52. Over Rewrite 後編

"学術都市 フォックスオードリー"


 寝坊したせいで、期限ギリギリになってしまった。

 この気味の悪い色の空を一枚めくれば、バグゼクスの黒い太陽がギラついているのか。

 スキルを使い続けている教職ジョブの方々が心配だ。


「おおいフェルナンディーノ、グッドドギーを一つ頼むよ」

「こっちもだ、スキルの維持いじは腹が減るなぁ」


「ヘイ!よろこんで!」


 ズデッ!なんだなんだ、このダラけた状況は。

 教職ジョブ達は片手でスキルを使い、空いた手で食事を取っている。

 カフェのテンチョが、ホットドッグの出張販売までして。


「おやタスク君。戻ったかね。いやぁ、始めの内はスキルを維持するだけでも大変だったんだが、この一週間で慣れてしまってね。ご覧のとおりだ」


 あきれるほどの適応能力を見せる、ベン率いる教職ジョブ達。

 ドラゴンへの霊体支援れいたいしえんスキルを、片手間仕事で行っている。

 おい、アスモダイの遺影いえいを置くのやめろ。


「お前、物書きこの野郎!逃げ出したのかと思ったぞ!ダイ先生が命を張ったってのに、お前って奴は!」


 突っかかってきたのはヴァイルだ。

 何か悪口を言わなきゃ気が済まんのかね。

 もっとも、今回は反論できないんだけど。


「悪かったって。ちゃんと切り札持ってきたから、安心してくれ。お前のことだから、トールをバグゼクスに差し出せとか言ってると思ってたわ」


「ふん、それはダイ先生の教えに反する。それに、あいつは一応、元後輩だからな。助かる道があるなら、そのほうがいい」


「ヴァイルさんはね、タスクがいない間、父さん達のお世話をしてくれてたんだよ。カフェの移動販売も、ヴァイルさんが手配してくれたの」


 横からトールが耳打ちしてくる。

 そう言えば、ヴァイルは人を集めるのが上手かったっけ。

 意外と気配りができる奴なのかもしれない。


「だいたいお前は、見た目からして頼り無いのだ!もっとバシっと身なりをだな」


「すまんヴァイル!お前を偏見へんけんの目で見ていた。ここで言い合っていても、お前の鬱憤うっぷんは晴れないだろ。一発だ、一発殴らせてやるから、それでしまいにしよう」


「だから年上に向かってお前呼ばわりは…え、殴る?」


 急な申し出に困惑こんわくするヴァイル。

 口は悪いが、暴力は経験が無いらしい。


「ヴァイルさん…タスクを殴っていいと思ってるんですか?」


 後ろでトールがにらみをきかせている。

 今にもハイキックが飛んできそうだ。


「やめろトール、俺とヴァイルの話だ。さぁ、ドンと来い。ちょっとした罪悪感へのつぐないみたいなもんだから。これでお互いにスカっとしようや」


「う…お前には恨みがある。て、手加減はしないからな!」


 バチン!!


 痛ったぁ!まさか平手でくるとは思わなかった。

 ジンジンと頬が熱を帯びてくる。

 バッチシ目も覚めたし、気合も入ったぜ。


「タスク、大丈夫?ほっぺた真っ赤だよ。何でこんな無茶を…」


 トールが心配そうに、その冷たい手を頬に当てる。


「イテテ……あいつも、アスモダイがいなくなって、やり切れない気持ちでいっぱいなんだよ。これで、ちょっとは気が済んだだろ」


 カッコつけ過ぎたかもしれんけど。

 さて、のんびりもしていられない。

 バグゼクスを阻止するため、パーティーメンバーを集合する。


【仲間にバグゼクスへの対抗策を話した】


「つまり、その神のルーンを使えば、アイツの次元を行き来できるってことか?」


「そんなスキルは…聞いたこともないが…やれるのか…」


 未知の敵との戦い、プラリネとハーディアスが不安になるのもわかる。


「正直、俺にも使いこなせるか分からない。ぶっつけ本番の出たとこ勝負になるだろう。だから今回に限っては、無理について来いとは言えない。一度ここでパーティーを解散…」


