53. Let's face it 後編

"異次元空間"


 本格的に次元スキルを多用し始めるバグゼクス。

 俺の力では、一度に全てを防ぎ切ることができない。


「フハハハハ!もはやパンチもドリルも無力だ。この空間ではワタシが王なのだ!そらそら、今度はこちらの攻撃だ!しっかりと防御するがいい」


 プラリネとハーディアスの攻撃をたくみにかわし、次元の穴から巨大な岩を出現させる。

 まずい、どっかから拾ってきた岩で、俺達を圧死させるつもりだ。


つぶれるがいい!虫けらのようにな!」


 迫りくる巨岩。

 この出所不明でどころふめいのメテオは、回避できる規模を超えている。


 ズガガガガガガ!!


「これこそ…僕の本領だろう…大きな虫歯は…けずってつらぬく!!」


 ハーディアスが、ドリルで岩へと穴を空けていく。

 マスク越しで確認はできないが、なんか楽しそうな顔してんな。


「そんでもってアタシが、特大のガナッシュゲイザーで叩き割るって寸法すんぽうだー!チョオッラァァァァァ!!」


 パキパキパキ!ぱっかーーーーん!!


 自分の体よりも、大きく作ったチョコの拳が巨大な岩を粉々に砕いた。

 ナイスコンビネーション、お前ら絶好調かよ。


「フハハ、物理攻撃だけと思うなよ!亡者達の声を聞くがいい『呪殺する次元カースドディメンション』」


 しまった、岩に隠れて狙ってやがったのか。

 バグゼクスの開けた次元から、赤黒い無数の手のようなものがプラリネへと伸びる。

 この世のものとは思えないような、悲痛な声を響かせながら。


「あぁぁぁぁ!なんだこれ!嫌だ…頭が痛いぃぃぃぃ!」


 奴のスキルを受けたプラリネが苦しみはじめる。

 物理的なダメージではない。


「痛い痛いぃ!頭が…誰かがアタシの中で苦しみながら叫んでる!うぎぃぃぃぃ!」


 頭を押さえながら、プラリネが転げ回る。

 悲痛な声を上げながら、涙が止まらない。

 いったい何をした?あのスキルはいったい。


「この次元には亡者達の意思が渦巻いている。苦しみの中で死んでいった者達の呪いの声を聞かせてやったのだ。そのムスメは、幾度いくど悲惨ひさんな死を目の当たりにし、精神が崩壊するだろう」


 死者の怨念おんねんを召喚したのか、この手の攻撃をしてくる相手は初めてだ。

 まだ子供のプラリネに、ホラー系スプラッター系はきつすぎる。


「しっかりしろ…何も聞くんじゃない...」


「あぁぁああぁぁ!!こんな酷い、怖い怖いこわいぃぃぃ!嫌だぁぁぁ!もう嫌だよぉぉぉ!」


 ハーディアスが抱き起こしてみるも、その声は届いていない。

 まずい、このままじゃプラリネの心が壊れる。

 これじゃ防ぎようが無いぞ。


「どいてハーさん!チョコちゃん、もう大丈夫だからね。声優スキル『ヒーリングボイス』チョコちゃんは元気、チョコちゃんは負けない強い子」


 トールがプラリネを抱きしめ、耳元で声をかけていく。

 これは、何の役にも立たないポンコツスキル?

 違う、精神をやす声ならば、亡者の叫びをはらえるかもしれない。


「トール…アタシ、生きてる。トールの声だけが聞こえる!心が洗われていくみたいだ!」


 よし!プラリネが正気を取り戻した。

 声優の神聖な声が、亡者の叫びに打ち勝ったんだ。


「有り得ない!これまで、歴史の中で壮絶な死を迎えた者達の叫びだ。たった一人の声如きで防げるはずがない!呪殺する次元カースドディメンション!!」


 バグゼクスが更に亡者を召喚し、トール達に迫りくる。

 解呪が出来るのはトールだけ。

 あれを食らったら終わりだ。


「大丈夫!あなた達は全員、私の声で浄化してあげるわ。スキル『エフェクトボイス』そして『ヒーリングボイス』もう、辛い思いをしなくてもいいよ!」


 聞けば昇天しそうになる美声、これにエコーまでかかって神聖さが増している。

 この声に触れた亡者が、次々と光の粒となり消えていく。

 まるで亡霊たちの頭上に現れた、美しい天使のようだ。


「呪いが癒やされていくだと!?何という声への自信、何という傲慢ごうまんな表現力。この力は常識から逸脱いつだつしている。やはりオマエは、存在すべきではない!」


「声優だからね!友達が欲しいって願いを叶えてくれたことは感謝してるよ。でもね、ドラゴンさんやタスク、みんなが命がけで戦ってくれてる。私はもう、生きることをあきらめたりしないんだ!」


