぼしてくれるぞ!」


 コピーの姿を剥ぎ取り、本来の姿を現すバグゼクス。

 宇宙柄の全身タイツで、喋り方まで変わってやがる。


「ウォームアップタイムは終了だ!全員、気合い入れろよ!ジョブモード『ワイズマン』金欠覚悟の大放出だ!」


「「「おう!!」」」


 仕入れた原稿用紙を一挙に放出。

 更に味方のスキルをルーンで強化し、トールのスクリプトにも魔法をチャージ。

 パーティー全員本気モード、前衛二人が切り込んでいく。


「幻惑のルーンとショコラティエスキルの合体『ショコラフェイクモーション』チョララララ!!」


 幻惑のルーン『マンナズ』によって、チョコで作ったプラリネのデコイを、本物のように見せる。

 次々と作り出されるフェイクで翻弄し、持ち前のスピードで攻撃と離脱を繰り返すプラリネ。


「衝撃のルーン…ドリルとの合体スキル…『スクリュースプラッシュ』…」


 衝撃のルーン『ウルズ』を、ドリルの出力で乱射。

 ハーディアスの正確な手さばきにより、バグゼクスを追い詰めていく。


「ルーンをスキルと組み合わせるか。グリモワールでさえ発想できない戦い方だろう。だが…これならばどうだ!」


 防戦を続けていたバグゼクスが、次元スキルを使いはじめる。


「無駄ムダァ!俺がいる限り、お前は異次元に逃げることはできない!次元を閉じろ、アンスール!」


「フフフ、神の力はニンゲンが使うには、消費が激しかろう。同時に複数の次元を開けば、オマエとて対応できまい!」


 異次元空間に次々と現れる穴、そして穴。

 閉じても閉じてもキリが無い。

 この手のスキルは、奴の方が上手うわてだったか。


【神のルーンの欠点を見破られた】

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