「何言ってんだバカタスク!アタシがそんなのでビビると思ってる?要はバグゼクスをぶん殴りゃいいんだろ!」


「出たとこ勝負は…いつものことだろう…それでお前に…出来なかったことは…一つも無い…」


 二人は覚悟を決めている。

 そうだった、このメンバーは、どんな困難にも立ち向かえる。

 これが俺達の絆、最高の仲間だ。


 決戦に向けて、それぞれ準備に取り掛かる。

 相手はバグゼクスだ、ぜにが底をつくとしても、原稿用紙は大量に買い込んでおかなければ。


「ごめんなさいタスク君、ちょっと話があるのだけれど……」


 話しかけてきたのはリアだった。

 手を引かれ、人の目が無い場所へと移動する。


「あの後、これを拾ったのだけれど」


 リアが差し出してきたのは、俺が過去に物語を書いた学習帳。


「私…色々と思い出しちゃって、これはあなたが書いたのでしょう?本当はトールちゃんに…」


「それさ、リアが持っててくれないか。ずっとリアの手元にあったし、トールなら忘れてるから大丈夫」


「でも私、本当は……」


「リア、全部終わったらさ、俺とカラーズに来ないか?みんないるし、トールも喜ぶと思うんだ」


「それは嬉しいけど...聞いてタスク君!」


「ずっと一緒にいてほしい。リアが何を思い出したとしても、この想いは変わらない。トールの友達でいてほしいし、俺と……これ以上は変なフラグが立ちそうだし、答えは帰ってから聞くよ」


 リアが何かを言おうとしたが、さえぎるように会話を終わらせる。

 俺が過去を思い出したように、リアの記憶もよみがえったのかもしれない。

 なぜなら、俺達は……


「さぁ、やるとするか!バグゼクスの野郎、ひぃひぃ言わせてやるぜ!」


【最難関クエスト:バグゼクスの討伐】


 世界を焼き尽くす、黒い太陽。

 トールに絡みつく、因縁いんねんの鎖。

 ここで全てを断ち切るのだ。


「14年の時を超えて、今度こそ決着をつけてやる!折り重なる次元の壁を穿うがて、神のルーン『アンスール』うおおおっりゃー!」


 ブラフマンより放たれたルーンは、異様な空に穴をあける。

 その先に待つのは混沌こんとんの太陽、そしてバグゼクスだ。


「行くぞ!トールの未来と、ついでに世界も救ってやらい!」


「まっかせろ!アタシのこぶしでボコボコにしてやる!」


「優先順位が…お前らしいな…こんな状況でも…不思議と上手くいく気がする…」


「みんな、タスク…うん!行こう!」


「ふん、物書きばかりカッコつけるな!モタモタするんじゃないぞ!」


 アンスールで開いた空間に、一斉に乗り込む。

 もう後戻りはできない、勝つのは人か死神か。

 ………ん?今、おかしなの混じってなかったか?


「ヴァイル!?なんでお前がついて来るんだよ!」


「誰だオマエ!ぶっ飛ばしてやろうか!」


「しれっと…仲間の輪に…入っていたな…」


「うわぁ、私は全然気付かなかったや」


 ヴァイルがついてきちゃったよ。

 ワーカーでもない、ジョブもない、ただの大学生なのに。


「いや、だって…そういうノリだったじゃないか。そんなにヤバい相手だったのか?」


 そんなにヤバい相手だよ、聞いて無かったんかよ。

 スキルも使えない学生が、何の役に立つってんだ。


「まさかニンゲンごときが、次元を渡る力を操るとはな。だが、それも無駄な足掻あがきにすぎない。オレの魔力も戻り、今や絶好調だからな!」


 おいでなすったか、バグゼクス。

 相変わらず俺の顔で、偉そうに喋りやがって。

 もう出し惜しみは無しの総力戦だ。


「よぅパクリ野郎、娑婆しゃば堪能たんのうしてるみたいじゃねぇか。でもよ、外で羽を伸ばせるのは今日までだ!今度こそ俺の手で、次元の果てに送り返してやる!ついに、とうとう、やっとこさ、長かった物語にピリオドを打つ時が来た。さぁ!おっぱじめるとしようぜ!!」


【クライマックスバトル開幕!】

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