 トールから強い魔力を感じる。

 生きようとする意思が、仲間を信頼する心が、声優の力を成長させるのだ。


「いくよ!ファイヤーボール進化版!なんじ黙示録もくしろくの獣、全ての魂を焼き尽くすはいにしえほのお数多あまたの伝説すらも打ち砕くドラゴンなり……アポカリプスフレイム!!」


 これは、アスモダイの支援無しでファイヤーボールを強化させたのか。

 火球はその形状を炎の竜へと変化させ、バグゼクスへと迫る。


「無駄だ、その魔法は一度防いだ。ワタシには通用しない!」


 バグゼクスの右手が弧を描き、炎は異次元空間に飲み込まれた。

 そして左手から、そのままこちらに跳ね返ってくる。

 これがある限り、魔法は完封されてしまう。


「通用するよ!竜の気持ちになって竜を演じれば、魔法を自在に操ることが出来る!グォーーーーン!」


 跳ね返ってくる魔法に、トールが声をあてる。

 するとどうだ、炎の竜は、まるで意思を持ったかのように、グネグネと軌道を変え、再度バグゼクスへと照準を定める。


「くっ!無駄だ、何度でも…」


「動き回るドラゴンを捕まえることが出来たらね!ヒュオォーーーーーン!」


「グガァァァァァァァ!!!!」


 次元の穴を全て避け、炎はついにバグゼクスに直撃する。

 やったぞ、怯んでいる今がチャンスだ。


「好機到来だ、攻撃を集中させろ!持てる力を全て、バグゼクスにぶつけるんだ!」


「チョラァァァ!!」


「うおぉぉ……」


「いっけぇぇぇ!!」


 拳・ドリル・魔法の波状攻撃、パーティープレイでつちかった最高のコンビネーションが、バグゼクスを追い詰める。

 打つ!穿つ!撃つ!間違いなくダメージを与えているのがわかる。

 勝てる、こいつさえいなくなれば、全部丸く収まるんだ。


「ぐはっ!...フフフ、優勢なくせに必死じゃないか。それは心のどこかに不安を抱えている顔だ。何に怯えているのかな?」


「うるさい!もうお前は終わりだ!俺達の攻撃を避けることもできず、次元スキルは完封。謝って二度とこっちに来ないってなら許してやるぞ?」


「ワタシは創造主そうぞうしゅの世界を守るために存在している。たとえこの身が滅ぶとしても、絶対に引くわけにはいかない!!」


 ぐっ!追い詰められながらも、この気迫きはくは何だ?

 いや、相手に気圧けおされるな。

 こいつを倒さない限り、ハッピーエンドには辿りつけない。


「何が創造主だ!そいつに会ったら言っとけ!人ひとりの才能で滅ぶ世界なんか作ってんじゃねぇってな!こいつでトドメだ!!」


 手持ちの原稿用紙ヴァルキリーを全て放出、衝撃のルーンウルズの一斉射撃で勝負を決めてやる。


「ルーン全開!紙々の速射砲ヴァルキリーラピッドファイヤ!!いっけぇぇぇぇぇ!!」


「ククク、力を全て攻撃に回したな?神のルーンとの併用へいようはできまい!」


 しまった、焦るあまりアンスールを忘れていた。

 次元跳躍したバグゼクスが、再び現れた場所は...


「パーティーを分断させてもらう!幻惑する次元ファントムディメンション!」


 目の前に現れるバグゼクス、そして新たなスキルだと!?

 奴の作り出す次元が、俺の体を飲み込んでいく。


【タスクはパーティーからはぐれた】

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